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幻想楽団を想う

 卓上旅行と呼ぶには、それはもっと荘厳で、壮大なものであった。私はいついかなるときも、それを耳にするだけで、数多の地平を渡ることが出来るのである。

 最初に出会ったのは、哀しき神話の中で運命に翻弄され、まま従い、あるいは抗い続けた死するものたち。それは双子であった。忌み子であった。王であり詩人であり奴隷であり、母であり父であり、神であった。剣の代わりに握りしめたのは百五円のシャープペンシルであったけれど、私はその時、間違いなく神話の中にいて、縦糸の先を想いながらも終焉を見届けた。

 次に出会ったのは数多の物語。双子の姫とともに様々な物語を見て謳って、主の生まれてくるに至る物語をともに紡いだ。伝言の中で、主が生まれてくる世界を祈った。

 繰り返される、出口のない楽園の姿をこの目にうつした。無垢な少女の、脆い脆い微笑みに息が詰まり、腐臭漂う絵本のページをそっと開いた。始まりは賭けであって、一概に悪とは呼べぬ、ただ愛した人への想いが、謂わば愛が原因であった。強い愛は少女を穢し傷つけ、それは己が身にも返ってくる結果となったのである。一体加害者は誰で、そして被害者は誰か。わからぬまま、ただただ犠牲者ばかりが増えていく。仮面の男は人知れず瞳を濡らし、少女は狂ったように微笑みを貼り付けていた。

 黒い表紙の書物には、膨大な量の惑星(ほし)の記憶が記載されていた。それをそのままに忠実に従わせることを正義とした組織と、抗えることを信じた子供たちを見た。盲目の詩人は、見えない目で何を見たのだろう。薔薇の騎士は安らかにいったろうか。沈んだ歌姫の、泡と化した歌は。それらは全て、辿り着くべき結果ではなく、たどり着いた結果であって、僕らの未来も、そうであれると、そう言い放つ子供を、見た。

 歴史であり記憶であり、洒落た記録でもあった。あるときは四畳半の片隅で、あるときは広い教室のとある席で、あるときは、息が詰まりそうなほど窮屈な満員電車に揺られながら。私は数多の地平を渡り、数多に出会って、見て、聞いて、知ったのである。いや、正確には渡らされ、出会わされ、見せられ、聞かされ、知らされたのである。いつだって受け身だ。
 次に出会う、出会わされる地平を想う。それはきっと素敵なんだろう。数多の苦しみ悲しみを押し込めていながら、どこか切なるメッセージを紡いだ、素晴らしいものなのだろう。

 私は、そっと目を閉じる。
 偉大なる王国の進路を、ただただ、想う。


120619
Revo陛下お誕生日おめでとうございます。
記念SS第二段。


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