「影山くん」

 名前を呼べば、見慣れた長身の黒髪がくるりと振り向いた。彼くらいの長身はそうそういないから、混雑する廊下でも見つけやすくて本当に助かる。

「みょうじか。なんだよ」
「この間借りたバレーの本返すー。ありがとね、勉強になったわ」
「ああ…そういえば貸してたな」
「まさかの忘れてたパターン。でも為になったよ〜これで少しはマネージャーとして役に立てそう。でね、お礼に私も良いものを貸してあげようと思って」
「良いもの?」
「ほれ」

 ガサゴソと紙袋から取り出した一冊の雑誌を影山くんに手渡す。すると、彼は受け取る素振りも見せずに雑誌の表紙を鋭い目つきで眺め、そのままゆっくりと目線だけを私に移した。喜んで貰えると思ったのに、とっても迷惑そうな顔をされた。なまえちゃんしょんぼり。

「影山くん、グラビア雑誌だよ?もっと喜ぼう?『うっひょ〜!』とかなるでしょ?」
「ならねぇよ」
「あれぇ…おっかしいな〜。日向くんは顔真っ赤にして『おおおお俺そんな…!まだ早いっつーか…!』ってテンパってて超ウケたのに」
「お前これを日向にもやったのかよ…」
「うん。月島と山口にもやった。月島は受け取ったかと思えばそれで頭叩いてきたからマジで腹立った。山口は顔真っ赤にして受け取るか受け取らまいか手をバタバタしながら己の理性と闘ってたよ。結論、山口はむっつりスケベ」
「お前何がしたいんだよ」
「君たちが健全な高校生であるかどうかを知りたい」
「…お前は不健全だな」
「えー何で?この雑誌私のじゃないよ?田中さんのだよ?」
「そんな馬鹿みたいな調査をするお前が不健全だっつってんだよボゲ」
「はぁー!?何だし!!内心この美少女の水着姿にドキドキしちゃったくせによぉ!ムカつくから影山くんはオープンスケベってことにしておこう」
「やめろ」
「日向くんと月島辺りにチクる」
「ざけんなボゲ!」

 ふーんだ。つまらんリアクションをした影山くんが悪いんだし。もうちょっと面白い反応してくれたって良いじゃん。私の予想では、影山くんは顔を真っ赤にしてガチガチに固まっちゃうとかそんな感じだったのに顔色一つ変えないし、むしろ冷めた反応だったからまったく正反対の結果となった。何それ面白くない。優劣付けるなら山口が余裕の優勝だ。はいオメデトウ。

「影山くんさぁ、女の子にもうちょっと関心持とう?」
「な…別に、お前に言われる筋合いは無いだろ」
「いやまぁそうだけどさ?でも彼女欲しくないの?」
「…は!?べ、べ、別に!」

 お、おやおや〜?おやおや?初めて影山くんが動揺しましたぞ。もしや、彼女欲しいのか?というかこれは、好きな子がいるパターンか?

「でもさ、影山くんモテるじゃん。告白とかもされてんでしょ?もしや彼女がいたり?」
「…ねぇよ」
「まったまた〜。2組の可愛い子ちゃんに告白されたって専らの噂だぞ?嬉しいくせにっ」
「嬉しくねぇよ。…本当に好きな奴にしか興味ねぇ」
「え、やっぱ好きな子おるんか」
「!?!?え、いや…!」
「はは〜ん、てことは好きな子ならば大胆な格好も見てみたいと…グラビア雑誌では満足出来ないと…」
「そんなこと言ってねぇだろ!」
「顔に書いてあるぞ青少年!」
「書いてねぇ!ニヤニヤすんな!」

 なんだよこのちゃっかりさんめ!影山くんの好きな子って誰だろう?めっちゃ気になる。やっちゃんかな?それとも年上狙いで潔子さんかな?それともそれとも同じクラスに良い感じの子がいるのかな!?やっぱりこういう好きな人の話とかってワクワクするわ。影山くんの話題なら余計に。

「影山くん教えてよ。君の好きな人」
「は、はぁ!?!?言わねーよ!」
「何で?良いじゃあん!私口は堅いよ?影山くんだけに影ながら応援するから教えてよ〜」
「な……ッ!!こんの…ボゲェ!!」
「え!?な、何でマジギレ!?」
「お前なんか嫌いだ馬鹿!クソがッ!!人の気も知らないでよくもそんなことをぬけぬけと…!」
「エッ何で!?何で私のこと嫌いな展開になっちゃうの!?なんかすごい悪口のオンパレードだしッ!」
「うるせぇバーカ!しばらく口利いてやんねぇからな!」
「え!やだよ影山くん!何でそんなこと言う、のぉおおお!?!?」

 地味にショッキングなことを言う影山くんに詰め寄ろうと足を一歩踏み出した時、突然ビュオオオと窓から強風が吹き込んだ。乱れる髪を押さえながら目を瞑って近くにいた生徒が窓を閉める音を確認してからゆっくりと顔を上げた。

「はービックリした…今の強風ヤバかったね。髪の毛持っていかれるかと思った。影山くん大丈夫?」

 乱れた髪を整えながら影山くんを見る。彼は目を見開いて固まっていた。

「オーイ影山くん?大丈夫?」
「…」
「オイ?ちょっと大丈夫?ここだけ時間止まってんの?」
「………わ、悪い」

 みるみるうちに影山くんの顔が真っ赤になって、ガチガチと小刻みに震え出した。そして何故か謝罪をしてから私に背中を向けると、ロボットのようなぎこちない動きで自分の教室に消えて行った。…ごめんって何が?さっき嫌いって言ったこと?別に本気にしてないし。ていうか、え、待って。話の途中なんだけど。勝手に終了させられちゃったよ。

「みょうじさん」
「あ、月島」

 月島も強風の被害に遭ったらしく、顰めっ面で髪と肩をパッパッと片手で払っていた。

「ぷぷ、やーい。月島ザマァ〜」
「…あんたには言われたくない」
「は?何でよ」
「まさか気付いて無いわけ?今の風でスカート全部捲れ上がってたよ。少しは恥じらい持ったら?」
「え!?うっそ!?」
「ホント」
「マジかよ。もしかして影山くん見てた?」
「だから顔真っ赤にして逃げたんでしょ」
「マジかよ。気分悪くしてごめんね影山くん…」
「…鈍感」



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