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ぺんぎんの歩み

綾/白森


 私は、生まれも育ちも大阪です。生粋の大阪人です。人情にあつく、かつては天下の台所と呼ばれていた、笑いと食べ物と、なにわ商人の街、大阪が、私は大好きです。
 だけど、大阪出身であることを、ひた隠しにしたがる自分もいます。理由は、恥ずかしいからです。その感情が、私の大好きな大阪に対する侮辱と知りながら、私は、しかしやはり恥ずかしいと思ってしまうのです。何がどう恥ずかしいのか。それは分かりませんでした。
 チェイスに来て、まずは皆さん同じ国の方でないと知り、安心しました。そうです、私は、大阪を知る大阪以外の地域出身の方に対してのみ、恥ずかしいと感じたようなのです。だから、白森さんのことを聞いたとき、同じ日本人であることに対してまず安心はしましたけど、しかしすこぶる緊張してしまいました。だけど、

『俺、一度大阪いってみたいなって思ってるんです。今度、話聞かせてくださいね』

 その言葉が、実はとてもとても嬉しくて。そうおっしゃられたあとの、少しぎこちない笑みさえも。多分彼は、普段あまり笑わない人なのでしょう。それでも、向けてくれた不器用なそれが、嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。
 優しい人なんやろなあ、この人はって。それは、どこか確信めいたものでもありました。




「藤林さん、」
 夕食後、皆さん各自部屋に戻り、一人食器を洗っておりましたところ、ふいに声をかけられました。食器を洗う手を止めて振り返ると、そこにいたのは白森さんでした。
「お部屋にお戻りになられはったのでは?」
「ん、ちょっと聞きたいことがあったんです」
 聞きたいこと、ってなんやろか。不思議に思いつつも、白森さんに断りを入れてまずは仕事を終わらせることにしました。といっても残りは少なかったので、あっという間に洗い終わります。私はタオルで手をふきながら、白森さんに向き直りました。
「お待たせしました。聞きたいこと、と言いますのは……?」
「あ、や、まあ大したことじゃないんすけど……」
 白森さんは気恥ずかしそうに頭をかきながら、
「味噌汁に使った味噌って、もしかして白味噌?」
 よもや食材のことを聞かれるとは思わず、私は一瞬ぽかんとしてしまいました。が、すぐに「ええ」と首肯します。と、ここで気付いたのですが、そういえば東と西でお味噌の種類は違っておりました。
「も、もしかしてお口に合いませんでした……?」
「え? あ、違う! うまかった! すっごく!」
 白森さんは力強く否定なさいます。私は、まさかこんなにも力強く返されるとは思わず、安心はしましたけれどしばしぽかんとしてしまいました。白森さんは、すぐにはっと我に返ったようで、
「あ、いや……いきなりすみません」
「いえ……、なら良かったです」
「んと、味が少し違ってて、びっくりしたんです。けど、すごく美味しかった。し、俺独り暮らしだったから、久しく誰かの手料理食べてなくて、なんか……うん。美味しかったなあって。あー、同じこと言ってら」
 白森さんは、恥ずかしそうに私から少し目を背けつつも、
「それだけ、聞きたかったんです。えと、……ごちそうさまでした」
白森さんは、そのまま一礼すると、踵を返して足早にこの場を去っていきました。私はと言えば、なんだか、いまいち状況がよくわかっていなかったのですが。
 美味しい、って言うていただけるんは、嬉しいことやなあって、多分そんなことを思っていたと思います。それから、彼の去り姿を思い返して、私より二つ上とは思われへんなあ、なんて失礼なことを考えてしまいました。



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休憩中に書くんじゃなかった。まとまってないし無理矢理過ぎた。わお


Thank you for reading.