教室でスマホを弄ってたら急にカクンと足の力が抜けてそのまま床に膝をついた。「ぐゎっ」という間抜けな悲鳴と共に。

「何今のアヒルみたいな声」
「国見お前…」
「膝かっくん。どう?」
「どう?じゃないよ。感想求めんなよ」
「ちゃんと膝から崩れ落ちてたから成功だよね」
「悔しいけど大成功だよ。足に力入らない。立てない」
「甘えるなよ。自分の足で立つことに意味があるんだから」
「誰だお前。良いこと言ってるつもりなんだろうけど意味不明だしこうなったの国見のせいだから」
「知らない」
「何だこいつ…」

 何が何でも謝らない堂々とした態度の国見に若干イライラしつつ、そもそも何で私が膝かっくんをされたのか謎だ。国見のことだからどうせ気まぐれか暇つぶしのどちらかだとは思う。どんな理由であれ腹立たしいことこの上ないけど、国見のすることをいちいち気にしていたら埒が明かないことを私は知っている。机に手をついて足に力を入れた。初めて二本足で立つ赤ん坊のようによろめきながら立ち上がる私を国見はジト目で見下ろしている。

「何だよ」
「別に」
「ああ、そう。あー膝痺れてる…」
「なまえ」
「だから何だよ」
「お腹空いた。鳴りそう」
「空気でも食べれば」
「…」
「いやそんな目で見られても…購買でも行けば良いじゃん」
「問題。俺が今食べたいものは何でしょう」
「知らね」
「正解はなまえのカーディガンのポケットの中にあるカップケーキでした」
「えらい具体的だね」

 国見が指差しているポケットの中には、確かにさっき調理実習で作ったカップケーキが入っている。でもすっぽりと中に収まっているそれは見ただけでは不自然な膨らみにしか見えない。それなのに国見はドンピシャで中身を言い当てるものだから、焦って思わずポケットを手で隠した。お腹が空いているあまり鼻が利くようになっているのだろうか。国見の食への執着心が尋常じゃなくて怖い。

「カップケーキも俺に食べて貰いたいってさ」
「いや言ってないからね。それにほら、これは私のだし」
「さっきも食べてたでしょ。これ以上食べたら太るごほんっ」
「もうほぼ言い切ってるよ国見。咳払いしても遅いよ」
「だから頂戴」
「うぐぅ…」
「何でそんな渋るの」
「…だって失敗したんだもん」

 国見から目を逸らしながら拗ねたように唇を尖らせる。材料の準備や生地の下ごしらえまでは完璧だったのに最後の最後で焼き上げる時間を間違えてしまったせいで若干…いや、かなり香ばしいカップケーキが完成した。非常に残念な出来上がりのそれをグルメな国見には絶対に渡せない。ボロクソ言われて凹む私が容易に想像できる。

「失敗作でもいいよ。俺はそのカップケーキが食べたい」
「いやいや、絶対不味いからやめときなって…」
「膝かっくんするよ」
「ええー!?どんな脅し!?」
「良いからほら早く」

 早く早くと催促しながら国見の手が伸びる。不味いって言ってるのにそこまでしてこのカップケーキを食べたいなんて何が国見をそうさせているんだ。食欲か、食欲なのか。何を言っても国見が諦めるようには見えなかったから、観念してポケットの中から取り出したカップケーキを国見の手のひらに乗せた。

「ちゃんとラッピングしてあるんだ」
「うん、まあね」
「誰かにあげるつもりだったんだ」
「…うん」
「ありがとう」
「何で国見がお礼言ってんの」
「だって、もともと俺にくれるつもりだったんでしょ」

 確信しているような口ぶりだった。国見は満足そうに笑いながらラッピングのリボンを解くと、崩れないように丁寧にカップケーキを取り出す。そして一口サイズに千切って口に入れた。

「ほら、やっぱキャラメル味だ。ちゃんと美味しいよ」



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -