「いおりんいおりん」
「変なあだ名で呼ばないでください。私の名前は一織です」
「知ってるっつーの。ねぇ聞いてよ」
「手短にお願いしますね」
「何で?急いでんの?」
「あなたにグダグダと話されるのは時間の無駄だからです」
「うわマジ腹立つなお前。同じ事務所、しかもクラスメイトに向かって」
「事務所やクラスが同じだから何です?」
「もっと仲良くしようよ」
「結構です」
「畜生私も願い下げだバーカ!!!」
「…で、何なんですか。話さないなら帰ります」
「うるせぇこの薄情者!!!どっか行け!!!」
「わかりました」
「行くなよ!!!」
「さっきから何なんですか。本当に面倒くさい人ですね」
「いおりんは本当に冷たい人だよね。傷心中の私に気の利いた言葉をかけられないの?」
「傷心中?あなたが?」
「ええ」
「どこが傷心中なんですか」
「は?めっちゃ傷付くことがあったんですけど?見りゃわかんだろ」
「いつも通りのあなたじゃないですか」
「そう見える?お前の目悪いんじゃない?」
「あなたは頭が悪いですね。すぐにでも病院で診てもらった方がー…ああ、バカに効く薬はありませんでしたね」
「ムカつく」
「殴りかからないでください。仮にも女性でしょう」
「いいんだ。私クソらしいから」
「は?」
「クソだからっつったの」
「繰り返さなくていいです。聞いてませんし。女性なんですから言葉に気をつけてください」
「…」
「何でそこで黙るんですか」
「…嫌がらせを受けた」
「…は?」
「今日学校で、嫌がらせをされた」
「…誰に?」
「知らん。どっかのクラスの女の子」
「何故嫌がらせを受けたんです?心当たりは?」
「んー無いね。よく覚えてないけど理不尽なことベラベラ言ってた。調子乗んなよとかブスとかクソビッチとか。ビッチじゃねーし」
「…暴力は?」
「平手打ちされたよ。ドラマかよって感じだよな。ウケる」
「ウケません」
「いやマジ笑えたよ。昼休みにいきなり2、3人の女の子に呼び出しくらってさ、体育館裏に連れてかれたと思ったら10人くらいの子が待ち伏せしてて」
「…」
「んで暴言の嵐よ。一斉にギャーギャー騒ぐから何言ってんのか聞き取れなかったけどね。んで私が無反応で黙ってたら集団の真ん中にいた主犯っぽい気の強い女が『聞いてんの!?』って平手打ちしてきて。マジでドラマかっつーの。一瞬カメラ回ってんのかって疑ったわ」
「…」
「んでね、平手打ちされた直後は何されたかわからなくてボケーッとしちゃったんだけど、状況がわかってきたらだんだんムカついて来ちゃって、勢いで結構ヤバいこと言っちゃったんだよね」
「ヤバいこと?」
「『お前ら顔だけじゃなくて性格もブスかよ。こんなことで満足できるならお前らそれまでのクソ人間だから。せいぜい心は綺麗になりなよ。ブス共』」
「はぁ!?そんなこと言ったんですか…!?」
「と、心の中で叫んだのです」
「あ、ああ…口には出さなかったんですね」
「出せないよ。だってそんなこと言ったら事務所に迷惑かけるかもしれないし」
「賢明な判断ですね」
「でもね、面白いことに心の中は女の子たちに暴言ばっか吐いてたのに咄嗟に口から出たのは正反対の言葉だったんだよ」
「正反対?」
「『すみません。気に食わなかったなら謝ります。すみません』」
「…」
「何で私が謝んなきゃいけないんだよって感じだよな」
「…なまえさん」
「私が謝るばっかりだから相手も呆れたみたいで言うだけ言って帰ってった」
「なまえさん」
「何で私がこんな目に…」
「なまえさん!」
「何だよ」
「泣いてますよ」
「泣いてねーよ」
「ではその目から溢れる水は何ですか?」
「聖水」
「…馬鹿ですか」
「馬鹿だよ」
「馬鹿ですね」
「馬鹿だよ。馬鹿だから言い返せなかったんだ」
「それは違いますよ」
「?」
「あなたが馬鹿だから言い返せなかったんじゃない。言い返さなかったあなたはむしろ賢かったと言えるでしょう」
「何で?」
「それがわからないあなたは本当に馬鹿ですけどね」
「褒めるか貶すかどっちかにしろよ。交互はやめろ」
「逆上している相手に何を言い返しても火に油を注ぐだけです。あなたにどんな事情があっても、相手はそれを理解する気もありませんから。ただ自分の気が済めば良いという身勝手な理由で一方的にあなたに暴言を言い放っただけ。そんな自己中心的な人間の言うことなんて気にすることないじゃないですか。いつものあなたらしく飄々としていればいい」
「…いおりん」
「何ですか」
「すげぇよく喋ったね。噛まずに」
「私の適切なアドバイスに対してノーコメントとはいい度胸ですね。二度と喋れないようにその口を縫い付けてあげましょうか」
「やめて怖いから。でもいおりん」
「…」
「睨むなよう」
「…はぁ、まあ私の言うことを理解できないならそれで良いです。あなたの頭は特別製のようですし」
「ありがとね」
「特別製というのは決して良い意味ではありませんからね。良い加減褒め言葉と皮肉の違いに気付いてくれませんか」
「違う違う。馬鹿にされたのはわかったっつの。私がありがとねって言ったのは慰めてくれたことの方」
「…」
「本当にありがとう。嫌がらせのこと話しながら思い出してムカムカしてたけど、いおりんに慰めて貰ったらなんか腹立ててるのがバカバカしく思えてきちゃった」
「こんなことで立ち直るなんて、単純な人ですね」
「単純だよ。人間って単純なんだよ」
「あなたは特に単純ですね」
「いおりんも結構単純なところあるよ」
「あなたには負けます」
「えへへ」
「だから褒めてませんって」
「良いの。単純でいいの。だってもう全然悲しくないし、いおりんに元気付けて貰えてむしろ嬉しいくらいだもん」
「…良かったですね」
「うん!いおりんのおかげ!」
「そうですか」
「んん〜?いおりん照れてる?」
「はぁ?照れるわけないでしょう。馬鹿なこと言わないでください」
「だってお顔が真っ赤だよ」
「ありえません」
「写真撮ってあげようか?自分の目で確かめてみてよ」
「結構です」
「ほらこっち向いてよいおりん」
「嫌です」
「ねぇいおりん、こっち向いて」
「ムーニンですか私は」
「恥ずかしがらないで〜」
「うるさいです」
「いおりん可愛いねぇ」
「嬉しくないです」
「可愛い可愛い」
「…帰ります」
「え〜もう行っちゃうの?寂しいじゃん。もうちょっとお話ししようよ」
「私はあなたほど暇では無いので」
「ぶぅ〜」
「頬を膨らませないでください。リスですかあなたは」
「だってさっきまでいおりん優しかったのにまた冷たいんだもん…」
「…いつでも話くらいは聞いてあげますよ」
「本当?」
「ええ」
「本当の本当?」
「はい」
「えへへ!やった!ふふっ」
「…あなたって時々可愛いですよね」
「………え、」



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