どうも、金田一です。空腹がピークを迎える午前の授業がようやく終わり、さあこれから昼飯だって時に及川さんから連絡が入った。『これからミーティングやるから国見ちゃんと一緒に来て!!!!!』とのこと。ビックリマークがやたら多い。
 それにしても昼休みにミーティングをやるだなんて、何でそんな急に。朝練の時は何も言ってなかったはず。何より送信者が及川さんという時点で嫌な予感しかしない。普段は副主将の岩泉さんから部活の連絡を受け取っているから及川さんが直々に部員を呼び出すことはごく稀だ。かなり不安を覚える。一体どんな緊急事態が発生したんだ。もしかしてあのビックリマークの多さが事のヤバさを表しているのだろうか。それほどヤバイことが起きたのだろうか。どうしよう、ますます行きたくない。

 気が乗らないけどサボるわけにもいかないので、とりあえず弁当を片手に教室を出た。そしてミーティングのことを国見に直接伝えると、予想通り国見は無言で顔を歪めた。気持ちはわかるけど遅れでもしたらもっと面倒くさいことになる。拒む国見の襟首を掴んで早足でミーティング室に向かった。




「遅くなりました。国見も一緒です」
「悪いな、金田一と国見。及川の馬鹿が急にミーティングをやるとか言い出してよ」
「はあ…」

 ミーティング室を開けると、そこには岩泉さんと花巻さん、それから松川さんの三人がいた。あれ?肝心の及川さんがいない。

「及川さんがいないみたいですけど…ていうか他の部員も…」
「ああ、及川ならさっきまでいたんだけどな。急に『5分で戻ってくるからちょっと待ってて!』って、駆け足で出てったんだよ」
「他の奴らは知らねぇな。そもそも呼んでないんじゃねーの?」
「……あの、これって部活のミーティングですよね?」
「「「知らん」」」
「「え」」

 国見の質問に先輩たちは声を揃えた。知らん、て。俺と国見は顔を見合わせて固まる。岩泉さんたちも知らない緊急ミーティングって何。やっぱり嫌な予感がする。

 あの、と俺が口を開こうとした時、「おっまたせー!」と及川さんが騒がしく扉を開いて登場した。ようやく主役が登場したところで先輩たちはため息混じりに席につく。俺と国見も後に続いた。

「いや〜急に呼び出してごめんね!みんなお昼持って来てる?食べながらで良いよー」
「及川さん、このミーティングって部活のことですよね?だったら二年生や他の部員が来てませんけど良いんですか?」
「ちっちっち!金田一、お前は何もわかってないね!」
「何も説明してねぇんだからわかるわけないだろ。アホか」
「ふっふっふ。みんなを呼び出したのは他でもない……我々の可愛いマネージャー、なまえのことだよ!」
「みょうじ?みょうじがどうしたんだよ」
「ふふふ!マッキー気になる?」
「気になるっていうか………うん、まあ気になるな」
「まっつんも気になる!?」
「おお…まぁ」
「さあて!みんな興味が湧いたところで会議を始めようか!」

 別に興味は湧いてません。とは言えないまま流れで会議が始まってしまった。

「題して!『誰がなまえちゃんの彼氏に相応しいか!』ミーティング〜!!ドンドンドンパフパフパフ〜!!」

 早速帰りたい。

「岩泉さん、何ですかこれは」
「悪いな国見。俺もわからん」
「みょうじに相応しい…」
「彼氏…」
「花巻さん、松川さん、どうして興味津々なんですか」

 及川さんが掲げた議題に岩泉さんと国見は完全に呆れている。その一方で、目を見開いた花巻さんと松川さんはテーブルに少し身を乗り出して口元で手を組んだ。何でゲンドウポーズなんですか。やめてください。

 早速ツッコミだらけの展開になってきた。とりあえず何も意見せずに時間が経つのを待とう。俺と国見は黙って頷き合った。

「今朝、なまえちゃんが言ってたんだ」
「…何て?」
「『高校生活が終わる前に彼氏を作りたい。制服デートがしたい…』って」
「おおお!」

 花巻さんが鼻息を荒げた。いや、そんな興奮するようなことじゃないと思うのですが。

「制服デートか…俺もみょうじと制服デートしてぇ」
「松川、お前真顔で何言ってんだ」
「岩ちゃんだってなまえちゃんとデートしたいくせに!」
「そーだそーだ!」
「お前らと一緒にすんじゃねぇよ!」
「隠したって無駄だぞ岩泉。お前、ホワイトデーにみょうじにお菓子あげてただろ」
「な……っ!べ、別に深いワケはねーよ!バレンタインのお返しに渡しただけだ!」
「ぷぷぷ、律儀だな〜。俺見たぞ、みょうじに渡したお返し。スゲー可愛くラッピングされてたよな。中身は何だ?チョコレートか?」
「花巻ニヤニヤすんな!!」
「確かデパ地下で買ったんだっけか?岩泉がみょうじのために長時間ガラスケース越しにお菓子を選んでたと思うと俺泣けてくるわ」
「やめ…やめろぉおお!!!」
「岩ちゃん、羞恥心によりダウン!」

 わからない。話の展開がよくわからない。恥ずかしいエピソードを暴露され、顔を真っ赤にした岩泉さんが机に勢い良く倒れこみ、震えながら息絶えた。岩泉さん、と名前を呼びながら肩を揺すると「いっそのこと殺せ…」と呟いた。何だこれ。
 何より一番理解できないのは、何故俺と国見がここに呼ばれたのかということ。及川さんたちだけで盛り上がってるし、俺と国見はいらないんじゃないか?よし、交渉してみよう。一応は会議ということらしいので、俺は発言権を主張すべく片手を挙げた。

「ハイ!金田一くん、どうぞ!」
「あの、この会議はみょうじさんに相応しい彼氏について討論することが目的なんですよね?」
「いえす」
「なら一年の国見と俺は関係無いと思うのですが…」
「…そうだぞ及川。一年生を巻き込むなよ、かわいそうだろ」

 岩泉さんが復活した。そして俺たちの肩を持ってくれていることに感激した。もう一生あなたに付いて行きたい。しかし、及川さんが俺たちをあっさり解放してくれるだろうか。岩泉さんの指摘に及川さんは「んー」と首を傾げながら顎に指を添える。そしてすぐに「それもそうだねー」と笑って返した。エーそんなあっさり。

「じゃあ二人はこの会議の司会進行ね」
「「ええ!?!?」」

 どゆこと!?!?

「何ふざけたこと言ってんだ。帰してやれよ」
「ダメよ〜ダメダメ!会議を円滑に進めるためには司会が必要でしょ?よって、金田一と国見ちゃんを司会進行に任命します。拒否権はありません」

 何てこった…司会進行なんてめんどくさい役職を押し付けられることになるなんて。こんなことになるなら黙ってれば良かった。悪い、国見。余計に面倒くさい展開になっちまった。極度の面倒くさがりなお前にとってこの展開は「えーでは司会進行をさせて頂きますのは私、国見とこちら金田一です。よろしくお願いします。早速ですが、次回から意見がある場合は先ほどの金田一のように挙手をしてください。割り込み発言は禁止です」ってノリノリじゃねぇか。

「はい!」
「花巻さん、どうぞ」
「私、花巻貫大はみょうじの彼氏に立候補します」
「はい!!!!!!」
「及川さん、どうぞ」
「異議あり!!下心丸出しのマッキーはなまえちゃんの彼氏にふさわしくないと思います!!」
「はい」
「松川さん、どうぞ」
「そういう及川もみょうじの彼氏に相応しくないと思います」
「何をう!?」
「及川さん、発言する時は挙手を」
「ぬぅ…はい!!」
「はい、及川さん」
「何故俺がなまえちゃんの彼氏にふさわしく無いんですか!?」
「はい」
「松川さん」
「存在がアウトだからです」
「ぐぁああ〜〜!!!」
「えー、及川さんの心に乱れが見えます。一度話題を変えましょう」
「国見…お前楽しんでるのか?」
「ちょっとノッてきた」

 そうですか、楽しそうで何よりです。国見が率先して司会を務めてくれているおかげで俺は見ているだけで良さそうだ。さて、弁当食べよ。

「次の議題です。第二弾は『みょうじさんへ贈る愛の言葉』で行きましょう。誰が初めに行きますか?」
「はぁい!!」
「及川さん、どうぞ」
「ごほんっ。…なまえちゃん、初めて君に会った時の第一印象は『笑顔が可愛い素敵な女の子』でした。思えば一目惚れだったのかもしれない。なまえちゃんが大好きで、時に優しく、時に意地悪までしてしまいました。それでもなまえちゃんはー…」

 え…及川さんにしてはふざけた様子もなく、まともなことを言っている。よく照れもせずにそんなことを言えるな。聞いてるこっちが恥ずかしい。

「ー…俺はこれからもなまえちゃんの笑顔を見ていたいんだ。必ず君を幸せにする。だから、俺と付き合ってください」

 言い切って、及川さんは「以上です!」と最高の笑顔を見せた。及川さんにしては普通だった。なんかもっとこう、気持ち悪いことを言うのかと思ってた。良い意味で裏切られてしまい、俺は何故か少しだけジーンとしてしまった。

「国見ちゃん!今のどう!?」
「長いです。もっと簡潔にまとめてください」

 国見ィ!お前それは無いだろ!

「ぶぅー。だってなまえちゃんに伝えたいことは沢山あるんだもん〜」
「時間が押してるんでどんどん行きます。次、誰が行きますか?」
「俺が行く」
「では花巻さん、どうぞ」

 んっんーっと大袈裟に咳払いをしてから花巻さんは立ち上がり、何故かネクタイをきつく締め直した。今の一連の動作に何の意味があったというのだ。気合いか?気合いを入れたのか?

「みょうじ」
「…」

 名前を呼んで花巻さんは黙った。そして、少し目線を下げてため息をついてから肩を竦め、「…なんか照れるな」と鼻の下に指を添えた。照れ方が古い。すると、花巻さんはスゥッと長く息を吸い込んで細く吐き出した。

「お前が好きだ」
「「「おお〜〜」」」

 何が「おお〜〜」なのかさっぱりわからない。何故か及川さんと松川さん、そして国見は花巻さんに拍手を贈った。何がそんな好評なんだ?間か?名前を呼んでから告白するまでの間の効果か?とりあえず国見の言う簡潔な告白という条件はクリアしているが、結局「好きだ」しか言ってない。それでみょうじさんが喜ぶのだろうか。

「では残すこと松川さんと岩泉さんだけになりましたが、どちらが行きますか?」
「いや…俺は別に」
「なら俺が行く」
「松川さん、どうぞ」

 松川さんは背筋をピンと伸ばし、花巻さんと同様に咳払いをした。それから「ふぅ」と短く息を吐き出し、キリッとした真剣な表情で前を向いた。おお…いつもの松川さんより男前だ。

「みょうじ。俺のために幸せになってくれ」
「「「「お、おおお〜〜」」」」

 なんか、深い!思わず俺も感嘆の声をあげた。松川さんらしくないと言えばらしくないけど。でもちょっと映画のワンシーンみたいで感動した。本気出した松川さんすげぇ。

「残るは岩ちゃんだね!」
「そろそろネタが尽きてきただろ」
「俺を超えられるかな?」

 自信たっぷりな様子で岩泉さんを早く早くと催促する及川さん達。岩泉さんは腕組みしながら眉を顰めて真剣に考え込んでいる。今まであまり乗り気を見せなかった岩泉さんがここで本気を出すなんて。岩泉さんがバレー以外で対抗意識を燃やすなんて珍しい。一体どんな言葉が飛び出すのだろうか。ミーティング室はシーン…と静まり返った。そして、カッと目を見開いた岩泉さんがゆっくり口を開く。そしてー…

 ガラガラ

「ごめーん及川!来る途中で先生に捕まっちゃってさ、遅れちゃった」
「おわあああみょうじ!?!?」
「え?何でそんなびっくりしてんの岩泉」

 なんというタイミング。ギリギリセーフだ。岩泉さんが話し出す前で良かった。岩泉さんも背中を向けて胸元を押さえている。聞かれなくて良かったと安堵しているのだろう。

「なまえちゃんおっそい!」
「めんごめんご〜」
「もう昼休み終わっちゃうよ?」
「めんごめんご〜。で?何の話し合いしてたの?大会のこと?」
「ううん。なまえちゃんに相応しい彼氏は誰かって話してた」

 及川さんそれ言っちゃって良いんですか?みょうじさんの顔見てくださいよ。「はあ?」て感じのあの顔。お気持ちよくわかります、みょうじさん。俺だってそうでしたから。部活に関係した緊急ミーティングかと思ったら、議題があれですからね。

「暇なの?君たち」
「なまえちゃんを愛することで忙しいよ」
「バレーをしろ」
「なあ、白黒つけようぜ。誰がみょうじの彼氏に相応しいか、今ここでみょうじに決めて貰おう」
「そうだね。もともとなまえちゃんに審査してもらうつもりだったし、ここでハッキリさせちゃおうか」
「待て待て、何を参考にして判断すればいいの。てかそもそも判断したくないよ。めんどくさい」
「なまえちゃん!付き合うならこの中で誰が良いですか!?」
「お前耳付いてる?」

 結局は本人に聞くんですね。会議に何の意味があったのかわからない。とりあえず松川さんがかっこよかった。以上。

「…今ここにいる中で付き合うなら誰かってこと?」
「そう!」
「岩泉」
「ぶっ!!!!」
「え!?何で岩ちゃん!?」
「断トツで岩泉。だって男前で優しいし、何事にも真剣に取り組んでるから人として素敵だと思う」
「良かったな岩泉。嬉しすぎるあまり吹き出したみたいだけど大丈夫か?」
「大丈夫じゃねぇよ!!」
「じゃあ岩ちゃん抜きで!!」
「何でだよボゲ!!」
「えー岩泉以外?」

 完全に負け惜しみだ。及川さんのことだから自分が選ばれるっていう自信があったのだろう。どこから来た自信かはわからないけど、及川さんは恐らく最下位だ。日頃の及川さんとみょうじさんのやり取りを見ていたら誰でも想像がつくだろう。みょうじさん、及川さんの扱いが雑だから。

「金田一、もうすぐチャイム鳴る」
「ああ…でも先輩たちより先に出るのは、」

 そう言いながら先輩たちの方を向くと、ダルそうに目を細めたみょうじさんとバッチリ目が合った。何故か納得したように頷くみょうじさん。

「岩泉以外なら金田一かな」
「ええ!?!?」

 みょうじさんが…俺を…?信じられない。まさか俺が選ばれるなんて。「金田一、顔真っ赤」国見、わかってる。

「金田一に負けるなんてぇ!納得いかない!俺は何位なの!?」
「圏外」
「なまえちゃんの馬鹿ぁ!!」

 ワッと泣きながら及川さんはミーティング室を飛び出して行った。取り残された俺たちはやれやれと机や椅子を所定の位置に戻す。全くとんでもない昼休みだった。大きなため息を吐いたらポンポンと背中を誰かに叩かれた。

「お疲れ金田一。あの馬鹿がごめんね」
「みょうじさん!いえ、俺たちは別に…」
「及川にはキツく言っておくよ。お昼もちゃんと取れてないでしょ?本当にごめん」
「いえ!!本当に大丈夫です!!」
「本当?」
「はい!!」
「金田一は良い子だね〜」

 背伸びをしたみょうじさんによしよしと頭を撫でられた。な、なでなでされた…!あのみょうじさんに…!こんな身長だから頭を撫でられる経験はほとんどに無い。だから死ぬほど照れた。みょうじさんだから余計に照れた。今日の疲れが今の衝撃と喜びで全部吹っ飛んだ気がする。

「ったく…及川の馬鹿のせいで昼休みが丸々潰れちまった」
「岩泉お疲れ。もっと早く止めに入れたら良かった。ごめんね」
「みょうじは何も悪くないだろ」
「なーみょうじ。俺と付き合うのはどう?」
「花巻と?無いね。花巻は友達」
「ショックだわー」
「みょうじ、俺は?」
「松川は天パ」
「待って、どういうこと?」
「それでは会議を終わります。お疲れ様でした」
「色んな意味でお疲れ様でした」



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