「おっはよ〜ん親友ちゃん」
「…何あんた…テンション高過ぎてキモいんだけど。大丈夫?」
「ノープロブレムッ!」
「朝っぱらからうるせぇな…何かあったの?」
「彼氏できた」
「ファック!!!!」
「ふははは」

 「親友ちゃんに一番に報告したかったんだよっ。幸せをおすそ分けっ!」と語尾にハートを付けてウインクしたら首を締められた。ガチギレな親友ちゃんはゴリラもびっくりなパワーを発揮する。今ゴリラと腕相撲したら間違いなく勝てるよ。ジャングルの王者になれるよ。

「このヤロ〜〜!!!私は彼氏と別れて傷心中だってのに〜〜!!!」
「良いじゃん。あいつ面長だったし」
「面長じゃねぇよ!!確かにちょっと馬に似てると思ったことあるけどそこまで面長じゃねぇよ!!」
「馬を連想するってことは相当な面長だよ。認めなよ。面長だったよあの人」
「やめてよ!!まだ好きなの!!」
「親友ちゃんはもっとイケメンがお似合いだって。月島紹介しようか?私、同じ部活だから」
「マジで?頼むわ」
「軽っ。この面食いが」
「なまえもでしょ。で、彼氏って誰?あんたが好きになるってことはやっぱイケメンなの?」
「うんっ。ちょーイケメンっ」
「その笑顔腹立つ…。バレー部の人?」
「そー。一個上の先輩」
「先輩?二年生の先輩って私二人しか知らないんだけど。誰?あの坊主の人?」
「田中さんじゃないよ」
「じゃああの小さい人?」
「ノヤっさんでも無いよ」
「は?じゃあ誰。二年生もういないじゃん」
「いや、あと三人いるからね。試合に出れてないから見たことないかもしれないけど。でも縁下先輩はいずれ出るしっ!」
「縁下?誰それ」
「これ〜」

 ふへへと口元を緩ませながらスマホの画像フォルダを開く。そして昨日撮ったばかりのはにかんだ笑顔の縁下先輩の写真を見せた。親友ちゃんはジィッと写真に穴が空きそうな程ガン見している。いやん、なんか恥ずかしい。この縁下先輩めっちゃかっこいいから壁紙にしたい。引かれそうだからやめておくけど。でもそのくらいかっこいい。パソコンのデスクトップにしようかな。

「どう?かっこいいでしょー!」
「普通」
「え?」
「普通」

 自分の耳を疑った。普通?縁下先輩の顔が普通?いやいや、ちょっと待て。とりあえず落ち着いて欲しい。そして眼科に行って欲しい。

「縁下先輩が普通なら月島なんてブスじゃん!」
「はあ!?あんた何言ってんの!?月島くんみたいな人をイケメンっていうの!!」
「縁下先輩こそイケメンだし!!」
「縁下先輩も確かに悪くはないけど普通。少なくとも私のタイプではない」
「先生ー親友ちゃんが目の具合が悪いので早退するそうです」
「目は至って正常だっつの!!」
「ていうことは頭に問題があるのか。大丈夫?」
「テメェなまえッ!!」
「みょうじさん、ちょっと」
「あっ!月島くぅ〜ん」

 いつの間にか背後に月島がいた。さっきまでゴリラみたいに荒ぶってたくせに月島の前だとコレだよ。みんな月島の外見に騙され過ぎじゃね?

「さっきそこで縁下さんに会った。みょうじさんのこと探してるみたいだったけど」
「マジでー!!ありがとう月島!!」
「別に」
「あ、ちょっとなまえちゃあん。私のこと忘れてない?紹介してくれるんでしょ?」
「あーはいはい。月島、こちら私の親友のゴリラです。女の子だからゴリエって呼んであげて」
「お前マジでぶっころ!!」
「じゃあ私、縁下先輩のところに行くから〜アディオスッ!」

 ゴリエが怒り狂ってウホウホ言ってるけど無視。縁下先輩が呼んでるんだから一刻も早く向かわなければ。授業前に縁下先輩に会えるなんて幸せ過ぎる。スピッツじゃないけど空も飛べるはずと本気で思った。スキップしながら指定された場所に行くと、大好きな後ろ姿が見えた。心の中に花が咲いたみたいにふわふわとした気持ちになって思わず両腕を広げた。

「縁下せんぱぁあ〜〜いっ!」
「あ、なまえちゃん」

 縁下先輩、好きーーッッ!!と叫びたい気持ちを抑えてピシッと背筋を伸ばした。おはようございます!と満面の笑みでお辞儀をすると、縁下先輩はクスクスと笑った。はう…かっこいい。

「月島から縁下先輩が私を探してたと聞きました!何かご用ですか?」
「んー、用って程ではないけど…」
「けど?」
「そんな大したことじゃないっていうか…」
「?」
「…聞いて呆れない?」
「呆れませんよ!何ですか?」
「うん……なまえちゃんの顔が見たいなぁって、思ってさ」

 好きです。

「ごめん、授業前なのに。迷惑だった?」
「いや、むしろありがとうございます。私も会いたかったです」
「そ、そっか。良かった」

 はにかみスマイル頂戴しました。ありがとうございます。思わずスマホで写真を撮りたい衝動に駆られたけどグッと堪えた。そんな可愛い顔して私をどうしたいの。格好良くもあり可愛いなんて縁下先輩マジ完璧。ハイ拍手。

「あ、そうだ…」
「どうしたんですか?」
「なまえちゃん、これあげる」
「…?」

 縁下先輩にビニールの袋を手渡され、首を傾げながら受け取った。何だろう。何も言わない縁下先輩が笑顔で頷いた。開けても良いってことだろうか。縁下先輩の顔と袋を交互に見てから恐る恐る袋を開いた。

「あ、」
「なまえちゃんが飲みたがってた新作の紅茶。今朝コンビニ寄ったら売ってたから」
「私に?ですか?」
「うん。喜んで貰えたかな?」

 やられた。

 完全に、撃ち抜かれた。私のハートのど真ん中を綺麗に撃ち抜いてきた。縁下先輩、あなたもしかして殺し屋?ゴルゴ的なアレなの?縁下13なの?あまりの衝撃に視界が歪んで倒れそうになった。足の裏に力をいれて踏ん張ることでなんとか転倒は免れたけど、私のアホ面までは隠せなかった。口を開けて呆然とする私の顔を見て縁下先輩は笑う。

「そんなに驚いた?大したものじゃないのに」

 驚いたってレベルじゃない。縁下先輩にこんな間抜け面見られて恥ずかしいけど、今はそんなことどうでもいい。縁下先輩が私に喜んで貰いたくて紅茶を買ってきてくれたなんて。どうしよう、なんか、泣きそう。

「もうこれ…家宝にします…飲まずに取っておきます」
「いや、飲んでね?」
「ええ…?じゃあじっくり味わうためにちびちび飲みます…」
「普通に飲んで?」

 それは無理な相談です…縁下先輩。紅茶をギュッと抱きしめて頭を下げた。バレーの試合の挨拶みたいにピシッと勢い良く。

「ありがとうございます!!ご馳走さまです!!」
「どういたしまして」
「でも私だけ申し訳ないです…縁下先輩も何か食べたいものとかありませんか?」
「んーなまえちゃんの手料理」
「ガッテン承知!!」

 こういう時に遠慮せずに本当のことを言ってくれるのは縁下先輩の良いところだ。たまにハッキリ言い過ぎて同学年のハートを抉ってるけど。主に田中さんとか。田中さんとか。

「あとさ、なまえちゃん」
「はい!」
「えっと…今日、一緒に帰ろう?…二人で」

 結婚してください。



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