「黒尾くん」
「んあ?」
「この前はありがとうございます」
「………は???」

 ありがとうございます。もう一度手を合わせて仏様にお祈りする気持ちで頭を下げた。黒尾は疑問符を頭の上に浮かばせながら「何言ってんだこいつ」みたいな顔をしている。覚えがないならそれで良い。私はただデレる研磨に会わせてくれたことに感謝したいのだ。あの時の研磨は最高に可愛かった。今思い出しても鼻血出そう。

 あの夜、ホラー映画を観た恐怖と研磨のデレ発言によってなかなか寝付けなかった私だが、いつの間にか眠っていたらしく、気付けば清々しい朝を迎えていた。そして起きた瞬間、私は衝撃的な光景を目の当たりにした。なんと、あの研磨が私に抱きつきながら寝ていたのだ。甘えるように私の鎖骨部分に鼻を寄せて、規則正しい寝息を立てていた。研磨の吐息が胸元にあたって妙に緊張したけど、それ以上に込み上げる歓喜に体が震えた。研磨…子猫みたいでカワユス〜〜!!そんな萌えを経験させてくれたのは紛れもなく黒尾のおかげだ。黒尾が研磨に話した、私が隣のクラスの男子から告白されたという話のおかげで研磨のデレメーターがおそらく頂点に達したのだろう。じゃないと研磨が自ら私に擦り寄ってくることなんてない。本当にありがとうございます黒尾様。

「信じられないくらい鼻の下伸びてるぞ。さては研磨のことだな」
「へへへ」
「俺何か言ったか…?」
「うんっ」
「顔溶けてる。しっかりしろ」
「無理〜〜」

 自分でも気持ち悪いくらいデレデレだ。ゆるゆるに緩んだ頬の筋肉を引き締めようと押し上げてみたけどすぐに元の顔に戻ってしまう。だらしない顔に黒尾は口角を引きつらせた。オッケー気持ち悪いのはわかってる。

「研磨ってどうしようもなく私のこと好きだよね…ふぅ、可愛い」
「ああ、そうだな」
「私の中で黒尾の株が急上昇してんだけど。黒尾どうした?」
「お前がどうした?」
「なになに研磨って黒尾から見ても私のこと好きなの!?」
「じゃなきゃ付き合わないだろ。それに」
「それに…?」
「お前が研磨に告白する前から、あいつよく俺に相談しに来てたしな。お前のことが気になってるけどどうしたら良いかわからないって」

 これは、夢か。

「黒尾様」
「様!?」
「それは、真か?」
「真です」
「…嘘でござるよな?」
「ござらん」
「…」
「いやマジだって」
「私、今、空、飛べる」
「落ち着け」

 ホロリと涙を流した。研磨が私のことをそんなずっと想っててくれたなんて…!片思いだと思ってたよ…!告白したのも私だし、その時に研磨に言われた言葉は「俺で良いなら…」というなんとも曖昧なものだったから、かなり不安だった。でも黒尾のおかげでそれも私の杞憂に過ぎないとわかった。これ以上の幸せは、無い。

「ところでお前って研磨とどこまで進んでんだ?」
「…」

 散々持ち上げたのに容赦無く叩き落とされた。黒尾、そこに触れたらアカン。あの消極的という言葉を具現化したような人間の研磨にあんなことやこんなことができるわけがない。

「手は繋いだか?」
「それは、まぁ」
「抱きしめられたことは?」
「…だいたい私からしがみついてる」
「 ( しがみついてるのか。想像できる ) じゃあキスは?」
「………」
「…まさか」
「………ない」
「やっぱりな」



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