「うう…うええ…」
「ちょ、なまえどうしたの!?顔真っ青だよ!?」
「クラクラする…気持ち悪い…うぐっ……」
「ええーー!?ちょ、大丈夫!?先生ー!!先生〜〜!!!って先生いねぇ!!どこ行ったんだあいつマジ使えねぇ!!探してくるからちょっと待ってて!!」

 体育の授業中、原因不明の吐き気に襲われて口元を押さえながら背中を丸めて座り込んだ。ただ事じゃないと察した友人が先生を呼びに行ってくれたみたいだけど、保健室まで歩けるかな…。なんてことを考えていたら「オイオイ大丈夫か」という男の声が聞こえた。あれ、先生もう来てくれたんだ。口元を押さえながらゆっくり顔をあげる。

「うっぷ…せん…せい…」
「いや俺先生じゃねぇよ。よく見ろって」
「え…?」

 先生じゃ…ない?よく見ろと言われても視界が曇っててよく見えない。ぼけーっとしていると、男子がため息をつきながら「ちょっと触るぞ」と首に手の甲をピタリと当ててきた。あーちょっとひんやりしてて気持ち良いかも…。

「オイオイ熱あるじゃねーか。そんなんでよく授業受けられてたな」
「熱…?え、熱あるの?誰が?」
「いや、話の文脈的にお前がだろ。大丈夫か?」
「ところで君は誰…?」
「お前本当に大丈夫か!?隣の席の岩泉だ!わかるか!?」
「岩泉…岩泉………え、岩泉くん…?」
「そうだよ…ったく…お前今相当ヤバイだろ」

 岩泉くん、なのか。あんまり仲良くないし隣の席になったのもつい最近だから彼のことはよく知らないけど、心配してくれるなんて良い子だなぁ。男子って乱暴なイメージだったからちょっと感動。

「先生には言ったのか?さっきから姿見えねぇけど…」
「今友達が呼びに行ってくれてる…はず」
「そうか。にしても遅いな。早く先生に見て貰わねぇと…。つか俺も保健室に用があんだよ。ったくどこ行ったんだよあの体育教師…肝心な時にいねぇ」
「岩泉くんも具合悪いの?」
「いや、俺は突き指。ていうか具合悪いんなら無理にしゃべるなよ」
「うん………うっ」
「ど、どうした!?!?オイみょうじ!?」
「ぎもぢわる…っ…うっ…!」
「わあああ吐くなよ!?頼むから吐くなよ!?待ってろ今保健室まで運んでやるから!それまで我慢しろ!」
「が…頑張る…っ!」

 胃からググッと込み上げる何か ( 主に昼食 ) が食道まできてしまい、耐えるように上を向いた。上を向いて歩こう。吐かないように。

「ほらおぶってやるから!背中乗れ!」
「お…おうっふ…」
「頼むから背中には吐くなよ!?」
「おっへーおっへー…」
「あんまり揺らさないようにはするけど、少し走るぞ!」
「うす…」

 普段の私なら男子におぶってもらうなんて断固拒否するところなのに、判断力が鈍っているせいか迷わず岩泉くんの背中に乗っかった。男子におぶってもらうなんて初めての体験なのに羞恥心とかがまるで無い。当然だ。気持ち悪過ぎてそれどころじゃない。

「頑張れよ!あと少しだから!」
「う…うぐぅ…」
「わーーッッ無理に返事すんな!!口開けるな頼むから!!」
「ぅん…」
「もう保健室見えてきたから頑張れ!」

 もう返事もできないくらいぐったりしていると、扉が開く音が聞こえて私は安堵した。どうやら保健室に着いたみたいだ。ガラガラと岩泉くんが大袈裟に扉を開けて「先生病人!!!!」と大声で叫んだせいでもれなく鼓膜が破けかけた。おぶってくれたのはありがたいが声の音量を下げて欲しい。

「よし、ベッドに下ろすぞ。上履き脱がしてやるから、上体だけでも寝とけ」
「うん…ありがとう岩泉くん…」
「いや良いって。あんな顔面蒼白だったのに放っておけるかよ」
「イケメン〜〜」
「ふざけてないで早く寝ろ。布団かけるぞ」
「何から何まで本当ありがとう…」
「今先生が風邪薬と熱さまシート探してるから、もう少しの辛抱な」
「うん…。岩泉くん」
「ん?何だ?」
「指、お大事に。バレー部なのに大変だね」
「軽い突き指だから心配すんな。どうってことねーよ」
「無理は禁物だよ」
「お前が言うなって」

 ペシッとおでこを叩かれ、反射的に目を瞑る私を岩泉くんは笑う。あんまりマジマジと彼の顔を見たことがなかったけど、笑った顔は幼くてなんか可愛い。よく人気者の及川くんと一緒にいることが多いからなんとなく近寄りがたい感じがしてたけど、そんなこと全然なかったなぁ。今度改めてお礼をしよう。とりあえず今は休むことに専念する。

「先生、遅いな」
「あ、もう付き添ってくれなくて大丈夫だよ。ありがとね」
「いや、先生が戻るまでここにいる。何があるかわからねぇし」
「え…でも…」
「お前は寝ろよ。寝付くまでここにいるから」
「な、何でそこまで私に構ってくれるの…?優し過ぎない…?」
「何でって、みょうじが心配だからに決まってるだろ。いつもニコニコしてるお前が元気無いと俺も落ち着かねぇからよ。早く良くなってくれ。な?」

 岩泉くんはニカッと歯を見せて太陽のように眩しい笑顔を浮かべた。パアッと辺りが明るくなり、私はハッとして息を止めた。心臓がありえない早さで早鐘を打っている。顔に熱が集中して変な汗がじっとりと額に浮かんだ。これは熱のせいなんかじゃないとはっきりわかる。これは、これは。

「あれ、急に顔色良くなったな。暑いか?」
「え!?!?あ、う、うん!!ちょっとね!うん!」
「平気か?熱は…」
「 ( わ、わーーっ! ) 」

 岩泉くんの手がおでこにピタリと触れた。や、やだどうしよう!汗とか脂とかでベタベタしてるのに!岩泉くんの手の感触が伝わるだけで私の心臓は大きく跳ねる。もうダメ。ドキドキし過ぎて気絶しそう。

「岩泉くん…」
「おう。どうした?」
「覚悟しろよ…」
「は……え、は?」

 回復したら猛烈にアタックしてやるから覚悟しろよ。バレー部だけに。心の中でそう宣言して、私は気絶するように眠った。

「え…え?覚悟しろって何だよ。俺何か気に入らないことしたか…?ちょ、オイみょうじもう一度起きろ!ワケわかんねぇぞ!」
「スヤァ」
「スヤァじゃねぇ!起きろ!!」



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