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「あーまじでうざいわー」
「ほんと、あんな上から目線で物言われたら誰でも腹立つよな」
「しかも顔を見せるのは朝礼の5分間だけとか、本当に仕事してんのかよ」
今日も今日とてサリアへの不満で食堂は賑わっていた。
「あー、たりーなー」
「今日労働終わったらカラオケいこーぜー」
「お、いーなー」
「んじゃ今日もがんばるかー」
間宮のグループは朝から夜の楽しみの話で今日の労働を乗り切ろうと奮起する。
「神白も来るよな?」
「あ、ああ、はい!もちろん!行きます!」
咄嗟に笑顔で答えて取り繕ったが、誰も気に留める者はいなかった。いつもは話の中心にいる神白だったが、最近は少し上の空であることが多かった。原因は、皆の嫌うあのお方なのであるが…。



「神白正樹、お前はこれから3日間労働をしなくてよい。」
サリアの秘書を務めるルーブルに呼び出されたかと思えば、急に労働停止を告げられて神白は頭が真っ白になった。
「え、どういうことですか」
「察しが悪いな…お前はサリア様に予約に選ばれたんだよ」
言うことだけ言ってすぐに去ったルーブルを呆然と見つめる神白。頭の中は突然の出来事に処理しきれず混乱していた。
「俺が、サリア様専用の食事に選ばれた…。」
間宮からそんな制度があると聞いてから、ずっと羨ましかった。あの崇高で美しいお方と直接接する機会があるだなんて、どうして皆が嫌がるのかわからなかった。そんな立場が手に入れられるのなら、何をしたって構わないと思っていた。どれだけかかっても、いつか見初められる時まで奉仕して労働に励もうと思っていた。まさか、こんなに早くお呼びがかかるだなんて。
神白は、極めて異例な新人の登用に期待せずにはいられなかった。


「おー、神白、お前予約に選ばれたんだってな」
「はははっ、おめでとう、そしてご愁傷様」
「サリア様のご機嫌を損ねないようにしろよー、なんかあると強制退所させられるらしいからな」
グループの者たちは事実を聞きつけてすぐに神白をなじった。間宮も、お互い苦労するな、などと声をかけた。神白は、笑って答えたが、内心では穏やかではなかった。

「そんなに嫌なら、俺が全部引き受けますよ…」
いつもの屈託のない笑みで間宮に答える。間宮は、お、おう、と咄嗟に答えたが、なんだか仄暗いものを見たような気がした。


「神白正樹、サリア様がお食事をなさられる。準備をしろ」
待ちに待ったこの時がやってきた。三日前から、この日を心待ちにしていた。やっと、サリア様と直に接することができる。神白は高揚していた。準備をすませるとすぐに食事室へと入る。そして、初めてここまで間近で見るサリアの美しさに圧倒されて、しばらく動くことができなかった。
「何をしている、早く入ってこい」
はっと顔を向けるとサリアは神白の目をじっと見つめていた。サリア様が、俺に話しかけている、その事実だけで昇天しそうだった。
神白が指示どうりに下を脱いでベッドに横になると、サリアはさっそくペニスを口に咥える。
「うっひゃっっ」
するとすぐに神白は射精してしまう。サリアと接しただけですでに身体は高ぶっていて、我慢ができなかった。
「っっっすいません!ほんとはもっともつんですけど!緊張してて!」
サリアは無表情で冷ややかに神白を見つめたが、そんなことを気にしていないように早口でまくし立てる。どうにか嫌われないようにと必死だった。これっきりで予約が終わってしまうのは避けたかった。サリアはごくりと精液を飲み込むと、いつものように部屋を後にした。

サリア様に嫌われたかもしれない…負の感情でいっぱいになりしばらく神白は呆然としていた。

「ルーブル」
無表情ではあるがいつになく興奮したかのように話しかけてきたサリアにルーブルは不思議に思いながらも返事をした。
「あの男の精液は永久予約しろ」
それを聞いてルーブルは目を丸くした。しばらくは間宮の天下だと思われていたが、ここに来てダークホースが現れるとは。サリアは食に関してはうるさく、なかなか新規の精液提供者を急に囲い込むようなことはない。それだけ、神白の精液が美味だったということか、と納得した。正直に言うと、間宮よりは神白の方がましだと思っていた。あのイヤイヤやってやっているというような態度をするいけすかない男よりは、上司に対しては素直で忠実、そして何より扱いやすそうな神白を気に入ってくれるほうがルーブルにも介入の余地がある。それから、ルーブルは神白を優先的に予約するようになった。とはいっても3日という間隔が空くので、やはり間宮を呼ばなくてはならなくもあった。


「神白」
「はい」
待っていたかのように神白は鉄格子から出る。あのあとすぐにルーブルから予約のお達しが出てすぐにはーーーっと一息ついた。あの美しいお方に嫌われずに済んだ。触れ合う前だったらまだしも、もう俺はサリア様の匂い、瞳の色、髪の質感まで近くで味わってしまったのだ。知ってしまった後でお預けなどされたのでは、気でも狂ってしまいそうだった。やっと3日経った。昨日は間宮さんが呼ばれたようだったが、あの人には負けられない。間宮のことが嫌いというわけではなかった。だが、あんな風にサリア様を貶めたことを言うような人に、サリア様のことでは負けるわけにはいられなかった。


食事室のドアを開けて対面すると3日前からずっと焦がれていたあのお方が優雅にソファに腰掛けていらっしゃった。すぐにベッドへと向かい、食事の態勢に入る。

「ううううっあっはあっ」
今日はこの至福の時間を早く終わらせるわけにはいかない。できるだけもたせようと下半身に力をこめるが、生まれてからずっとこの食事を行ってきたサリアの前ではなす術もなく、呆気なく達してしまった。

「っっん、ごくっっ」
美味しそうに飲み込むサリアの表情を見て、いても立ってもいられなくなる。ルーブルからは、サリアに対しての言動に関して厳しく注意を受けていたが、神白は咄嗟にサリアに話しかけてしまう。

「俺の精液、美味しいですか?」
真剣な表情で問いかけられ、サリアは目を丸くさせた。いつもの無表情が少し崩れたことが嬉しくて神白は満面の笑みで再び問いかけた。
「他の人と比べて、どうですか?」
サリアは少し思案した。ルーブルには人間と気安く話してはいけない、と言われていたが、このくらいならモチベーションにも繋がるはずだし良いだろう、と工場長としての謎の貢献欲が生まれ、問いかけに答えた。
「お前の精液は、今まで食した中で最も美味だ。」
まさか返事をいただけるとは思ってもいなかった神白は歓喜に震えた。さらにここまで評価していただけるなど、こんな栄誉なことは他になかった。
「〜〜〜!俺、もっと頑張ります!精力つけて、もっとサリア様に気に入ってもらえるように!」
前のめりでそう宣言され、サリアも悪い気持ちはしなかった。今まで人間には毛嫌いされてばかりで、特に困ったことはなかったにしろ、やはり面白くなかった。こんな風に下心も見せず慕ってくれる人間など初めてで、サリアも少し気を許しかけていた。
そして何より、神白の精液があまりに美味すぎて、サリアは神白の精液の虜になっていた。それこそ、今まで贔屓にしていた間宮のことなど、頭の片隅にも残らないほどには夢中になっていた。


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