※R15

 湯浴みを済ませた三成様はさながら絹のように艶やかで美しい。嗚呼、溜息をついてしまう程に。

 まだ少し髪が湿っているせいか、ぽつぽつと毛先から滴る水滴が三成様の首筋や寝巻きを濡らしていく。それでも書物に集中しているあまり、水滴を鬱陶しがる素振りを見せない。三成様の側につつつと静かに四つん這いで近寄れば、三成様は顔を動かすことなく横目で私を視界に捉えた。「どうした」と一言だけ問いかけ、視線は再び書物に戻される。

「髪、拭いてもよろしいですか?」

 にんまりと微笑めば、三成様は一度きょとんと目を丸くして、それから薄く微笑み返した。

「そうか。ならば頼もう」
「はい」

 侍女に用意させた手拭いを広げ、三成様の背後に回る。読書の邪魔をしては悪いから、丁寧に優しく水滴だけを吸い取るように手拭いを髪に押し当てていく。首を伝う水滴を拭き取る時に指が肌を掠めた。ぴくりと三成様の体が震えると同時に、触れた手を取られ前方に引き寄せられた。目で追うことのできない素早さに私はハッと息を飲んで、されるがまま三成様の胡座をかいた膝の上に尻餅をつくようにして座り込む。

「ひ!ごめ…ごめんなさい三成様!」
「もう良い」

 怒らせてしまったかと一瞬背筋が凍るようだった。慌てて見上げてみれば三成様の顔に怒りの色は無く、むしろこの上無く優しい表情を浮かべていた。こんな慈愛に満ち溢れた表情をするなんて珍しい。それにしても、なんてお綺麗なのだろう、このお方は。引き寄せられるように手を伸ばして、彼の白い頬に触れる。

「貴様から私に触れようとは、珍しいこともあるのだな」
「はあ、何故でしょうねぇ…。勝手に手が動きました」
「決まっている。貴様が私を愛しているからだ」

 前髪をさらりと掻き分けて下さる三成様の優しいお手が好き。戦で多くの人を殺めてきたこの手は、私にだけは安堵を与えてくれる甘やかなものだ。
 ゆっくりと降りてくる三成様の唇を目を瞑って受け入れた。初めは触れるだけだった口付けは次第に上唇を食み始め荒々しくなっていく。ぬるりと舌が口内に侵入し、逃げ回る私の舌を絡め取り、吸う。何度も角度を変えて繰り返されるその行為に次第に体が熱くなり始め、意識が遠のいていくようだった。その心地がとても気持ち良くて、三成様の首に腕を回して私からも求めた。それに応えるように口付けはどんどん深まり、夢中になって舌を絡め合う。息が続かなくなり、酸素を求めて離れたお互いの唇は唾液でテラテラと光っている。なんて大胆なことをしたのだろうと今更込み上げる羞恥にカアッと顔が熱くなって思わず目線を反らした。そんな私を笑いながら、唾液を拭うように三成様の指が私の唇をなぞる。

「嗚呼、今宵のなまえは一段と愛らしい」

 耐えきれず顔を背けたら、無防備に晒し出された首筋に三成様の舌が這う。徐々に降下していく唇が、ついに胸の谷間を吸った。

「あ、あ、三成様っ」
「なまえ…」
「あの、ここでは侍女に見られてしまうかもしれません…!出来れば…その、寝室で…」

 これから何が行われるのかは容易に想像できた。初めてではないというのにこの行為はいつまで経っても慣れない。畳の上に組み敷かれる前にせめて寝室へと懇願する私に三成様は応えるように口付けを落とし、私の背中の膝の裏に腕を回して抱き抱える。

「なまえ、」

 そっと敷布団の上に降ろされ、すかさず三成様が覆い被さった。細長くひんやりとした指が私の首筋から鎖骨にかけてをなぞり、胸の頂に爪を食い込ませる。痛みよりも柔らかな甘い痺れに体が震え、三成様は恍惚とした表情で私を見下ろしている。影がさして彼の顔はよく見えないけど、私を捉えている双眼が色欲に濡れていることだけはわかった。美しく煌めく瞳と、雪のような素肌が艶やかに私を虜にしていく。

「嗚呼、なまえ。私の愛しいなまえ」

 再び交わる互いの舌が熱い。口内がドロドロに溶けて消えてしまったかのように、舌の感覚が薄れてきた。少しずつ下に降りてくる手が下腹部に痺れを齎す。全部三成様によるもの。今、私の感覚は全て三成様が占めている。なんて幸福なことだろう。

「三成様」
「…ん?」
「幸福なのに、涙が出るのです」

 視界が滲んで何も見えない、三成様の姿も霞んで見える。止まらない涙を拭おうと持ち上げた利き腕は三成様によって阻まれ、互いの指を絡めて敷布団に縫い付けられた。ズイと近寄る三成様のお顔、そして目元に当てられた温かく柔らかな唇。薄い舌先が涙を舐めとる。

「それでいい。お前の涙がある限り、私は生きていけるのだ」


水魚



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