※ピクチャードラマネタあり

 赤也が恋をした。赤也つったらテニスとゲームしか頭に無いイメージがあったけど、そんなことなかったらしい。赤也も中学生の男なんだなぁと妙に感心してしまった。健全健全。部活で怠けない程度に頑張れよ。と、先輩らしくアドバイスできれば良かったんだけど、赤也の好きな相手が少しばかり厄介だった。厄介っつーか、なんつーか、意外だった。だってまさか全国大会でぶつかって負けた青春学園のテニス部のマネージャーなんて思わないじゃん。しかも俺たちと同い年、つまり赤也にとっての年上だ。まあでも赤也自体人懐っこいところあるし、年上に引っ付いてるイメージはなんとなくあったけど。つかどこに接点が?俺ですら話したことねぇよ。見たことはあるけど。でも別に飛び抜けて容姿が可愛かったわけではなかった気がする。悪くもなかったけど、つまり普通。コンビニでグラビア雑誌とかアイドル雑誌を立ち読みしてはニヤニヤしてる赤也が何故そんな平々凡々な女子に惹かれたのかマジでわかんねぇ。あぁでも、日焼け知らずの肌は真っ白で綺麗だったな。あと脚が長かった。て、ジャッカルが言ってた。

 という前置きの元、この俺丸井ブン太は青学マネを海原祭に招待することにした。え?話が飛躍し過ぎだって?細かいこと気にすんなよ。ちなみに我が立海テニス部は赤也がヒロインを演じるシンデレラをやることになっている。いや別に愛しの青学マネに女装を見られる赤也のリアクションが見たいからとかそんな非道な理由じゃないぜ?多分な。

 そんなこんなで海原祭当日を迎えた。俺のテンションは既にMAX状態である。あ、もちろん青学マネが来ることは赤也には秘密にしてある。だってバレたらつまんねぇ…ごほん、何でもない。このことを伝えたのは幸村にだけだけど、多分柳と仁王と柳生も鋭いから気付いてるな。あ、ジャッカルも知ってる。俺が青学マネを招待することを幸村に相談している時、俺の横でため息ついてたから。ちなみに幸村は俺の提案に対して「何それすごく面白そう!」と、親指を立てる勢いの二つ返事をくれた。さっそく青学に連絡するように連絡担当の真田にメールを打っていたあの時の幸村の笑顔は最高に輝いてた。ん?ってことは真田も青学マネが来るのを知ってるのか。結局全員知ってることになるな。赤也を除いて。

 あー公演時間が待ち遠しい。つっても俺も女装しなくちゃいけねぇんだけど。でも赤也程出番はないし、別に見られたくない相手がいるわけでもない。こう見えても俺はイベント好きでノリがいい。何度も言うけど赤也のリアクションを楽しみにしているわけではないぜ?た、多分な。

 とりあえず公演時間まで余裕あるし、真田と柳生のウェイター姿でも見に行くか。多分そこなら幸村もいるから退屈しないだろうし。風船ガムを膨らませながら3-Aの教室を目指していると、突然ポケットに突っ込んでた携帯が鳴った。



差出人:幸村精市
宛先:丸井ブン太

件名:早く早くっ!><
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本文:青学のマネ来たぞっ(^3^)




 幸村、めちゃくちゃ楽しそう。俺は少し赤也に同情した。もともとは俺のせいだけど。
 つか青学マネもう来てんのか。こうしちゃいられねぇ。若干小走りで廊下を進む。曲がり角に3-Aの立て札が見えたところでスピードを徐々に落とした。控えめに扉を開ける。

「いらっしゃいませ。む、何だ丸井か」

 出迎えたのはウェイターの真田だった。俺だとわかるなり真田と柳生は仕事に戻っていく。何だじゃねぇよ。俺だってお前なんかお呼びじゃねぇっつの。とは口が裂けても言わねぇけど、俺は当初の目的であった真田や柳生のウェイター姿よりも青学マネの方が気になって仕方ない。

「丸井」

 扉から顔を覗かせてキョロキョロ辺りを見渡すと幸村が手招きしているのが見えた。よく見ると同席に桃城と越前もいる。ってことは、幸村の隣に座ってる女子が青学マネ?あれ、なんか記憶と少し違う。こんな顔だっけ?結構可愛いじゃん。遠目で抱いた第一印象と第二印象が割と真逆であることに若干混乱している。

「あ、丸井さん!ちわーッス!久しぶりっすね!」
「どうも」

 桃城と越前の挨拶に「よく来たな〜」と軽く返しつつ、俺の目は青学マネをロックオンしている。もはや青学マネにしか興味ない。俺がにっこりと笑顔を見せると、青学マネは一瞬きょとんとしてからすぐに笑顔で会釈してくれた。あ、うん、普通に可愛いわ。あとジャッカルが言ってた通り肌白い。

「丸井くんこんにちは。青学のテニス部マネージャーのみょうじなまえです。今日はお招きありがとう」
「いやいや〜こちらこそ来てくれてサンキュー。そういえば俺たちこうして話すの初めてだっけ?」
「そうだね〜話したことがあるのは切原くんだけかなぁ」

 俺と幸村の目が光る。青学マネの口からさっそく赤也の名前が出て来るとは思わなかった。さっき幸村が言ってた面白い話が聞けそうだっていうのはおそらくこのことだろう。赤也のことで聞きたいことは山ほどあるけど、なるべく怪しまれないようにうまくやらなければ。俺は幸村と目を合わせて頷き合う。

「え、なまえ先輩って切原と接点あったんすか!?いつ!?」
「聞いてないんスけど」

 桃城も越前も初耳だったらしく、二人して驚きの表情を浮かべている。それに対して青学マネは「まあ接点っていう程でもないけど」と曖昧に笑った。よく聞いてくれた桃城、越前。俺たちが聞く手間が省けた。

「うーん、全国大会が終わった後かな。休日に友達と遊んでその帰り道でばったり。切原くんがゲーセンから出て来るのを見かけて私から声かけた」
「で、で!?赤也の反応は!?」

 やっぱりこういう話ってワクワクすんな。赤也との出会いの詳細を早く知りたくて思わず青学マネ接近する。幸村は終始穏やかな表情を崩さないから逆に怖い。

「反応?んー、あんまり覚えてないけど…別に普通だったよ」
「普通って?」
「『あんた青学のマネじゃん。こんなとこで何してるんスか』みたいな感じ」
「え、超普通」

 何それつまんねぇ。てっきり赤也の一目惚れとかそういう展開かと思ったのに、別にルックスから入った訳じゃねぇんだ。じゃあ何だ、他にきっかけがあるのか?

「なぁんだ、じゃあなまえ先輩は偶然切原と会っただけなんスね」
「うん、会ったのは偶然だよ。でもその後一緒にご飯食べた」
「えぇ!?!?」

 机をバンと叩いて上体を起こし、青学マネに詰め寄る。ご、ご飯だと!?あの赤也が女子とご飯だと!?ていうかたまたま街中でばったり会っただけで何でご飯に行く展開に!?わけわかんねぇ混乱してきた!

「何で切原と飯食いに行く展開になるんスかなまえ先輩!飛び過ぎっしょ!」

 桃城お前エスパーか?エスパーなのか?何で俺の疑問を代弁してくれるんだよ。でもナイスだ。よく聞いてくれた。俺は心の中で親指を立てる。

「切原くんゲーセンでお金遣い過ぎてお昼も買えないって言うからご馳走したの」
「赤也カスだな」

 俺は思わず本音を零した。ゲーセンで金遣い過ぎたからって女子に、しかも青学マネに奢ってもらうとかどうなの。中学からこんなんじゃ将来パチンコで散財するようなダメ男になるんじゃね?俺や桃城達が飽きれて言葉を失っていると、幸村が額に手を当てて俯いた。

「これは立海テニス部の恥だね。さて、どうしようか」

 声ひっくぅ。幸村超怖い。赤也の奴は真田にしばかれる以上の恐怖を味わうことになるだろうな。そっと手を合わせる。南無。

「でもそのお礼にゲーセンで取ったっていうぬいぐるみをくれたから、私はむしろ切原くんに感謝してるけどね」
「なまえ先輩、ぬいぐるみに釣られたんスか…」
「ちょっとちょっと越前くん何その目。だって皆大好きクマのブーさんだよ?普通に買ったら2000円はするよ?それをくれたんだもん、お昼代なんて安いもんよ」
「なまえ先輩夢の国好きですもんねぇー…」
「何だ文句あんのか桃」
「いえいえありません!」

 なーんか、想像してたのと違う。全然普通じゃん。何もおもしろくねぇ。赤也が青学マネのこと好きって本当なのかよ。その噂すら怪しいと思えるようになってきた。つーか誰だよそもそも赤也に好きな人ができたとか言ったの。

「でも、赤也くんって律儀で良い子だよね」
「切原が律儀ぃ?一番似合わない言葉っスね」
「桃失礼だよ。だって優しいんだよ切原くん!私が夢の国が好きだって話したら今度一緒に行きましょうって誘ってくれたんだよ」

 それってデートじゃん。俺と幸村は目を丸くして顔を見合わせる。

「それってデートじゃないっスか!切原の奴…なまえ先輩のこと狙ってるんじゃないスか?」
「そんなんじゃないよ。普通に遊びに行く約束しただけ」
「でも男女で遊びに行くんスから、デートっスよね」
「そう言われると照れるなぁ」
「なまえ先輩にもついに春が来たんスね!」
「遅すぎる春だね」

 青学チームは冗談のつもりなんだけど、案外マジなんだよなぁ。もはや根拠はないけど赤也は青学マネのこと好きだし。この様子を見ると青学マネは赤也をなんとも思ってないみたいだ。強いて言うなら他校の友達、ぐらいだろうか。あーあ、なんか赤也がかわいそうに思えてきたな。

「そういえば切原さんいないっスね」

 越前が辺りを見渡しながら呟く。ああ、赤也なら多分自分のクラスの出し物だろうな。俺が口を開こうとしたら、遮るようにピロリーンと携帯が鳴る音が聞こえた。

「あ、切原くんからだ」
「なん…だと…」

 赤也からのメールだと?何で海原祭の真っ最中に青学マネにメールを送るんだ。タイミング良すぎるだろ。まさかこの事態に気付いてメールしてきたのか…?いや待て、そんなことはあり得ない。だって。

「青学マネがここにいることを赤也は知らないはずだ。と、丸井は言う」
「や…柳…」

 いつからここにいた。錆び付いたようにうまく回らない首を回して振り向くと、ノートに何かを記しながら不適に笑っている柳がいた。何のデータが取れたらそんな恐ろしい表情になるんだよ。

「残念だが丸井。赤也はみょうじが来ることを知っているぞ」
「え」
「何故なら赤也本人がみょうじを海原祭に招待していたからな」

 なん…だと。信じられねぇ。疑うように青学マネを見ると、桃城と越前が青学マネの携帯を覗き込んでいた。

「なまえ先輩、切原の奴なんて送って来たんスか?」
「『今どこにいるんすか?一緒に見て回りましょーよ!』だって。じゃあ私切原くんのとこ行くから、桃と越前くん帰る時連絡ちょうだいね」
「了解っス!」

 俺は完全に石化していた。

「このことは今日まで内密にするように赤也に頼まれていたんだ。だが精市、お前気付いていただろう」
「ふふ、どうかな」
「しかしまあ。物の見事に赤也の予感は的中していたみたいだな。丸井」
「な、なんのこと?はは…」
「丸井達からも招待状を送っていたとなれば、もはや赤也がみょうじを海原祭に招待したことを隠す必要もない。ああ、それと」

 柳がノートを閉じて顔を上げる。

「『なまえさんを招待して何するつもりだったんスか?丸井先輩』という伝言を赤也から預かっている」
「あ、あいたたたー!なんだこれ!?なんか急にお腹痛ぇ!ちょっと保健室行ってくるわ!!!」

 俺は腹を抱えて教室を飛び出した。赤也の恋をからかうのはやめよう。そして真面目に応援してやろうと誓った。いやこればっかりはマジで。




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