よしなしごと




 

 確かな温もりを、腕に抱く。
 小柄な形を保ち、温もりは息づく。数センチメートルしかない間隔。すぐ傍らで息を吸い込めば、ほのかに甘いようで、形容しがたい香りがした。恐らく、彼がいっとう大好きな香りである。大好きな温もり、大好きな香り。大好きで大好きで、たまらないくらい愛しい君を、こうして腕に抱きながら夢と現の狭間をさ迷う、この瞬間は酷く優しい。強いてあげるならば、すっかり夢の中を泳いでしまっている君は、こちらを振り向くことも、名前を呼んでくれることもないので、それはとても寂しいことだと、彼は時折そう思ったりする。だけれど、君を抱く腕の力を少し強めてみたり、顔を押しつけてみたりすれば、君は僅かに身動ぐ。君がここに在ることを認識すると同時に、彼は、己の存在の確かさを再確認するのだ。たったそれだけのことが、彼にとってどれほど幸福であるか、推して識ることなどはできない。
 夜半。窓から射し込む弱々しい月の灯りが、暗い室内をぼうっとうつしだす。換気のためにと僅かに作られた隙間から、冷たい夜風がするりと入り込み、



未完成供養


2013/11/18 16:33





 

 登り坂を登っている。引きずるようにして、私の肉体を前へ前へと進める足はひどく重く、この運動は果たして私が命じて行っているのか、あるいはまだ見えないこの坂の先に何かがいて、そいつが念力でも使って動かしているのか、わからなくなる。わからない。私が今何をしているのかさえ、一瞬見失ってしまう。私はひどく疲れていた。
 この坂を越えた先には何があるのだろう。何かあるのだろうか。それを知るために私は登っているのだろうか。知らなくてはならないのだろうか。こんなにも苦しんで、息も乱して、何もかもを磨り減らしてでも、知るべきものがそこにはあるのだろうか。
 やめよう。その四文字が、ふいに脳裏に浮かぶ。そうすると、次から次へと言葉が現れては私の腕を引いた。やめよう、やめてしまおう。この先にあるものの、確かさもわからないまま、これ以上苦しみ続けるのは愚かだ。私を守ってやれるのは私だというのに、その私が、どうして理由もなく私を苦しめる。
 言葉は腕を引き、指を絡め、脹ら脛を撫でる。それはひどく優しくて、けれど、それでも足は止まらない。見えない何かは、未だに私を引き寄せ続ける。
 この先に待つものが、一体何なのか。それはまだわからない。わからないから、ここで結論を出すことはできない。わからないとは、非常に曖昧で、不明瞭な、ひとつの可能性である。可能性の有無を示す言葉である。



未完成供養


2013/11/18 16:32





 

私と云ふ、得体の知れぬものが
あゝ、がらがらと 瓦解していく様を
唯、只管に見てゐた

未だ帰路は途絶えず



2013/06/12 23:03





 

強くもなく かといって弱者にもなりきれないで 体裁だか自尊心だか ちんけなものを気にして宙ぶらりんの お前がほざく戯言は実に滑稽で仕方がない 非難ならどうぞ遠慮なく 私にはそれを受け入れる強さがある 何故なら 自分に責任を持っているから



2013/06/12 05:07





 

 所詮は自己満足の域を越えない自己主張(アピール)はもういいんだよ 僕を踏み台にして、見えた景色は最高かい 結局のところなにがしたかったのって聞けば 君は怒るからさ 聞けないんだけどさ 一先ず僕の意見を聞いておくれよ もう充分だ



2013/06/01 22:59



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