「ホラーはね、好きか嫌いかで聞かれたらもちろん好きだよ。だって面白いもん。ホラーの特番が放送されてたら録画してでも必ず観るし、わざわざレンタルショップまで行ってDVD借りるくらい好き。でもね、得意か苦手かで聞かれたら残念なことに後者なんだよ〜。ホラー映画の一番盛り上がるシーンで目瞑っちゃうし自分の悲鳴がうるさすぎて音すら聞こえないからね。完全に逃げ腰なんだよね。だって怖いんだもん。でも怖いもの見たさの欲が満たされればそれで良いかな〜?って感じ?だから映画の内容をあまり覚えてなくても全然オッケーなんだよね。雰囲気を味わえれば。観終わった後まで引くあの恐怖感!あるはずの無い視線を感じて思わず振り向いた時にそこに誰もいない!とかさ。黒い影とか物音に過剰に反応しちゃったりして。お風呂とかトイレとかベッドの下とか怖くならない?これが癖になってやめられないんだよねぇ〜。チャレンジャーな馬鹿だって家族にも見捨てられて一緒に寝てくれる人いないくてさ〜今夜もまた恐怖を抱えながら眠れない夜を一人で過ごすことになりそうなわけよ〜。マジやばくない?辛ぁ〜」
「…で?」
「一緒に寝てください!」

 長々しい前置きは研磨の深いため息によって片付けられてしまった。勢い良く土下座してフローリングに額を打ち付けた。痛かった。
 夜中に孤爪家に駆け込んだのは正直すまんかったと思っている。でも明日はお休みなんだからそんな不満そうにしなくても良いじゃないかと研磨を宥めたら軽く睨まれてしまった。おおう…ごめんちゃい。

「何で一人で眠れなくなるってわかってて観るの?」
「だからぁ〜怖いもの見たさってやつ〜」
「はあ…飽きれた」
「まあまあ可愛い彼女のためじゃん?」
「大体こんな真夜中に…」
「それはすまん。でも孤爪家ご夫妻は旅行なうで研磨一人でお留守番なんでしょ?なら私と楽しくゲームしようよ〜トゥナイッ」
「やだ眠い」
「研磨ぁ!」
「ちょっと…」

 私のお誘いを無視するなんて許さない。ベッドに潜り込もうとする研磨の足にしがみついて「やだやだやだー!」とおもちゃを強請る子供のように駄々をこねる。すると、研磨はさっきよりも大きなため息を吐いて布団を捲る手を止めた。

「…泊まっても良いけど、ゲームはしない」
「よっしゃあ!うん!じゃあ研磨とおしゃべりする!」
「しない」
「何で!?ゲームもおしゃべりもしないなんて今日の研磨はわがままだね!?」
「どっちが」
「お願い!静かなのは嫌なの!」
「静かな空間じゃないと眠れないでしょ」
「ソウダネ!じゃあ寝なければ良いんじゃない!?」
「…」
「あ!ちょっとどこ行くの研磨〜ねぇねぇねぇ〜」
「うるさい」
「ひょおお」

 ガチな低音で呟かれて黙るしか無かった。研磨を怒らせたら当分口を利いて貰えなさそうだから従わざるを得ない。でもさ、可愛い彼女が怖い思いしてるんだからもうちょっと相手してくれても良いんじゃないかなぁ〜?まあ怖がりのくせにホラー映画なんて観た私が悪いんだけど。自業自得だけど。

「電気、消すよ」
「え!待って!寝ても良いからせめて電気は点けてて!」
「…眩しいんだけど」
「お願いいい」
「…」
「ね?ね?ほらぁ可愛い彼女がおねだりしてるんだからさぁ?研磨ぁ?」

 パチッ

「ぎゃあああ迷い無ぇ!!ちょ、研磨どこ!?どこにいるの!?真っ暗で何も見えない!!」
「なまえの後ろ」
「ひえええええそんなホラーっぽいことしなくていいよ!怖いよ!」
「…ここ」

 手首をひんやりとした手に掴まれ、声にならない悲鳴が出た。研磨だとわかっていても心臓に悪い。さっき観た映画も暗闇の中で幽霊に襲われる感じの純和風ホラーだったから、自分も同じ世界にいるような錯覚に陥る。変な汗かいた。私の手首を掴むその手を掴み、研磨の胸に顔を埋める。

「ほら、寝るよ」
「は、離れないでね」
「わかったから…そんなにくっつかないで」
「ううう…」

 研磨に手を引かれてやっとの思いでベッドまで辿り着いた。先にベッドに潜り込んだ研磨の後に続いてもぞもぞ布団を頭まで被り、研磨の背中にピッタリと張り付く。三度目のため息が聞こえた。でもこれくらいは許して欲しい。本当はガッチリとしがみつきたいけど、暑いのは嫌だ的なことをこの間言っていたから我慢しているのだ。何かに掴まってないと怖くて死にそう。足首を何かに掴まれる想像をして本気で震えが止まらなくなってきた。ギュッと研磨の服を握って目を瞑る。寝ろ。寝ろ。さっさと寝ろ。気絶しろ。

「なまえ」

 寝ろ。寝ろ。寝ろ。

「ねぇ、なまえ」

 寝ろ。寝ろ。寝、

「なまえってば」
「私は今寝ることで忙しい」
「今日なまえが隣のクラスの人に告白されたって、聞いた。…本当?」
「すぴ〜…って、え?誰情報それ」
「クロ」
「ええ〜何で知ってんの怖いわ」
「…じゃあ、本当なんだ」
「あーうん。告白されましたぽよ〜」
「ふーん」
「…断ったよ?」
「当たり前でしょ」
「ふへへ」
「…何で笑ってんの」
「研磨、ヤキモチ焼いた?」
「…」
「図星だ〜可愛いなぁもうっ」
「あっち行って」
「やだ。ギューする」
「暑い」
「研磨、研磨」
「…何?」
「大好き」

 いつも抱き枕に抱きつく感じで研磨の背中に抱きついたら、少し研磨の鼓動が早くなるのがわかった。おお、ドキドキしてるな?可愛い奴め。デレた研磨は本当に可愛い。言葉にしなくても様子ですぐにわかるから余計に可愛いし愛しい。背中の体温が心地良くて瞼が少し重くなった。寝そう。

「なまえ、苦しい。力緩めて」
「ん〜ふふふ〜。やぁだ」
「なまえ」
「ん〜?」
「…本当は、その告白の話をクロから聞いて少し不安になってた。だから、なまえがうちに来たのはびっくりしたけど、…嬉しかった。………俺もちゃんとなまえが好きだよ。おやすみ」
「…」

 え、眠気がぶっ飛んだ。



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