「明日から始まる三連休、私は夜通しで馬鹿騒ぎしたい」

 私がそう言った時、部室にいたレギュラー陣が目の色を変えた。あれは回避策を練る時の目だ。私の無茶ぶりを意味する独り言を無かったことにしようと、新しい話の切り出し方を探るのに脳内で奮闘しているに違いない。そう簡単に流されてたまるか。いつもマネージャー業を真面目かつ的確にこなしている私へ日頃の感謝の気持ちを込めて「いいね!賛成!」と言え。

「いいね、賛成。面白そうじゃないか」
「マジか」

 まさか過ぎた。何がまさかなのかと言うと、私の提案に同意する人物が、だ。一番に口を開いたのは我らが部長、大魔王こと幸村だったのだ。こんな展開誰も予想していなかっただろう。部員はまたしても目の色を…と言うより顔色を変えた。私が言うのもなんだが、あれだ…どんまい。

 ていうか、いいの?幸村は私の意見に賛成なの?予想をしていなかった人物の第一声とその内容に思わず出た言葉が「マジかよ」だった。言い出しっぺのくせにマジもくそも無いだろって話だけど、まさか幸村が同意するとは思っていなかったのだから仕方ない。すごい展開だ。幸村の同意となると、部員は逆らえるわけもない。必然的に私の提案が通ることになるのだ。私としては願ったり叶ったりだけど、部員の顔がやべえ。真田はいつも以上に顔が険しい…というより、もはや陰りすぎて顔見えない。柳は通常運転で何やらせっせとノートに何か書いてるし、柳生は眼鏡を光らせてるだけで何も言わないし、仁王は死んだ魚のような目で明後日の方向を見てるし、丸井と赤也はというと勢い良く机に倒れこんだ。ジャッカルはアホ二人のリアクションに普通にびっくりしてた。

「…それで、なまえ。バカなこととは具体的に何なのだ?」
「さすが柳!よく聞いてくれた!うーんとね、そうだなぁ。例えば夢の国に皆で行った日に誰かの家でオールして、朝になったらカラオケのフリータイムで夜まで歌って、そのあとは…うーん」
「…待った、ぜってー無理。お前だって体もたねーだろぃ」
「いや行ける。三連休というテンションでいける」
「まず夢の国のあとオールってところでキツイっす」
「赤也、若さが足りないよ若さが」
「んな無茶な!」
「うん、面白いかもね」
「部長おおおお」
「ま、待て!男女で外泊をするなどふしだらだ!たるんどる!」
「真田、外泊くらい普通だろ。それとも何?なまえに変なことをするつもりなの?ああ、なんかそれも面白いね」
「!?幸村…!?」
「ちょっと、勝手にたるんどる展開に持ち込まないでよね。私は単純にみんなとの時間を楽しみたいだけなんだからさ」
「…で、三日目はどうするんじゃ」
「あ、仁王が現実に戻って来た。うん、それなんだけど。みんなの意見も取り入れようと思って」
「俺は明後日発売の新作のゲーム買う予定が…」
「俺も家の手伝いが…」
「は?俺に逆らうつもり?」
「「まさか」」
「そう、良かった。ああ…そうそう。これはあくまで俺の意見なんだけど。俺の」
「俺のを強調しないで幸村。その時点で脅しだから」
「二日目はなまえ、三日目は俺のやりたいことをしよう。初日は、この中の誰か一人にやりたいことを決める権利をあげる」
「マジかよ!でもなんで幸村三日目なんだ?三日目っていうと全員バテて遊ぶ余裕無いんじゃ…」
「何言ってるの丸井。くたばってる奴に鞭を打って起き上がらせるのが楽しいんじゃないか」
「やっぱり!さすが幸村!」
「なるほど…となると、ここは公平にじゃんけんということにしましょうか」
「うむ、そうだな。じゃんけんで何を出すかは予測不可能だからな」
「嘘だ!!柳さんじゃんけん負け無しじゃないっすか!!じゃんけんで確実に勝つデータ収集とかもしてるんだしょう!?」
「さあ、どうだろうな」
「よし!柳がデータ使うんなら俺はアレやるぜ!手で筒を作ってじゃんけんで相手が何出すか見るやつ!…おお〜見える見える!お前らが何出すか手に取るようにわかるぜ〜」
「ブンちゃん、それ迷信じゃき」
「ここで勝負に乗らないのは男としての恥。…よし。皆の者、準備はいいか?俺も腹を括った。負けても恨みっこ無しだ」
「真面目か。たかがじゃんけんだろ」
「うるせーお前はいいよな二日目が保証されてるんだから!俺たちは勝つのに必死なんだよ!栄光を掴み取りたいんだよ!いいからなまえは審判な!じゃんけんの合図シクヨロ!」
「はいはい。じゃあいくよ〜」

 さーいしょーはグー。じゃーんけーんポンッ

「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「ふ。俺の一人勝ちのようだな」
「ほらやっぱり!!!柳さん勝つと思ったんすよ!!!」
「ぐ…!確かに全員グーを出す光景が見えていたのに…!」
「丸井くん、では何故君もグーを出したのです」
「…自信無かったんだよ」
「まあ皆落ち着きんしゃい。柳のことじゃき、そこまで無茶な要求はせんだろ」
「ああ、きっとそうだ。柳、お前は何をしたいんだ?」
「ふむ…そうだな」

 バッと一斉にここにいる全員が柳の方を向いた。緊張感漂う沈黙が流れる。

「 ( 柳さんお願いっす!自宅待機って言ってください! ) 」
「 ( まさかとは思うけどスイーツ食べ放題に行こう…なんてことには…ならねぇか ) 」
「 ( 柳くん、ここは穏やかに図書館で読書をする会を催しましょう ) 」
「 ( 各々のやりたいことをする、とか言ってくれねーかな。家の手伝いがあるんだけど… ) 」
「 ( 今日も空は青いのう ) 」
「 ( 俺はお前に従おう、蓮二。しかし外泊だけは勘弁してくれ ) 」
「 ( ふふ、柳は何をしたいのかな ) 」
「 ( なんか幸村楽しそう。怖い ) 」

 柳はノートを閉じて顎に指を添えると「ふむ」と、考え込むように黙った。みんな柳だけを見つめている。心なしかドックン…ドックン…と鼓動の大きな音がBGMとして聞こえる。もはや神に祈るかの如く私と幸村以外が目を閉じた。必死すぎる。思わず笑そうになるのを堪えて私も柳を見つめた。その時、柳が前を向いてうっすら目を開いた。そして口元に笑みを一つこぼす。

「神社に参拝に行くのはどうだろう」

 SANPAI?
 全員の頭上にハテナマークが浮かぶ。

「寺社巡りと言ったところか」
「え、寺社巡り!?一箇所じゃ終わらないってことすか!」
「当然だ」
「ふふ、柳らしいね。いいよ、そうしようか」
「もはや遠足みたいだね。別にいいけどさ」
「なまえは二日目に何をするのか決めてるの?」
「もちろん。幸村は?」
「決めてるよ。でもまだみんなには内緒。明日、蓮二の気が済むまでは秘密にしておくよ」
「何それ怖い」
「ふふ」

 満足げに微笑む幸村を見て思った。ああ、これは死者が出るかもしれない。


≪≪≪



「やあ皆、おはよう。この三連休は良い天気に恵まれるみたいだね。思いきり楽しまないと」

 三連休の初日を迎えた。待ち合わせは駅近のマックで、ひとまず昼食を取ってから寺社巡りを行うこととなった。いつも通り爽やか笑みを携えて現れた幸村を前にして、仁王ブン太赤也の三馬鹿は死を覚悟したかのようにゆっくり俯いた。気持ちはわからなくもない。みんなは三日目に何が起こるのか、怖くて仕方ないのだろう。正直私も危機感を覚え始めているが、それ以上にこうしてみんなと集まって遊べることが嬉しい。たとえ幸村の地獄が待っていたとしても、だ。

「さて、そろそろ行こうか。丸井はいつまで食べてるつもりだい?」
「んぐっ。…あとアップルパイ十個は食べたい」
「立て」
「え、で、でもさ…」
「立て」
「幸村目怖いって!」

 食に関しては我を通すあのブン太が折れた。その光景をデータ化してノートに記す柳は安定の通常運転。「これじゃまるで地獄巡りじゃな」と言った仁王の言葉がまさしく過ぎて笑った。

「いやーでも、この季節の神社って趣があるっすよね!なんつーか、土と枯葉の匂いが肺に染みるっていうか」
「へえ〜赤也がそんな詩人みたいなこと言うなんて珍しいじゃん」
「どういう意味っすかなまえ先輩」
「切原君の言う通りです。紅葉や銀杏を眺めて参拝するのもなかなかいいですね。神社には初詣でで来るくらいですから」
「う〜少しさみーな。なまえ、手貸せ」
「嫌だよ。あんたそう言って人の体温奪おうってんでしょ。冗談じゃない」
「なまえお前ってやつは!困ってる人がいたら助けなさいって小学校の時に道徳の授業で習わなかったのか!」
「人肌に縋ろうとしてるやつが一丁前に道徳について語るな!あんたは人を困らせてんのよ!」
「お前達少しは静かにせんか!」
「あーあ。あんたのせいで真田がキレたー」
「あーあ。ジャッカルのせいだ〜」
「俺かよ!?」
「うわ!ちょ、冷た!仁王何やってんの!?」
「寒いから暖をとっとる」
「私でとるな」
「あーなんすかなんすか仁王先輩ずるいっす!俺もなまえ先輩と手ぇ繋ぎたいっす!」
「赤也、手繋いでやるってさ」
「え、私そんなこと言ってな…」
「ジャッカルが」
「俺かよ!?」

 私たちの前を歩く幸村が小さく肩を震わせて笑っていることに、私たちは気づかない。柳と真田が呆れたように吐き出した息は白かった。冬がもうすぐ近付いている。

「…神社に参拝に来ても、こいつらと一緒である限り騒がしいことには変わらんな」
「ふふ、だから楽しいんじゃないか」
「ああ、その通りだな」
「幸村!お参りしよお参り!」
「ちょ、なまえ離れるんじゃなか。幸村に引っ付くくらいなら俺にくっついときんしゃい」
「嫌だよ仁王の手冷たすぎ!氷握ってるみたいだったもん!見てよこの血色の悪い手を!」
「俺かて寒いもん!」
「もんとか言ってんなよ」
「なまえ、歩きにくいよ」
「はー幸村の袖の中暖か〜。しばらくあっためて」
「ふふ。仕方ないね」
「なまえこの野郎!お前赤ちゃん体温だろうが!俺もあっためろぃ!」
「赤ちゃん体温は赤也だから赤也にお頼み。シッシッ」
「ちょっとなまえ先輩!それ俺の名前に赤が入ってるってだけっすよね!?俺赤ちゃん体温じゃないっすよ!」
「ベイビー赤也…ブフッ」
「何笑ってるんすか丸井先輩!」
「お前達整列しろ!お参りするぞ!」
「え?縦に整列すんの?」
「横にだ!たわけ!」
「ほらほら、静かにしないと神様も怒っちゃうよ」

 幸村が鐘を鳴らした。全員で静かに手を合わせる。長いようで短い沈黙。私はお願いすることはとっくに決まっていたのですぐに顔を上げたけど、ブン太と赤也は随分長い時間お願い事をしていた。アホだ。お願い事は欲張っては神様も叶えてくれないのに。あの二人のことだからどうせ死ぬほどスイーツ食いたいとか新しいゲームが欲しいとかそんなところだろう。ジャッカルはきっと店がもっと栄えますようにとかそんなんだと思う。前に似たようなこと言ってたし。柳生は何かな…世界平和とかだったら期待を裏切らないんだけどな。仁王はどうだろう。すごい気になる。

「あ!おみくじ!なまえ先輩おみくじ引きましょーよ!」
「マジ!?引く引く!」
「今更今年を占ってどうするんだよ…」
「ジャッカル夢ないな〜未来は変わるんだよ?ひょっとしたら元旦に引いたおみくじとは違う結果が出るかもしれないじゃん!」
「そりゃくじなんだから違う結果になるだろ。むしろ同じだったらこえーわ」
「ブン太うるせぇ。つべこべ言わずにあんたも引け。そして悪運だったら笑ってやる」
「お前性格悪いな!」
「部長達も引きましょうよ!」
「うん、そうだね」

 期待と不安が入り混じる微妙な気持ちになりながら、一回百円と書かれた箱にお金を入れて綺麗にたたまれた紙を取り出した。何故か全員で顔を見合わせた後、意を決したかのように一斉に開く。私の運命はいかに!

「…うおおおおおおい!」
「どうしたんじゃなまえ」
「恋愛のお告げが辛辣すぎる」
「ぶ!ざまあ!何て書いてあるんだよ」
「『諦めなさい』」
「ぶふっ!」
「ブヒブヒうるせーなブン太テメェ…。そういうあんたはどうなの?」
「『待てば来る』」
「何それアバウト過ぎ。いつ来るんだよ」
「…とりあえず待つわ」
「 ( 私こいつらと付き合ってるからきっと彼氏できないんだな ) 」
「ちょ!!!見てください先輩たち!俺すっげーの引いちゃいました!!」
「切原くん落ち着いて、はしゃいでると転びますよ」
「どぅわ!?」
「ほら」
「赤也ー大丈夫ー?」
「へへ、平気っす!それより見てくださいよ俺の運勢!」
「運勢って見せていいんだっけ」
「ほらほら!」

 私たちの前におみくじを掲げた赤也がドヤ顔で鼻を鳴らした。どうせ大吉とかだろ。そんな自慢げに言われても大吉くらい私だって引いたこと

「だ…大凶…」
「ね!すごいっしょ!ぜってー珍しいっすよね!」
「…うん、まあ。この神社大凶が多く出るって聞いたことないけど」
「ほらやっぱり!レア物だ!今年いいことあるかも!」
「赤也、確かに珍しい運勢ではあるが大凶だということを忘れるな」

 知ってたけど改めて思った。赤也アホだ。

「で、恋愛運とか金運とかは何て書いてあるの?」
「金運は…『節約を心得よ』…ぜってー無理。げ!恋愛運なまえ先輩と同じなんすけど!」
「あらいらっしゃい赤也!売れ残りとして共に頑張ろう!」
「う〜。じゃあなまえ先輩付き合ってくださいよ」
「無理。私付き合うなら年上って決めてるから」
「!?」
「赤也フラれてやんの〜。早速おみくじの運勢当たってんじゃねーか」
「ま、まだ全体運が残ってるっす…!」
「見せて。何々、『無茶をすると体を壊して何かを失うことになります』だってさ」
「…無茶?」

 赤也が難しい顔をしておみくじをジッと見つめていると、それを遮るように幸村がパンパンと手を叩いた。

「みんな、柳が移動するってさ」
「ああ、参拝も終わったことだ。茶屋にでも入ろう」
「わーい!和菓子!」
「柳君、寺社巡りをするのでは?」
「いいんだ。充分満喫できたからな」
「休憩っすか!甘いもの食べたいっす!」
「お汁粉食べた〜い」
「あーお汁粉食いてーな。あとおはぎと、葛餅とみたらし団子も。うわっヨダレ出てきた」
「丸井先輩汚いっす」
「そういえば、明日はどこに行くんだ?確かなまえが決めるんだったよな」
「おう。イエスイエス。聞きたい?」
「ああ、そうだね。俺もそろそろ言っておこうかな」
「い、いよいよ明日以降の予定があきらかに…!」
「心臓ドキドキいってるんすけど俺…」
「安心せい赤也、俺もじゃ」
「じゃあまず私からね!」

 懇願、期待、諦め。色々な感情がみんなの表情に滲み出ている。うん、期待は裏切らないと思う。ある意味。

「私はねぇ、みんなと遊園地で絶叫系のアトラクション堪能した後、真田の家でお泊まり会したい」
「「「「「「「!?」」」」」」」「やっぱりオールなのかよ!!」
「ま、待て!俺の家だと…!?」
「なまえらしいね。じゃあ俺の予定を発表するよ。俺は明後日、ボーリングとバッティングセンターとカラオケに行こうと思ってるんだ。ああ、全部やるから。反対意見は認めないよ」
「「「「「「「!?」」」」」」」
「わーめっちゃ楽しそう!めったにないよね、こんなに思いっきり遊ぶ機会!」
「…俺、おみくじによると無茶しちゃいけないらしいんすけど…」
「諦めろ赤也。枝におみくじ結んで来い」
「うっす…」

 私と幸村と柳を除いた全員がおみくじを枝に結び、そして二度目のお参りをしていた。どうせこの三連休を生き残れますように、とかだろう。一日で二回もお参りするなんて神様も呆れてしまう。

「そういえばなまえは何てお願いしたの?」
「卒業してもみんなと楽しく過ごせますように」
「この場にいる全員が願っていることだろうな」
「この三連休も決して忘れない思い出になるだろうね。提案してくれてありがとう、なまえ」
「こちらこそありがとう幸村」



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