休日はダラダラするに限る。ベッドの上でくつろぎながら漫画を読み、ポテトチップスをつまむ。漫画に飽きたら床下に散乱したファッション雑誌に手を伸ばす。そしてまたポテチをつまみ、ジュースを飲む。かれこれ4時間程これの繰り返しだ。最っ高。最高の休日。素晴らしい休日。両親は出かけているし、小言を言う人もいない。つまりこの家は今、楽園なのだ。
「今日はとことんダラダラするぞ〜!」
わっはっは!と高笑いしながら寝返りを打つ。見飽きた雑誌をまた床下に放り投げて、次は何しようかな〜なんて考えながら枕元の携帯を覗き込む。すると突然ピロリンと携帯が鳴り、画面の上にSNSの新着メッセージが映し出された。誰だよこのクソ忙しい時に。
丸井ブン太:『暇なう』
送り主は彼ピッピのブン太だった。なんだこのクソどうでも良いメッセージ。わざわざ私に言わなくて良いだろツイートしとけよ。あれ?ていうか休日は部活が忙しくていつも連絡が取れないのに、何で暇してんの。
『部活は?』
『幸村くんも真田も急用で部活なしになった』
『ほへ〜珍しい』
『だから暇』
『ケーキバイキングでも行けば』
『金欠』
『ウケる』
『ウケねぇよ』
『ところで私忙しいから寝るね』
『忙しいから寝るって何だよ。眠いから寝るの間違いだろぃ』
『やだぁ本音出ちった>ω<ペロォ』
『ざけんな起きて俺の相手しろ』
『やだ眠い』
『起きろ』
「寝る!!!」
『起きろ!!!』
珍しくブン太が絡んでくるからだんだん本気で眠くなってきてしまった。ベッドでくつろいでるとどうも睡魔には勝てない。うーん、瞼が重い。めんどくさいけど一応寝ることを伝えておこう。無視すると後でうるさいし。
「『寝るからまた後でね。おやす』…」
ピロリンッ
『今からお前の家行くからしくよろ^_-☆』
メッセージを送る前に連続でブン太から送られてきた。そして一瞬で目が覚めた。今からお前の家行くからしくよろ?
「いやしくよろじゃねーし!?!?」
突然の顔文字に私は完全に困惑した。そしてガバッと起き上がり、部屋を見渡す。畳まれていない洗濯物。参考書やらプリントまみれの机。何より、漫画や雑誌や衣服やゴミが散乱して足の踏み場のない床。思い返してみると、年末の大掃除以来掃除してない。更に思い返してみるとここ半年くらい友達を家に呼んでない。何故なら部屋が汚過ぎてとても友達に見せられないから。それなのに彼氏をこの汚部屋に招くの?いや無理でしょ。ていうか「お前の家に行っていい?」とかならまだしも、「お前の家に行くからしくよろ^_-☆」って。「^_-☆」って。何勝手に決めてんの。星を飛ばすな。困るだろうが。そもそもあいつうちの場所知ってんの?前に聞かれた時にこの辺〜って曖昧に教えたけど明確には伝えてないし、住宅街のど真ん中にあるうちを見つけるのは至難の技だ。いや無理だな。どうせ私の道案内に頼るつもりなんだろうけど、そうはいかないぞ。今度こそスルーしてやる。
ピロリンッ
『今お前の家の前にいる』
メリーさんかよ。
≪≪≪
「おっす。スマホ打つのめんどくさくなったから来てやったぜぃ」
「誰も頼んでないぜぃ」
「とりあえず上げてくんね?」
「良いけど通せるのはリビングまでだから」
「は?何で。お前の部屋見せろよ」
「や、無理」
「何で?」
「何でも」
「いや何でだよ。理由言えよ」
「何でもは何でもだよ。とにかくダメ」
「部屋汚ぇの?」
「ふ、ふむ〜〜ん???」
「当たりかよ」
「当たりだよ」
「つっても女子の言う汚い部屋ってたいしたことないだろぃ?」
「いやそれがね、足の踏み場もないの」
「クズ」
「クズ」
思ったより辛辣な言葉が返ってきた。ゴミを見るような目で見てくるブン太の視線に耐えかねてキッチンに逃げ込んだ。とりあえずお茶とお菓子を出して話題を変えよう。ブン太のことだから甘いもの大量に出しておけばとりあえずなんとかなるべ。
「ブン太、そこのソファに座ってて……、て、あれ?」
振り向くとブン太がいなかった。あれ、ついさっきまで私の真後ろにいたのに。あれ?ん?んん?
「ブン太ー…??」
洗面所で手を洗ってるのかな?と思い洗面所に行ってみたけどブン太はいなかった。もしくはトイレ?でもトイレは鍵がかかってないし、まず音がしない。
すると、二階でガタッと何か音が聞こえた。……も、もしかして。
「うわ!!!!想像以上に汚ぇ!!!!」
「ギェーーーーー」
私は階段を駆け上った。一段飛ばしで忍者のように軽やかに。そして勢いよく自室の扉を開け、何故か許可なく部屋に進入したブン太に掴みかかった。
「お前!!!何!!!勝手に!!!」
「いやマジで想定外だわこの汚さ。俺の部屋のが綺麗」
「話を!!!聞け!!!」
「年末の大掃除以来掃除してないだろ、お前」
「してねぇよ!!!」
「キレんなよ」
「キレるわ!!!入んなって言ったのにお前!!!」
「いやだって気になるじゃん?どんな部屋なのか」
「ほお?で、どんな部屋でした??」
「汚部屋でした」
「知ってる」
良いから早く出ろよ!と腕を引いてみてもブン太はビクともしない。まだいるつもりかよ…これ以上見るものなんて何も無いだろ…。……はっ!しまった下着出しっぱなしだった!!!洗濯物をどこかに隠さないとブン太に下着を見られてしまう。下着…どこだ下着…。
「お!下着見っけ!かわいいの付けてんじゃ〜ん」
ヒィーーーーーーッッ
「ちょ、まっっ、やめっ!見んな!!!!」
「大丈夫大丈夫、俺好みだから」
「何も大丈夫じゃない!!!」
「今日は何色?」
「誰が言うか!!!」
「っていうかお前、Dカップかよ。結構でかいな。着痩せするタイプ?」
「はわわわわ」
「なぁ、ちょっと見せて」
「何を」
「胸」
すげぇ不審者みたいな言い方で彼氏に迫られてるなう。キモい。さすがにちょっと…と手を前に出して距離を取るとブン太がにっこり笑いながらその手を握って詰めてきた。寄るな。寄るんじゃない!近付かせまいと後ずさると、積み重ねていた雑誌に思いっきり足を引っ掛けた。うそ、転ぶ。
「ぬわあーー」
「あ、オイ!」
間一髪でブン太が腰を引き寄せてくれたおかけでなんとか転倒は免れた。あっっぶね!あともう少しで倒れるだけで腹筋ができるCMみたいになるところだった。
「大丈夫か?」
「ブン太ありがと〜」
「雑誌を床に置いてるからこんなるんだよ…」
「うん…」
「なぁ」
「何。言っとくけど胸は見せないから」
「ちげーよ馬鹿。部屋掃除するぞ」
「え…」
ぬぅ?私の聞き間違いかな?今ブン太の口から掃除って単語が聞こえた気がする。いやいやいや。絶対そんなこと言わないだろブン太に限って。
「オイ、掃除するって言ってんだよ。動け」
聞き間違いじゃなかったよママン。
「ビニールテープ持って来いよ。もうこの雑誌読まないんだろぃ?だったら束ねて紙ゴミの日に出しちまおうぜ」
「あ、うん…」
「お前は洗濯物とか片付けろよ。床は俺がやるから」
「は、はい」
「ほら、早く掃除道具持って来い」
「はい」
なんか、ブン太と部屋の掃除をすることになった。ブン太ちょっと怒ってるし。何だこれ。もう私の胸への興味なんてこれっぽっちも見せねぇしな。何だこれ。とても恥ずかしい。
「お前これに懲りたら日頃から部屋は綺麗にしとけよ」
「はい、ごめんなさい」
「わかれば良し。これが終わったらスマブラしよーぜ」
「健全かよ」
「何?ヤラシイことしたいって?」
「言ってない」