ちゃっかり

「瑞樹く〜ん、お金貸して☆」
逃げ回っていたクソ従兄弟がひょっこりと部屋に顔を出した。しかも借金押し付けたことには触れずさらに金をせびるつもりらしい。こいつ、どこまでクソなんだ?

「お、お前なあ!!!俺がどんな目に合ったと思ってんだよ!借金まだ残ってんだよ!」
あと、5千万もな!一等地に家建つぞ!ごるあ!
「え〜、あ、あの借金取り追って来ないと思ったら、本当に瑞樹のとこ行ってたんだ、ははは」
「はははじゃねえよ!流石にもうこれ以上お前を甘やかすつもりはねえからな!これから借金しようが何しようが俺はもう知らないからな!」
それは、ずっと考えていたことだ。今回の借金の肩代わりで、もうこいつを甘やかすことは辞めることにした。俺にも限界はあるし、こいつのためにもならない。これからは、道路工事でもなんでもさせて働かせるつもりだ。
「え、えええ〜、俺もう前の女にもらった口座の残高0なんだよ〜。働くにしたって、俺には肉体労働は無理だし〜」
こ、こいつそんなクソなことしてたのか。本当に女に貢がせるのがうまいやつだな。いや、それを言うならホストなんてやってる俺も同じだが。
「それならホストでもなんでもやりゃいいだろ」
「俺酒飲めねえも〜ん」
そうだった、こんなホストまがいのくせして、こいつは一杯でも飲むとだるんだるんになっちゃうんだった。何回俺が世話させられたことか。確かに、それならホストは無理だな…。かといってクソのこいつがコンビニバイトなんて低賃金で働こうとするはずないし…。

「もう俺、売春でもするしかないのかな〜」
その言葉にぎょっとする。いや、売りなんてし出したらこいつはすごい稼ぐだろうよ。無許可で俺の部屋に連れ込んだ女はあんあん喘がせまくってるし、その面では向いている。だが、そんなことさせてしまったら、その辺りを締めてるヤクザさんやらなんやらに捕まってボコボコにされたり、悪いお客さんから薬を勧められて薬中になったり…映画でよくある展開が頭を埋め尽くす。だめだ、こいつに働かせるなんて、最悪の未来しかない。


「わ、わかったよ…。少しなら、おこずかいやるよ…。でもこれっきりだからな!これからは、女医さんでもつかまえて結婚して一生養ってもらうなりなんなりしろよ!」
こいつが日本で生きて行くにはもうこれしかない。まあ、こいつは凄まじいクソだが女からはとんでもなくモテるし、その方向が1番可能性があるだろう。

「はいは〜い、んじゃ、また来るね瑞樹く〜ん」
封筒を受け取ったクソ従兄弟は、すぐに俺のアパートを去った。はあ、また、って何だよ。これからも金をせびりに来るつもりだな、こいつ。

俺は、クソ従兄弟にこれ以上搾り取られないように、内密に引越しをする計画を立て始めた。携帯番号も変えて、あいつにもう俺を見つけられないようにしよう。うん、そうしよう。



「引越す?へえ、急にどうして?」
とりあえずこの辺りに詳しそうな和哉に相談してみることにした。
「いや〜、まあ、給料もいいんだし、今の家賃5万のボロアパートだとちょっとね。せめて風呂トイレ別のところがいいかなって。」
「ぶっ、5万って!!!んなとこに住んでたのかよ!そりゃ早く引っ越した方がいいな。俺ん家の近くとかは?出勤もしやすいし、タクシーで帰っても安くつくぞ。」
「確かに、それはいいなあ。和哉のとこ土地高そうだけど。その辺りで探してみようかな。」
和哉が近くにいたら安心だし。

「なに、瑞樹、部屋借りるの?」
ちょうどスタッフルームに入ってきた蓮二さんが、後ろから覗き込むように俺と和哉の間に割り込む。
「あ、はい。ちょっと早めに今の部屋出たくて。和哉の家の辺りにしようかなって。」
「…ふーん、そーなんだ。それならさ、瑞樹さえよければなんだけど、俺、あんまり家に帰んないし、何部屋か使ってないところあるし、俺のとこ来たら?」
しばしの沈黙が訪れる。


「いや、嫌ならいいんだけど「え、いいんですか!できたらすぐにでも部屋出たいし、いい部屋が見つかり次第出て行きますんで、しばらくお世話になってもいいですか?」
あまりに突飛なことに一瞬固まったが、かなり俺にとっては都合のいい提案だったので、蓮二さんの気が変わる前に話を進める。

「え、あ、いや瑞樹がいいならほんとに俺はいいよ。」
少しそっぽを向きながら言われ、首を傾げたが、こう言ってくれているんだ、ご厚意はありがたく受け取っておこう。

「それなら、すぐ荷物まとめますんで、今週中にでもお邪魔していいですか?」
「う、うん。」
照れたように笑われて、ほんとにいい人だなあ、と心が温まる。詳しいことについて話しを聞こうと思ったが、何だが仄暗い眼差しで見つめられている気がして隣に目をやる。

「な、なんだよ和哉。」
「いや、別に。」
機嫌が悪そうに、ぶっきらぼうに言葉を切る。なんだこいつ。
「なんだよ、どうかしたか?」
「いや、別にー?何でもないよ?ただ、そんなに早く部屋出たいんだったら…別に俺ん家でもよかったんじゃないの。」
いつもは爽やかすぎるぐらいはっきりしたやつなのに、なんだか今日は歯切れが悪い。
「でもお前ん家1LDKだろ。そんな空きもないだろうし、迷惑かけられないよ。」
「そ、そうだけど…。同い年なんだし、蓮二さんとこよりは、遠慮せずに居られるじゃん。」
蓮二さん居るのに、そんなこと言っていいのかと、蓮二さんの方に目をやると、気にも留めないようににこにこと微笑んでいた。

「瑞樹の言うとおりだよ。男一人も養えないようなホストは黙ってな。」
「はああああ?どういうことですか、蓮二さん。別に、俺だって借りようと思えばそんな部屋借りられるんですよ。今までは必要なかったからないだけで。」
「ふーん、まあ俺は借りてるわけじゃなくて買った部屋だけどね。」

バチバチと火花が飛び散るような攻防を目の当たりにする。特別仲が良いというわけではなくとも、程よい先輩後輩としての関係だったらしいし、こんなにケンカすることも今まではなかったらしいのに、俺といる時はよく言い争いするよなあ、この二人。和哉は先輩に対してこんな態度でいいのか疑問に思うが蓮二さんも大して気にしていないようなので放置する。

「まあまあ、和哉、何が気に入らないのか知らないけどさ、そんな長くお世話になるわけじゃないし。どうせすぐ部屋見つけるから。そしたら、うち遊びに来いよ。専用のカップでも置いてやるから。」
仲間はずれにされたのに拗ねているんだと思って、そう提案すると、急に後ろからひっつかれる。
「みずき…」
そう呟きながらぎゅううっと泣き虫小僧みたいに顔を俺の肩に押し付ける。機嫌が治ったようで、その態勢のまま頭をぽんぽんと叩く。

「和哉、いつまでひっついてるの?」
すると蓮二さんは微笑みながらではあるが強い力で俺と和哉を引き剥がそうとするが、さらに強い力で俺を抱き締めて離れない和哉。この後もエンドレスでこの2人の言い合いは続いた。


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