「おはよう岩ちゃん!!!ついにこの日がやってきたね!!!今日はホワイトデー!!!ホワイトデーだよ!!!今日こそ俺は!!!なまえちゃんからチョコレートを貰います!!!」
「意気込んでるところ悪いがホワイトデーは男が女に贈る行事であってお前が言うそれはバレンタインだしバレンタインは一カ月前に終了してるからな」
「そんなの関係ない!!!愛があれば関係ない!!!」
「愛が無いからバレンタインも貰えなかったんだろ」
「そんなことないよ!!!なまえちゃんは照れ屋さんだからねっ!!!俺にチョコレートを渡すタイミングを見計らってたらうっかり渡し忘れちゃっただけだよ!!!」
「何でも良いけどうるせぇよ」

 朝から及川がウザい。ホワイトデーでここまで騒ぐ馬鹿は世界中探したってこいつしかいない。そんな及川が朝からこんなにはしゃぎまくっているのには馬鹿馬鹿しい理由がある。それは今からちょうど一カ月前、つまり2月14日のバレンタインのことだった。「一年ぶりのバレンタインだね!!!」と、当たり前のことを叫びながらぴょんぴょん飛び跳ねて登校していた及川は、どうやら俺のクラスメイトのみょうじなまえからチョコレートを貰うことを期待していたらしい。しかしクラスが離れている為、及川がみょうじと話したことがあるのはほんの数回で、友達とも呼べる関係ではない。それなのにバレンタインでみょうじからチョコレートを貰うと及川は何故か自信満々で宣言していたのだ。馬鹿だろ?そして結果は惨敗。義理チョコすら貰えなかったそうだ。俺はわかりきっていた結果にやっぱりなと納得していたが、及川には必ずチョコレートを貰えるという謎の自信があったため、一週間くらいガチで凹んでいた。馬鹿すぎてかける言葉もなかったのをよく覚えている。

「岩ちゃん、俺ね、考えたんだ」
「へえ。そりゃすげぇ」
「まだ何も言ってないよ!」
「うるせぇよ叫ぶな」
「みょうじさんがわざわざ俺のところまで持ってきてくれると思ってたのがいけなかったんだ!俺が貰いに行けば良いんだよね!そうなんだよね!」

 毎度のことだけど、こいつマジで思考回路ぶっ飛んでんな。

「見てて岩ちゃん!今日俺は、みょうじさんに告白する!」
「え、告白?」
「うん!」
「お前告白すんのか?」
「うん!」
「みょうじに?」
「うん!!」
「あんまり話したことないのに?」
「うん!!!」
「お前度胸あるな」

 やめとけと忠告すべきなんだろうが、これだけ目を輝かせている及川に何を言っても無駄だろう。いやマジですげぇよ。引くわ。

「あ!!!!!!」
「急に何だよ」
「前方にみょうじさん見っけ!」
「いやそんなタイミング良くみょうじが登校してくるわけ」
「あ、岩泉じゃん!」
「あったわ」

 校門前で反対方向から来る学生たちをかき分けてみょうじが俺たちに走り寄る。「今日めっちゃ冷えるね〜」とニッコリ笑った。

「おはようみょうじさん!」
「え?あ、ど、どうも…及川くん…」

 みょうじはいきなり及川に声をかけられ動揺したのか肩をビクつかせておずおずと頭を下げた。…及川、悪いことは言わねぇ。とりあえず告白はもう少し待て。よく見てみろよみょうじを。お前にチョコレートを渡す態度に見えるか?及川がみょうじに話しかける度に視線で俺に助けを求めてくるし、顔に「え、何こいつ…」って書いてある。みょうじが困ってるみたいだったから及川を肘で小突いてやめるように視線で訴えかけると、及川は「?」と頭上にクエスチョンマークを浮かべてから「あ!そっか!」と手を叩いた。

「みょうじさん!チョコレートください!」

 俺は電信柱に頭を打ち付けた。

「チョコレート…?チョコ食べたいの?」
「うん!みょうじさんの手作りの!」
「は?」
「おい及川…」
「…あの、何で私の手作り?」
「え?だって今日はホワイトデーだから!」
「おいやめろ及川」
「うん…ホワイトデーなのは知ってるしチョコは持ってきてるんだけど…」
「けど?」
「ごめん、及川くんの分は無い」
「え」

 その瞬間、及川は石像のように固まった。何度も名前を呼んでも及川から応答はない。ショックのあまり固まってしまったようだ。そんな及川をスルーして、みょうじはカバンから丁寧にラッピングされた菓子を一つ取り出した。

「はい、岩泉にあげる」
「俺?くれるのか?」
「うん。バレンタインで岩泉に渡そうと思ったんだけど、なかなかタイミング掴めなくて。結局自分で食べちゃった。だからホワイトデーでちゃんと渡そうと思って作ってきたの。あ、ビターチョコのブラウニーなんだけど、大丈夫?」
「おーサンキュ。ビターチョコなら食えるわ」
「良かったー!男の子って甘いの苦手だと思ってビターチョコにしておいたの」
「ありがとな。後で食う」
「うん!あ、及川くんごめんね!機会があれば今度作るね」

 手を合わせて謝るみょうじに及川は何も答えない。ショックから立ち直れないらしい。やれやれと呆れながら俺は受け取った菓子をカバンにしまう。と、その手を及川に掴まれた。

「ちょっと、岩ちゃん、どういうこと」
「どういうこともそういうこともねーだろ」
「何でみょうじさん俺にくれなかったのに岩ちゃんにはあげるの!?ねぇ何で!?!?」
「クラスメイトだからだろ」
「しかもバレンタインも渡すつもりだったって…!!渡すつもりだったって…!!」
「おー、それは俺も初耳だった」
「俺が待ち望んでたシチュエーションじゃん!!何で岩ちゃんなの!?何で俺じゃ無いの!?」
「お前目の前にみょうじいるぞ」
「岩泉、及川くんどうしたの」
「悪い。ちょっと情緒不安定なんだよこいつ」
「みょうじさん!!!」
「は、はい」

 及川はカッと目を見開いてみょうじの肩を掴んだ。みょうじはビックリしたのか目を丸くしている。及川はしばらく肩を掴んだまま俯いてプルプルと震えていたが、数秒後にゆっくり顔を上げた。

「俺、チョコ全般好きなんだ」
「そ、そうなんだ」
「岩ちゃんみたいにビターチョコじゃないとダメとか無いし、チョコだけじゃなくて甘いもの全般好きだし、みょうじさんから貰えるなら何だって嬉しいし、ていうかこうしてみょうじさんと話せることがすごく嬉しい」
「え、あ、そうなんだ…」
「もうこの際お菓子はいいや。あのさみょうじさん」
「は、はい」
「結婚してください」

 みょうじはドン引きした。俺もドン引きした。通りすがりの学生達もドン引きしていた。騒がしかった門前はシーンと静まり返り、冬の冷たい風が大きな音を立てて吹き抜ける。

「あの、及川くん」
「うん」
「エイプリルフールはまだだよ」
「…」

 またしても石化する及川が不憫なんだけど面白くて俺は堪らず吹き出した。ほらな、絶対こうなると思った。いきなり告白なんてしたらこうなるに決まってるだろ。アホか。

「行こうぜみょうじ」
「及川くん動かないけど平気?」
「頭冷やすにはちょうどいいだろ」
「真っ白になってるね…」
「ホワイトデーだけにな」



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