私には兄弟が一人いる。似ても似つかぬ双子の兄だ。顔も、頭の良さも、趣味も、特技も、私たちに備わっているものは全て正反対だ。おかげで衝突することが多く、喧嘩に発展することも少なくない。でもたまに変なところで考え方が似ていたりするから双子ってつくづく不思議な関係だ。

「飛雄いるー?」
「何しに来たんだお前」
「あ、なまえちゃん!」
「日向だー!やっほ〜」

 昼休みに飛雄のクラスに行くと大抵は一人寂しく机で寝てるかぼんやりしているかのどちらかだけど、今日は違った。同じバレー部の日向くんと何やらおしゃべりをしていたらしい。小学でも中学でも孤立していた飛雄についにお友達ができたなんて。双子の妹としては涙が出るほど嬉しいことだ。わざとらしくグスンと鼻を鳴らしながらハンカチを目元に当てる仕草を見せると飛雄が「何泣いてんだよ気色悪い」と眉を顰めた。

「影山お前なまえちゃんに気色悪いなんて言うな!なまえちゃん可愛いのに!」
「そーだそーだ!影山のくせに生意気なこと言うんじゃねぇ!」
「なまえちゃんはゆるふわ系かわいこちゃんランキングで烏野のトップ3に入るんだぞ!」
「そーだそーだ!」
「お前ら寄ってたかってうるせぇよ!」

 飛雄のクラスの男子がワラワラと集まってきた。飛雄のクラスメイトのAとBとCと…もう数えるのめんどくさい。なんかうるさいし。ゆるふわ系かわいこちゃんランキングなんてものが本当にこの学校に存在するのだろうか。嘘くさい。

「よくわかんねぇけど、なまえちゃん人気あるな!」
「日向、それはちゃうで」
「何で?みんな注目してんじゃん!」
「いや、それは私が飛雄の双子の妹だからで、もっと言うと飛雄と容姿も性格も正反対だからじゃないの?」

 そう。私と飛雄は容姿も性格もまるで違う。さらさらの黒髪に切れ長の目、シュッとした鼻筋に薄い唇が特徴的な飛雄とは違い、私はウェーブがかった茶髪に丸くて垂れてる目、鼻はやや丸めで唇はぷっくりとしている。性格もかなり違うと思う。飛雄みたいにツンケンしてないし、自分で言うのも変だけど性格はまぁ良い方だと思うし社交的だから友達も多い。と思う。あと頭の出来は私の方がずっといい。進学クラスだし。

「で、何の用だよ」
「あ、うん。お母さん、今夜は友達とご飯食べに行くらしくて夕飯は私が作ることになったから。何か食べたいものある?」
「カレー」
「はあ?またぁ?一昨日もカレーだったじゃん。てかその作り置きで昨日もカレーだったし」
「またカレーでいいだろ」
「絶対に嫌。てか私カレーみたいな辛い料理嫌いだし。飛雄に聞いたのが間違いだった…私が食べたいもの作る」
「はぁ?お前またシチューとか作んだろ。そっちのが飽きた。別のにしろ」
「じゃあビーフシチューにする」
「具材同じなんだからカレーでいいだろ!」
「良くない!スパイシーなのが嫌なの!」
「カレーが嫌いってお前本当に日本人か?」
「あんたこそインド人なんじゃないの?」
「じゃあ間を取って卵かけごはんにすれば?」
「「卵かけごはんのどこが間なんだよ」」
「オオ〜!さすが双子!ツッコミは息ぴったり!」

 また変なところで息が合ってしまった。こんなところで双子の力を発揮したくない。というか、飛雄と考えてることが同じとか勘弁してくれよ。こんなガサツ男と同レベルだなんて考えたくない。

「とにかく今日は私がご飯作るんだから私が食べたいもの作る」
「じゃあ何のためにわざわざ聞きに来たんだよ」
「一応参考までに聞いておいてやろうと思って」
「結局参考にもしなかったじゃねぇか」
「カレー以外だったら作ってあげるよ」
「…とんかつ」
「太るし油で揚げるのめんどくさいから却下」
「お前俺の意見通す気ねぇだろ」
「もっと健康的なものリクエストしてよ。何で高カロリーなものばっかなの」
「例えば」
「野菜炒めとか、焼き魚とか」
「魚より肉が良い」
「私魚の方が好き」
「…」
「…」

 ここまで意見が一致しないと悲しくなる。どうせなら二人が納得のいくメニューを作りたいけど、どちらかが妥協しなければこのやり取りが無駄に続くことになる。わかってはいるけど私は絶対に折れたくない。だって一昨日は飛雄のリクエストでお母さんにカレー作ってもらってたんだもん。今日くらい私に決定権を譲ってくれたって良いじゃないか。

「だいたいお前、普段そんなに料理しねーだろ。凝った料理を作れるのか?」
「魚を焼くことくらい造作もないわ」
「どうだか。焦げた魚は食わねぇからな」
「はぁ?そこまで言うならあんたが作れば?」
「はぁ?何で俺が」
「飛雄って本当にワガママだしめんどくさい」
「ワガママなのはお前だろ」
「私のどこがワガママなんだよ言ってみろし」
「俺のリクエストを却下する」
「飛雄のリクエストがワガママなんだよ気付け馬鹿鈍感バレー馬鹿」
「馬鹿2回言ってんじゃねぇよ!お前が馬鹿だ!」
「進学クラスの私によくそんなこと言えるのね?この間のテストの点数ここで大声でバラそうか?」
「は!?ふざけんな!」
「日向ぁ、知りたい?飛雄のヤバすぎる点数」
「知りたい!」
「あのねぇ、なんと、フガッ!」
「ふざけんなテメェ言うんじゃねぇよ!」
「恥ずかしかったら私より高い点数取ってみれば良いじゃん!」
「取れるか!」
「開き直るな」
「チッ…!胸糞悪い。勝手にやってろ」
「あ!ちょっと飛雄どこ行くの!?」
「お前には関係ねぇよバーカ」
「はぁ〜〜!?!?ウザ!飛雄なんて死ねば良いのに!今日帰ってきてもご飯無いからね!?」

 大きく舌打ちをして飛雄はズカズカと大股で教室を出て行き、ピシャン!と扉を閉めた。何あの態度ムカつく。超ムカつく!飛雄が乱暴に閉めた扉を睨みつけながらガルルルと唸っていると、飛雄のクラスメイトABCが「なまえちゃんメアド教えてよ!」なんて言い寄って来た。このタイミングで?ウゼェな。ニッコリと微笑んで「断る」と断固拒否した。ABCは泣いた。日向は何故か笑ってた。

「ちょっと日向、何が面白いの」
「影山となまえちゃん、仲良いなーって!」
「日向の目は節穴なの?今のやり取り見てたよね?」
「見てた見てた!だってよく言うじゃんか、喧嘩するほど仲が良いって」
「仲が良かったらたかが夕飯のことで揉めたりしないよ」
「些細なことで喧嘩するくらいがちょうど良いんじゃん?」

 お、おお?なるほど?一理ある。取り返しのつかないような大きな問題で喧嘩するよりは平和かもしれない。アホの日向の言うことに納得してしまった。…なんか、日向にこう言われると自分がすごい情けなくなった。たかが夕飯のメニューで喧嘩って、みっともない。ついカッとなって言い返してしまうのは私の悪い癖だ。私は言いたいことをワーッと一気に吐き出すが、飛雄は言いたいことがまとまらずにイライラして「もう知らねぇ!」って部屋を出てしまう。いつものパターンだ。私がもう少し言葉を選んで、ゆっくり落ち着いて意見すれば多分喧嘩も減ると思う。…私が悪いの、か?

「んえー…んー…。ん〜??んぅ〜〜む…」
「頭抱えてどうした?頭痛い?」
「んーん。違う。…ありがと、日向」
「ん?何が?」
「今度デートしようね」
「え、え!?!?」
「ところで飛雄が行きそうなところで心当たりない?」
「え、あ、えっと、多分自販機だと思う。あいついつも昼休みに牛乳か飲むヨーグルト買ってるから」
「あそこか。ありがとう。日向、今度連絡するね」

 パチンとウインクをすると日向は顔を真っ赤にした。そしてクラスメイトのABCに詰め寄られてた。日向が私に助けを求める。私は笑顔で手を振る。華麗にスルーした。私は飛雄の後を追って教室を後にした。

 教室を出て、昇降口に向かう途中に外に出る通路がある。その傍に飛雄が毎日利用する自販機があるんだけど、着いた時にはもう飛雄の姿は無かった。さすがに教室に戻ったかな。入れ違いだったかぁ。ええーもーめんどくさいよー。まぁ仕方ないか。せっかくだし私も甘いものでも買って戻ろう。いちごミルクにしよっと。

「ん?……ギャアッ!」
「うお!?何でお前ここに…」

 自販機の正面まで来て、通路から見て死角になる位置に人がしゃがんでるのがわかってビックリした。しかもそれが飛雄だったから二度ビックリした。何だよ脅かすなよ。飛雄は空になった牛乳パックをくしゃりと握ってゴミ箱に捨てると、ジト目で私を睨みつける。ンゲーまだ怒ってる。

「飛雄、眉間のシワヤバいよ」
「…ふん」
「まだ怒ってるの?」
「…別に」
「怒ってんじゃん」
「怒ってねぇよ」
「本当に?」
「たかが晩飯で怒らねぇよ」
「さっきあんなに怒鳴ってたじゃん」
「それはテストの点数バラそうとしたからだろ」
「あ、そっか。ごめんね」
「何だよやけに素直だな」
「いや、さすがにそれは私が悪いし。言いすぎちゃってごめんね、飛雄」
「…もう良い。怒ってない」
「死ねとか言ってごめんね」
「今更だろ」
「えーそんな言ってないよ」
「別に気にしてねぇよ。…俺も悪かった」

 最後の謝罪はすごく小さな声であんまり聞き取れなかったけど、飛雄の表情を見れば何を言いたかったのかが全部わかるから許すことにした。嬉しくて「えへへ」と思わず笑うと、飛雄は顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。飛雄のそういうわかりやすいところは嫌いじゃない。

「今日の夕飯はカレーうどんにしようかな」
「お前カレー嫌いだろ」
「私のだけちょっと甘めにするから平気」
「…そうか」
「だからさ飛雄、いちごミルク奢って。財布忘れてきちゃったテヘペロ」
「お前……」



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