可愛いって罪だよねと呟いたら友達に病院に行けと言われた。切ない。

「みょうじさーん!!」

 昼休みに渡り廊下を歩いていたら前方から手をブンブン振りながら駆け寄ってくるオレンジ髪の男子 ( 名前は忘れた ) に満面の笑みで名前を呼ばれた。スルーしてそのまま気付かないフリをしようと廊下の角を曲がったら手首を掴まれて阻止された。あれ、結構距離あったと思ったんだけだなぁ。こいつ足速ぇ。

「待って!何で無視すんの!?」
「あーえっと、なんつったっけ、バレー部の…ひ、ひ…日?日影くん?だっけ。廊下は静かに歩きたまえ」
「日向!日向翔陽!影山と混ぜんなよ!」
「あー日向くんね。はいはい」

 はいはい。適当にあしらう感じで頷いたら日向くんは地団駄を踏みながら「ちょんと覚えろよー!」と叫んだ。うるさい。だから廊下では静かしろって言ってんだろうが。

「で、何の用?」
「今日一緒に帰ろう!」
「やだ」
「何で!?」
「逆に何で日向くんと帰らないといけないの?」
「俺がみょうじさんと帰りたいから!」
「日向くんのわがままには付き合ってられん。じゃ」
「ま、待てって!」
「まだ何かあんのかよ…」
「この前の告白の返事!まだ聞いてない!」
「あーーー…」

 言われて思い出した。そう、私は先日彼に電撃告白された。下校中にバッタリ会ったという微妙過ぎるタイミングで。ほとんど人が通らない道だったから良かったけど、こいつマジ声デカイのな。顔を真っ赤にしながら絶叫かよってくらいの声量で告白されたからくだらない罰ゲームでもやらされてるのかと思ったけど、どうやらそういうわけではないらしい。一応私のことが前から気になってたけどクラスが違うから告白する機会がなくて偶然会ったあの時しかないと思ったとかなんとか。一目惚れだとよ。へ〜あっそう、って感じ。軽く流して申し訳ないけど日向くんのことはよく知らないし、何より騒がしい奴嫌いだから無理。関わりたくない。なんか日向くんって遠足で同じ班になったらすごく自分勝手に行動しそうじゃん。あー無理そんな奴絶対無理。完全に偏見だけど。

「告白の返事貰えるまど離さない!」
「無理ですごめんなさい」
「えぇ!何で!?」
「答えたんだから離せよ」
「理由を聞くまで離さない!」
「あーうるせぇ。そういうところだよ。いちいち声デカイ」
「声を小さくすれば良いの!?」
「そういうわけじゃない。私は大人の男性が好きなんだわ。落ち着きのある人」
「じゃあ俺もそうする!」
「オメーは無理だよ」
「そんなことない。みょうじさんに振り向いて貰うためなら努力する。何もしないであのみょうじさんと付き合えるなんて、もともと思ってなかったし」
「 ( あの? ) いや、よくわからんけど変に付きまとわれても困るし、良いよ努力しなくて。そのままの日向くんが良いって言う人もいるでしょ」
「でも俺はみょうじさんに認められたい!」
「この頑固小僧」
「とにかく今日一緒に帰ろ!絶対な!約束!」
「拒否権を発動する」
「帰りに肉まん奢る!」
「仕方ないな今日だけだぞ」

 あれ、即答しちゃったよ。肉まん如きで釣られる私って一体。

「じゃあまた放課後な!教室まで迎えに行く!」
「え、教室まで来なくていいよ正門の前…で、ってもういねぇ」

 そして私は思った。私が日向くんを好きになることはまず無いなと。


≪≪≪



 6限が終わり、さて帰ろうと支度をしていると後ろから「オイ」と声をかけられた。

「お前日向と付き合ってんのか?」
「あ?」

 衝撃的な質問を投げかけてきたのはクラスメイトの影山だった。影山とは入学当初席が隣同士でそれなりに面識はあるけど、プライベートの話をするような仲じゃない。ていうか影山が恋バナとかウケるんですけど。

「何でそう思ったの?」
「お前今日日向と二人で帰るんだろ?」
「バカだろあいつ何で影山に報告してんだよ」
「で、付き合ってんのかよ」
「付き合ってぬぁい」
「そうなのか」
「帰ろって誘われたから帰るだけだよ」
「ふーん」
「何だよ」
「いや、意外だったから。あのみょうじが日向みたいなアホと連むなんて」
「 ( だからあのって何だよ ) いや、連んでるわけじゃないし。別に仲良くもないし」
「どうだか」
「何で疑われてんの私」
「ああ、そういえば今日俺とお前日直だぞ」
「え、あ!そうだっためんどくせ〜」
「俺黒板やるからお前日誌書けよ」
「仕方ないな…さっさと終わらせよ。えーと、今日は影山が恋バナに花を咲かせていました…痛ェッ!」
「嘘書くな」
「嘘じゃないもん!つか頭掴んでるこの手を離せよ!頭割れる!」
「割れろ」
「割れてたまるか」

 影山と睨み合いをしていたら突然教室の扉がバァーンと勢い良く開いた。うるせぇ。誰が来たかなんて見なくてもわかる。

「みょうじさーん!迎えに来た…って、え、何やってんの影山!?」
「あ?何だ日向かよ」
「影山お前!みょうじさんに何してんだ!女子に暴力振るうなんてサイテーだぞ!」
「日向くんもっと言ってやって」
「お前がくだらないこと言うからだろ」
「とにかくみょうじさんから離れろ〜っ!」
「日向うるせぇよ」

 影山はくしゃりと私の前髪を握りつぶして黒板消しに取り掛かった。何で前髪ぐちゃぐちゃにされたの…せっかくアイロンで綺麗に巻いたのに。

「みょうじさん大丈夫!?」
「頭割れるかと思った」
「わかる!その痛みわかる!」
「君もやられたことがあるのか」
「何度も!!」

 お前ら仲良いのな。頭の中にホの字がうっかり浮かんでしまった。いやいや、私にそういう趣味はござらん。ってそんなどうでもいいこと考えてないで日誌書かないと。

「日向くんごめん、この日誌書かないといけないから今日は先に帰って」
「待ってる!みょうじさんと帰りたいから」
「ああ、そう、え?」

 別に明日でも良くね?と言おうとしたら日向くんが私の前の席に座った。何で向き合う形?そんなジッと手元を見られてたらなんとなく書きにくいんだけど。

「あの、日向くん」
「ん?」
「できれば頑張って黒板掃除してる影山の勇姿を見て頂きたい」
「エー嫌だ。影山が黒板消してるところなんて見たって面白くねーし」
「私が字を書いてるところだって面白くないでしょ」
「みょうじさんだからいーの!何だって楽しい」
「日向くんの感覚がわからない」
「それに、みょうじさんって手綺麗だし」
「あ、え、あ……どうも」

 いきなり褒められたから手元が狂って字がヨレヨレになった。手が綺麗ってあまり言われたことないから、ちょっと嬉しいかも。

「俺さ、みょうじさんのことちょっと誤解してた」
「え?」
「みょうじさんって可愛いけど男子に対して素っ気ないって聞いてたから、俺も相手にされないと思ったんだけどさ。でもこうして話してくれるし、一緒に帰る約束もしてくれたし、みょうじさんってスゲー良い人」
「待って色々疑問なんだけど。まず私が男子に対して素っ気ないって誰が言ったの?」
「俺はクラスメイトの友達から聞いたんだけど、そいつも聞いた話だって言ってた」
「…つまり噂が流れてるってこと?」
「そうみたい」
「私のイメージ悪ぅ!可愛いは許す」
「でも俺がみょうじさんはそんな人じゃないって知ってるからいーじゃん」

 日向くんが背もたれに腕を乗せてニッコリ笑った。すごくご満悦なところ申し訳ないんだけど、私結構君に素っ気ない態度取ってたよ。告白も断ったし、肉まんに釣られたけど一緒に帰ることもかなり拒否したし。どんだけプラス思考なんだろう。都合良く私の暴言にはフィルターがかかってんのかな。強っ。

「 ( まあ、でも悪く思われるよりかは良いか…) うん。私普通に良いやつだから、そこんとこよろしく」
「おう!」
「…じゃあ私日誌書くね。ちょっと待ってて」
「急がなくていーぞ」

 ずっと待ってるから。腕に顎を乗せて、日向くんは優しい声で言った。思わず手を止める程ビックリした。だってあのわんぱくボーイの日向くんの口からこんな落ち着いた声が出るとは思わなかったから。不覚にもドキッとしてしまい、私は少し顔が熱くなった。おかげでせっかく浮かんだ日誌に書く内容がぶっ飛んでしまった。えーと、何書こうとしたんだっけ。…もういいや適当で。

「影山、黒板消した?」
「終わった」
「お疲れ。私ももう終わるから帰っていーよ」
「そうか。じゃあまた明日な。日向、朝練遅れんなよ」
「遅れねーよ!お前より絶対に早く来てやる!」

 こいつら本当に仲良いな。日向くんはギャンギャン噛み付くし、影山もなんだかんだそれに応えるし。やっぱりこいつらもしかしてー…いやいや、それは無いか。だって日向くんは私のことが好、



「何考えてんだ私ッ!」
「みょうじさん!?」

 何こっぱずかしいこと思い出してんだチキショー!自分で言って恥ずかしくなったわ!自爆したわ!日向くんと教室に二人きりになったこのタイミングで思い出すことじゃないよ。…ん?二人きり?

「どうしたのみょうじさん。手止まってるけど」
「え、あ、いや、なんでも、ない、うん」
「?」

 別に日向くんにドキドキしてるとかじゃなくて。単純に自分のことが好きだって言ってる奴と二人きりというシチュエーションに緊張してるだけだ。だってこんな展開滅多にないじゃん。そりゃ慣れてないんだからドキドキするのは普通の反応でしょ。とりあえず二人きりという状況が恥ずかしいから早く日誌書いて帰ろう。外に出たらもう大丈夫だ。多分。

「みょうじさん暑い?」
「え?何で?」
「顔が赤いから」

 日向くんは私に向けて手でパタパタと風を送りながら言った。顔が赤い…だと。それは気付かなかった。「う、うん、少し暑い、かも」想像以上に焦っているのかゴニョゴニョと自分でも聞き取りにくい声が出た。

「暑いなら窓開けとく?」
「いやいいよ。もう書き終わるから」
「マジ!?っしゃー!みょうじさんと帰れる!」
「日向くんって何でそんなにテンション高いの…」
「だって好きな子と一緒にいるんだし、そりゃ嬉しいじゃん!」

 日向くんは目が眩む程の満面の笑みでそう言った。天然かよ。平然とそんこと言えるなんて逆に尊敬するわ。何て返せば良いのかわからないからとりあえず「あっそう」で誤魔化した私のボキャブラリーの少なさよ。日向くんは気にする様子もなく軽く跳ねながら前を歩き始める。どんどん彼のペースに巻き込まれて振り回されてる自分に頭を抱えた。でもあんまり嫌じゃない。日向くんってうるさいし騒がしいしやかましいけど ( あれ、全部同じ? ) 、嫌いではないのかもしれない。

「よっしゃー!早く帰ろ!」
「ちょ待って走る必要なくない!?」
「肉まん売り切れちゃうじゃん!」
「手引っ張るなよぉおお」

 究極に面倒くさいけど。



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