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ひととせの末に


 最後に雑居ビルの屋上にきたのはいつのことだったでしょう。いつだって構いませんけど。

 ともあれ、大晦日。十二月の最後の日、一年の終わりの日。バイト先のコンビニで買った抹茶ミルクなるカクテルの缶を片手に、築何十年かもわからない、一歩間違えれば廃墟の最上階にきたのは、ただの気まぐれです。やだなぁ、意味なんかありませんよぉ。いちいち私の行動に理由を求められても困りますし。

 近頃は事故防止のため、屋上は解放されていないことが多いそうですが、管理がずさんなのか自殺志願者を歓迎する気なのか、このビルはやすやすと地上に比べて天国に近い場所への侵入を許しました。天国。あるとは思えませんけれどねぇ。こういう場所から飛ぶ人って、なに考えているんですかね。本職はカウンセラーの私でも理解しかねます。興味津々ですよぉ。

 飛び降りたくなったらその心境をぜひ話しにきてください。いえいえ、戯言です、人生相談はお控えください、カウンセラーですけれど。

 マフラーとコートでは防ぎきれない寒さです。本気で階下にある事務所に戻ろうかとも思うものの、ここまできてという気もします。五分だけいることにしましょう。

 猫の額ほどの広さしかない空間で、白いため息をはきました。このビルでなにか不祥事が起こると退去とか面倒なんですよぉ。だからフェンスの高さはせめて調節してくださいませんかねぇ。

 私の胸くらいまでしかないとか、ほんと飛び降り放題じゃないですか。体重かけたら軋みますし。

 それにしても年末というだけで人はどうしてこうも盛り上がれるのでしょう。カレンダーが新しくなるだけです。ひとつ年をとるだけです。たいした変化はなく、所詮、今年の延長線上にあるだけだというのに。生活環境が変わる人もいるでしょうが、あなたはあなたのままで、以上にも以下にもなれないのに。

 理解できませんねぇ。ええ、この抹茶ミルクの美味さと同じくらい理解できません。ものすごくまずいです。抹茶をバカにしているんですか。私だって怒りますよぉ?
 
 開発者を締めたくなるアルコールはあたりにまいておくことにします。話を戻しましょう。なにも貴重な話はしていませんが。

 私の一年も前年と大差ありませんでしたよ。水槽頭の男と同居することになったりしたくらいです。ささいな生活環境の変化でしょう。ちなみに役立たずです。早々に追い出したいのですけど、好奇心に負けているところです。だって水槽頭ですよぉ。珍しいじゃないですか。

 とか言っていると眼下にくだんの同居人が見えました。部屋にいなかったんですね、今気づきました。妙に足どりが軽やかです。理由なんて知りません。

 ビルに吸いこまれていく水槽頭を見送っていると、視界のはしに白いものがちらつきました。雪です。そりゃあ、寒いわけですねぇ。

 年末に降雪されたところで、寒いばかりでなにも嬉しくありません。春よこい。しかし、春は春で騒がしいのであまり好ましくありません。

 ゴミの不法投棄は感心しませんので、缶は持ち帰ります。私、とてもいい人ですね。知っていますよ、ええ。

 約束の五分は経過しました。約束? 誰と? 相手がいなくて成り立つものでしょうか。ああ、自分と、かもしれませんねぇ。どうでもいいです。

 とにかく帰りましょう。カウントダウンに浮かれる街を見下ろすのも、早くも飽きました。面白みがわかりませんから。

 では、せいぜいよいお年を。




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またまたあいき様より!!私が書くより腹立たしさが増してます!これはいいクズ!!
個人的に最後の一文が一番好きです。すげー言いそう。
ありがとうございました!!
20130103

Thank you for reading.