「て、手塚。これ…チョコなんだけど、今年は本命なんだ!!!」
「うーん、普通だね。却下」
「……手塚!これ昨日一生懸命作ったんだけど、あの、えっといろいろこだわりがあって、まずチョコレートは高級な板チョコを使用してて、」
「長そうだから却下。次」
「………て、手塚。これチョコレートなんだけど、別にあんたのために作ったとかじゃなくて、友達用に作った余りであって、別に本命とかじゃないんだから!!」
「大本命なのに何で嘘つくの?」
「キィイーーッッ!!不二テメェ!!じゃあ何て言えば良いんだよぉ!!ていうか楽しんでるだろお前!!」
「君のためだよ。クスッ」
「最後の微笑でお前が楽しんでることがよくわかったわ。死ね」

 2月14日。バレンタインデー。これまで友チョコしか渡したことのない私が、ついに本命のチョコを渡す決意をした。相手は言わずもがな幼馴染の手塚である。これまでも友チョコと言って手塚には毎年チョコレートを渡していたけど、今年はいよいよ告白を添えようと思う。と、昼休みに不二に言ったら「じゃあ練習しようか」と謎の提案をされて現在に至る。そしてこの驚きの辛口評価。告白する前にこんな挫折感を味わうことになるとは思わなかった。

「ツンデレは良い線行ってたと思うよ。でも相手はあの手塚だからね。ツンデレ効果は期待できないよ」
「はっ…!そうだ、そうだった。前に調理実習で作ったお菓子あげる時に照れ隠しで『失敗したからやるよ!』って投げつけたら真に受けて落ち込んでたことがあったわ。あれは笑った」
「笑ったらダメでしょ」
「いや笑うでしょ。しょんぼりした手塚なんて笑うしかない」
「…本当に手塚のこと好き?」
「好き。そういう冗談通じないところが」
「ああ、なるほど」

 冗談通じな過ぎて「こいつ実は馬鹿なんじゃね?」って思ったことが何度かあるけど、それも手塚らしくて私は好きだ。勉強も出来てテニスも出来る秀才くんかと思えばちょっと天然が入ってるとか何それ可愛い大好き。と、片思いし続けて早五年。五年だ。いくらなんでも長すぎる。ここまで待った私がついに告白の決意をしたのには理由がある。それは、手塚が近いうちにドイツに留学するかもしれないからだ。もしそうなったら離れ離れになってしまう。もしかしたら、私の片思いは叶わずに消滅してしまうかもしれない。それは絶対に嫌だ。少しでも手塚が私の気持ちに気付いているならまだ良い。でも手塚に限ってそれは絶対に無いのだ。何故なら彼は天然だから。超天然だから。手塚にとって私はただの幼馴染でしかない自信がある。だからフられる覚悟もある。だけど、何も伝えずに終わるのだけは悲しい。だから告白するのだ。五年目を迎えた今日、想いを吹っ切るためにも手塚に正面からぶつかってやる。

「で、肝心の告白は何て言うつもり?」
「うーん…普通に。好きだよ、とか?」
「それじゃダメだよ。手塚には伝わらない」
「うぅ〜〜ん…」
「仕方ない。僕が一肌脱ぐよ」
「は?いやいいよ。不二何するかわからな…………わかった、わかったから開眼しないで怖いから」
「じゃあ深呼吸して」
「は?」
「いいから」

 言われた通り深呼吸した。何のための深呼吸なのか疑問符が拭いきれない。でも心なしか肩の力が抜けた気がする。緊張してたのか、私。

「落ち着いた?」
「うん。でも何のために?」
「このために。手塚、入って良いよ」

 不二が教室の扉に向けて少し大きな声を出した。ていうか待って、今手塚って言った?違和感を覚えた次の瞬間、扉の奥から手塚が登場した。わお。こりゃ大変。

「急に呼び出すなんて珍しいな。どうしたんだ、不二」
「うん、みょうじさんが手塚に話があるんだって。体育館の裏で」

 何でわざわざここから遠い体育館の裏をチョイスしたのかわからないし思いっきりベタな展開になってきた。何だこれ。ワケわかんないぞ。

「話?ここでは話せないのか?」
「それは無理なんだ。彼女は体育館の裏じゃないとダメなんだって」

 言ってねーけどそんなこと。とツッコミを入れようとしたら「そうか。ならば行こう」と安定の手塚でしたどうもありがとうございます。手塚、お前やっぱり馬鹿だわ。でも悪いのは手塚じゃない。

「不二…」
「大丈夫。いつも通りの君で」

 さっき散々ダメ出ししてたじゃん…。不二に目で訴えかけてから手塚の後に続いて教室を出た。どうしよう、何も告白のセリフが思いつかない。体育館の裏まであと一分くらいしかないのに、どうやって頭の中を整理したらいいのかわからない。混乱している内に体育館が見えてきた。詰んだわ。私の五年間の片思いが終わる。

「みょうじ」
「お、おおう、何?手塚」
「今日はバレンタインデーだな」
「…」

 思わず間を置いてしまった。まさか手塚の口からバレンタインデーという単語が出て来ようとは。とりあえず落ち着こう。普通に返そう。

「うん、そうだね」
「毎年、お前は俺のためにチョコレートを用意してくれたな」
「えーと、うん、他の友達にも用意したけどね」
「お前からのチョコレートは毎年とても楽しみにしていた」
「ええ…ああ…そう……ん?」

 なんかちょっと嬉しい…と喜んだのも束の間。楽しみにしていた、という過去形に違和感を感じた。

「えと…手塚、今年も」
「みょうじ、毎年美味しいお菓子をありがとう」
「う、うん。いやあのね?今年もちゃんと」
「だから今年は俺がお前に贈ろう」
「は?」

 いきなりくるりと振り向いた手塚は胸元から小さな箱を取り出した。何だこれ。お菓子?手塚が私に?逆チョコ?急展開過ぎてちょっと混乱している。どうリアクションして良いのかわからなくなって箱と手塚の顔を交互に見ることしかできない。手塚は至って真剣な表情だ。これは私が貰って良いものなの…?遠慮がちに差し出された箱を受け取って、少し頭を下げた。

「あ、ありがとう」
「喜んで貰えると嬉しいんだが」
「チョコでしょ?嬉しいよ」
「いや、チョコレートじゃない。開けて見てくれ」
「え、うん」

 チョコじゃないんだ。じゃあクッキーかな?期待と不安を少しずつ抱きながら、可愛らしくラッピングされた箱を開けた。そして中を見た瞬間、私は衝撃のあまりハッと口元に手を当てた。

「ね、ねねね、ね、これ」
「落ち着けみょうじ。噛んでいるぞ」「ね、ね、ね、ネックレス!?」
「ああ。気に入ってくれたか?」
「ネックレスゥ!?!?」
「だからそうだと言っているだろう」

 ネックレスだった。箱の中身はお菓子類ではなくネックレスだった。手塚が私にネックレスをプレゼントするなんて、一体何が起きた。手塚の身に何が起きたらネックレスを渡す気になるのだ。困惑と歓喜と謎で頭が痛くなってきた。

「不二にアドバイスをしてもらったんだ」
「ふ、不二?」
「ああ。今年は俺から渡すのが良いと言われた。あとは菓子ではなく身につけられる装飾品の方が女子は喜ぶと」
「…このネックレスは手塚が選んでくれたの?」
「ああ。他の色と悩んだがそれが一番お前に似合っている思った。爽やかな水色がお前らしい」

 ふ、と手塚が微笑む。顔がカァーっと熱くなった。こんなに嬉しかったのは手塚と同じ青学に進学が決まった時以来かもしれない。

「ありがとう、手塚」
「ああ。是非使って欲しい」
「もちろん!本当に可愛い…」

 淡い水色に輝く花のネックレスはすごく私の好みだ。何より手塚が私のために選んでくれたという事実が嬉しい。宝物にしよう。もう一度お礼を言うと手塚は薄く微笑みながら頷いた。…い、今だ!チョコを渡すなら今しかない!右手にある紙袋をおそるおそる持ち上げる。

「えと、手塚、これ…」
「ん?ああ、今年も用意してくれたんだな。ありがとう」
「うん。…でもね、今年は特別だよ」
「…特別?」
「えと、」
「ああ」
「うう…」
「?みょうじ?」
「ううう…あー!!」

 やっぱり告白は無理だ。

「何だ急に。大声を出して」
「何でも無いよ!!」
「何を怒っているんだ」
「怒ってないよーーー!!」

 羞恥心に勝てなくて呆気なく告白を断念した。マジ無念1000%だわ。いや2000%だわ。不二に何て言われるだろう。手塚にもアドバイスしてくれてたみたいだし、これじゃ協力してくれた不二に申し訳ない。でも今は告白できない。ホワイトデーまでには気持ちをまとめておこう。はぁ、と思わず吐き出した大きなため息は昼休みの終わりを告げるチャイムの音で掻き消された。

「授業が始まるな。行こう」
「…うん」
「そうだ。言い忘れていた」
「ん?何?」
「お前が好きだ。みょうじ」



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