放課後、急いで体操着に着替えて体育館にやって来た。ボールをドリブルする音とキュッキュというバッシュ特有の音が聞こえる。明星くんたちは先に行くと言っていたけど、まさかもう始まってるのかな。わあー…見学させてもらうのにいきなり遅刻なんて申し訳ない…。気付かれないようなこっそり入ろう。恐る恐る重たい扉を開けて、誰も見ていないことを確認してから音を立てないようにゆっくりと扉を閉める。ホッと胸を撫で下ろして前を向くと、いきなりガバッと人が視界に飛び込んできて目の前が真っ暗になった。

「なまえ!!!待っていたぞ!!!」
「ふぐっっ」
「あーー!!もうち〜ちゃん先輩いきなりなまえに抱きつかないでよ!離れて!!このぉ〜〜!!!」
「ハッハッハ!どうした明星?お前も抱きしめてやろうか?」
「いらないよち〜ちゃん先輩のギューなんて!俺はなまえとギューしたいの!」
「お前もサラッとセクハラ発言すんなよ、スバル…」
「あ、なまえさんどもッス。見学に来るって本当だったんですね」
「あ、高峯くんだ。よしよし」
「え…っ。あ、な、何で今撫でるんですか…?」
「守沢先輩に持ち上げられて高峯くんの頭がちょうど良い高さにあったから」
「あー!ズルい!なまえ〜俺も撫でてよ〜!」
「よしよし」
「へへっ!」
「何だ何だ?なまえは頭を撫でたいのか?なら俺の頭も撫でて良いぞ!」
「いえ、先輩は良いです」
「何故だ!?!?」
「衣更くんもよしよし」
「な、なんか流れで回ってきた感じだな…でもありがとな」
「どういたしまして。守沢先輩、そろそろ下ろしてください」
「…」
「先輩?」
「何故俺の頭は撫でられんのだ?」
「え?だって先輩ですし」
「問題ない!撫でろ!」
「ええ〜〜」
「守沢先輩キモイです」
「高峯!抜け駆けは悪の始まりだぞ!」
「初めて聞きましたよそんな言葉」
「なまえ、部長の頭も撫でてやってくれ。そしたら落ち着くと思うから。な?」
「うう〜〜ん…衣更くんがそこまで言うなら…。守沢先輩、よしよし」
「〜〜〜っっ!!!」
「うわぁ….こんなに嬉しそうなち〜ちゃん先輩初めて見た…」
「正直引きます」
「な…!う、嬉しいのだから良いだろう別に!」
「守沢先輩、そろそろ下ろしてください。腰が痛いです」
「あ、ああ…すまん」

 ようやく守沢先輩から解放されて地味に痛む腰をさすりながら体育館をぐるりと見渡す。そういえばこの体育館はバスケ部が貸しきってるのかな。バレー部とか、バトミントン部とかありそうだけど。

「普段はここで活動してるんですか?」
「いや、普段はバスケ部専用のバスケットコートを利用している。今日はなまえが見学に来ると聞いて体育館でやることにしたんだ!」
「ああ、そういえば講堂裏にありましたね。わざわざすみません」
「いや、良いんだ!どのみち今日は基礎体力作りと1on1をやろうと思っていたからな!」
「え…今日ってまさか筋トレですか…?俺帰ります…」
「何を言うか高峯!体力が無ければ試合にも出られんぞ!」
「いや俺別に試合とかどうでも良いんですけど…」
「高峯くん。私、高峯くんが頑張ってるところ見たいなぁ」
「仕方ないですね今日だけですよ」
「 ( チョロ峯… ) 」
「ねぇなまえ!筋トレは参加しなくていいと思うけど、1on1一緒にやってみない?俺となまえがペアで、サリ〜を相手にやろうよ!」
「いやそれだと2対1で俺が不利だろ!?」
「面白そうじゃないか!ではこうしよう。俺となまえが組むからお前らはまとめてかかってこい」
「何良いとこ取りしてんの!?俺が先に言い始めたんだから俺がなまえと組むの!ていうかもはやそれ1on1じゃないし!」
「俺はなまえに楽しんで貰いたいだけだ!」
「まあまあ落ち着いてください部長。スバル、お前もいちいち突っかかるなよ」
「だってーー!!!タカミンも何とか言ってよー!」
「俺を巻き込まないでくださいよ…」
「ならなまえ本人に誰と組みたいか直接聞けば良いんじゃないか?」
「おお!それもそうだな!さすが衣更だ!」
「なまえ!なまえは誰と組みたい?俺だよね?」
「なまえ!部長の俺と組んだら安心だぞ!怖いもの無しだ!」
「え、ええ?うう〜〜ん…」

 何でチーム分けでここまで揉めるんだ…?この状況で私に決定を求められても困る。選びにくい。正直誰でも良かったけど、今明星くんと守沢先輩のどちらかを取ったら余計に面倒なことになりそうだ。

「衣更くんと高峯くんがいいです」
「え、俺たちで良いのか?」
「ええ〜〜!!!じゃあ俺ち〜ちゃん先輩とペア!?やだよ絶対やだ!!」
「む、そうか…なまえは衣更と高峯を選んだか。それじゃあ仕方ないな!明星!二人で頑張ろうな!」
「うがああ暑苦しい!いちいち抱きついて来ないでよ!ただでさえ体育館の中蒸し暑いんだから!」
「はっはっは良いではないか!チームメイトなのだからな!」
「良くなーい!!」
「明星!俺たちは少し離れたところで作戦を立てよう!行くぞ!」
「うわああ!なまえ〜〜!なまえ〜〜〜〜!!」

 守沢先輩に抱えられて引きずられる明星くんはちょっとかわいそうだったけど、仕方ない。明星くんも守沢先輩もどちらも選んだら面倒なんだもん。その点衣更くんも高峯くんも平和だし、この方が安心してプレイに励める。捨てられた子犬のような目で見つめてくる明星くんを視界に入れないようにそっぽを向くと後ろから「なまえの裏切り者〜〜!!」という叫び声が聞こえた。ごめん、明星くん。

「なまえ、スバルがごめんな?いつもはあそこまで部長に対してケンカ腰じゃないんだけど、やっぱりスバルも部長もなまえを気に入ってるからお互い対抗意識を燃やしちまうんだろうな」
「俺からも謝ります。守沢先輩がすみません、なまえさん。後でよく言っておきます」
「高峯くんは本当にしっかり者だね…」
「いえ、俺もいつも振り回されてるんでたまには仕返ししてやろうかな、と。手始めに明日辺りにナスの無双乱舞でもお見舞いしておきます」
「む、無双乱舞までしなくて良いよ…?」
「高峯、部長とはユニットも同じなんだから仲良くしとけよ?」
「大丈夫ですよ。殺そうと思っても死なないんですから、あの人」
「今問題発言が聞こえたけど聞こえなかったフリしとこーっと」
「俺も」
「衣更くん本当に大変だね…?」
「はは、もう慣れたよ」

 衣更くんは自嘲気味に肩を竦めた。光のない虚ろな目をしていた。衣更くん、生徒会だけじゃなく部活でもこんなストレスを抱えていたなんて。何てかわいそうな苦労人なんだ。守沢先輩といい明星くんといい高峯くんといい、バスケ部は色々と問題があるようだ。部活が終わったら衣更くんに胃薬をあげよう。



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