「おっ。なまえ何食ってんの?」
「ポッキー。木兎も食べる?」
「食う食うー!」
「待て。等価交換だ。お前もお菓子を寄越せ」
「?無い」
「話にならん。どっか行け」
「ポッキー食わせろぉ〜〜!!!」
「やかましいどっか行け」

 木兎さんとなまえさんは相変わらずうるさい。毎日毎日飽きもせず、うるさい。特に毎週この時間に行われるミーティングではマネージャーのなまえさんが書記の役割を放棄して菓子を貪り始め、それに木兎さんが便乗するというお決まりのパターンで毎度会議は進まなくなる。我らがキャプテンがこんな不真面目で良いのか。いや、良くない。我らがマネージャーがこんな無気力で良いのか。いや、良くない。木兎さんに関してはバレーの実力を知っているから特に問題ないけど、なまえさんはマネージャーとしての自覚が足りなすぎる。もっと真剣に取り組んで貰いたいものだ。真剣にミーティングに参加してくださいと言いたい。でも言ったところで軽く流されるだけに決まってる。もうどうすれば良いんだこの人は。考えれば考えるほど頭が痛くなってくる。

「赤葦顔怖いよ。どうしたの?赤葦もポッキー食べたいの?」
「違います」
「へいへーい赤葦!お前だけポッキー貰うなんてズルイ!俺にもくれよなまえ!」
「どっちにもやらん。良いからミーティング始めろ」

 それをあなたが言うのかと疑問に思ったが、まぁ良いか。俺は聞こえないように息を吐いて資料に目を通した。

「来週行われる練習試合のことですけど、」
「木兎、シャーペン貸して。筆箱忘れた」
「じゃあポッキー貸せ」
「貸せじゃねーよ。くれの間違いだろ。やらねーし」
「一本くらい良いだろこのケチ!なまえのケチ!お前は悪魔か!悪魔でも分け合うことを学んだんだぞ!」
「悪魔じゃなくて天使だから」
「天使?え、どこどこ?」
「鼻にポッキー突っ込むぞ」
「……」

 話が進まない。資料を机に置いて他の部員に視線を送ると首を横に振られた。為す術無し、か。どうやらこの二人を除いてミーティングを進める方が良さそうだ。木兎さんには後で聞かれた範囲で答えよう。みょうじさんに関してはもう良い。マネージャーが他にもいて良かった。

「あ、これラス一だ」
「何ィ!?俺のポッキーは!?」
「残念無念また来週〜ホイホ〜イ」
「なまえのくせにポッキー全部食べやがって!!」
「私が買ったポッキーなのに?」
「そのラス一貰ったァア」
「むぐ?っ!?!?」
「え」

 瞬間、部室が静まり返った。木兎さんの信じられない行動に皆目が点になっている。どのような信じられない行動かと言うと、みょうじさんが口に咥えていたポッキーの反対側を木兎さんがぱくりと食べたのだ。つまりポッキーゲームのような状態になっている二人の顔はものすごく近い。俺は手に握っていたペンを床に落としたことにも気付かなかった。驚いた理由の一つは、まさかミーティング中に木兎さんがこんな行動を取るとは思わなかったから。二つはみょうじさんと木兎さんは付き合ってないから。そして三つ、

 みょうじさんと付き合っているのはこの俺だから。

「ちょ、ちょっと木兎!」
「あーポッキーうめー」
「信じらんない!何してんの!アホか!」
「お前がくれないからだろー!」
「だからってこんなことするかバカちんが!」

 ゴンッと木兎さんの頭にみょうじさんの拳が落ちた。木兎さんは頭を押さえながら机に突っ伏す。そしてみょうじさんは気まずそうにチラッと俺を見た。

「…」
「…」
「…」
「赤葦、これは、この馬鹿が、やったことだから」
「…はい」
「深く、捉えないでね?」
「捉えませんよ」
「ほ、ホントに?」
「はい」
「顔めっちゃ怖いよ」
「まあ、良い気分では無いです」
「ダヨネ!!!!」
「お!?なになに!?修羅場ってんの!?」
「木兎タチ悪っ」
「ある意味スゲーわ木兎」

 猿杙さんと木葉さんが口角を引き攣らせながらドン引きしている。そして憐れむような視線を俺に送った。やめてください。同情とかいらないです。

「なんか赤葦がこえーから今日はもう解散ッ!」
「木兎勝手過ぎだろ」
「結局ミーティングしてねーし」

 いち早くミーティングルームから逃走した木兎さんに続き、他の部員やマネージャーも退出した。しかしなまえさんは出て行かない。机の上に腕を組んで呆然としている。

「なまえさん」
「おう」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないわ」
「木兎さんに意地悪するからですよ」
「赤葦が意地悪って言うとなんか可愛いね」
「話を逸らさないでください」
「へいへいスンマセン」
「ポッキーくらいあげれば良いでしょう」
「だって全部食べられそうなんだもん」
「結果的に全部食べられるよりもとんでもないことされてるじゃないですか」
「…赤葦怒ってる?」
「少し」
「妬いてる?」
「…妬いてません」
「ダウト」
「本当です」
「だって木兎を見る目がめっちゃ怖かったよ」
「そんなことないです」
「あるよ」
「ないです」
「あるったらあるよ」
「ないです」
「あるったらあるの!!」
「ないです」
「もう!ああ言えばこう言う!」
「否定しかしてませんけど」
「何で妬いてくれないのー!?」
「何で妬いて欲しいんですか」
「だって愛されてるな〜って実感したいじゃん!」
「そうですか」
「冷たい!赤葦冷たいよ!じゃあ赤葦に聞くけど!!」
「はい」
「私が木兎と浮気しても何とも思わない!?」
「何とも思わないわけないじゃないですか」
「ヤキモチ妬く!?」
「ヤキモチというか…まあ良い気分では無いですね」
「さっきからそればっか言ってるけどさ、それってつまりヤキモチじゃん?」
「…」
「じゃん!?」
「…そうですね」
「ほーーっら!やっぱりさっきもヤキモチ妬いたんだ〜!赤葦かわうぃ〜〜〜っ!」
「…楽しいですか」

 ほんの少しカチンときて、咄嗟に出た声は想像以上に低かった。俺の頭を撫でていたなまえさんはピタッと動きを止めて、目を丸くしている。

「え?どうしたの赤葦」
「俺が嫌な思いをしてるのに随分楽しそうですね」
「え、えー…えっと、いや、そんなことないよ?ちゃんと反省してるよ?」
「本当に反省してるなら今後ミーティング中にお菓子を食べないって約束してください。あと木兎さんに変な絡み方しない」
「いやあっちが絡んでくるんだよ?」
「良いですね?わかりましたか?」
「いやお菓子は我慢するけど絡んでくるのは私じゃなくて木兎、」
「わからないならなまえさんとはもう口を利きません」
「わかった!わかったよぉ!もう木兎と会議中にふざけないからこっち向いてよぉ!」
「約束は守ってくださいね」
「うえええ」

 俺の冗談にグズグズ鼻を鳴らしながら半泣き状態のなまえさんの頭をよしよしと撫でると勢い良く腹に突進された。これで本当に懲りてくれたなら良いけど。なまえさんのことだから明日にはもう忘れてる気がする。

「怒った赤葦怖い…」
「それだけなまえさんを大切に思ってるってことです」
「うん………ん?赤葦今デレた?」
「デレてません」
「いや絶対デレた!!普段そんなこと言わないじゃん!!」
「いいえ違います」
「さてはお前ツンデレだな!?ヤキモチ妬きのツンデレってすごく萌えるね!!ありがとうございます!!ありがとうございます!!」
「少し黙ってください 」

 何でこんなアホみたいな人のことが好きなのか自分がよくわからなくなった。



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