お見舞い

帰ってからは大変だった。組長が不眠で仕事もほったらかして待っていてくれたらしく、車が本家に着くと裸足で駆けてきて抱きしめられた。後ろには汗をかいた向野さんの姿があり、随分みんなに心配をかけてしまったようだと実感した。組中の人がお見舞いに来て、俺の部屋は果物やら花やらでいっぱいになった。お馴染みの幹部4人は仕事の合間を見つけては見舞いの品を持ってきてくれて、部屋で寝たきりでも暇をすることはなかった。

俺の足腰が立たないのを見て、組長は激昂した顔をしてすぐに部屋を出て行ってから帰ってきていない。電流を流され続けたなんて言ったら大変なことになりそうなので、軽い尋問を受けた、とだけ伝えたのだが、組長はそれでも楠木と斎藤に嬲られた跡に気づいてしまったらしい。規模的には近藤組の方が格上なので、組長が本気になればあいつら潰されるな、ご愁傷様、と心の中で合掌する。

組長が帰ってこないので久々の一人きりの夜になった。部屋でお見舞いの品の小説に熱中していると、部屋の外で物音がした。向野さんかな、と思って声をかけたが一瞬びくっとすると小走りで去ってしまった。あやしいな、と思って廊下に出てみると俺の大好物である梨が箱詰めで置かれていた。不審ではあったが、箱に書かれた銘柄からかなりの高級梨であることが分かり、ありがたく頂くことにした。俺が梨が好きだということを知っている人物なんて、この組の中では限られている。組長に好物はなんだと聞かれたことがあるが、梨だなんて言ってしまうと日本中から梨を集めそうで怖いから、なんでも好きです、と言ってある。組長にも言っていないことを他の人に言うはずもないし、二宮さんに言ったような気がするけど、二宮さんならこんな回りくどいことをせずに部屋に入って直接渡してくれるはずである。うーん、と唸ってもしかしたら、と思った人物がいたが、やはり信じられないと考えを打ち消す。前の事務所にいた頃に、田嶋さんと俺が2人きりでいた時だった。何処かから贈り物で大量の果物が送られてきたことがある。田嶋さん宛のものだったが、田嶋さんはもともと果物を好まず、組員で分けろと俺に渡した。そう言ってくれるならと俺は梨だけ取り出し、俺はこれだけいただきます、とお礼を告げ、残りを組員に渡そうとした。その時、梨が好きなのか、と聞かれて、はい、と答えた。

組員の中で知っているといえばその2人ぐらいしか考えられない。でも、田嶋さんがわざわざ俺に梨を差し入れたりした、というのも考えづらいことである。そもそも2年以上前に俺が梨が好きだなんて言ったことを、今でも覚えているとも思えない。

疑惑は残るが、梨の香りに誘われて、脇に置かれていた果物ナイフで切り口に含む。甘い果汁が口いっぱいに広がり、幸せな気持ちになる。
まあ、誰だっていいか。俺は考えるのをやめて、好物を堪能することに専念した。



朝になると本家を離れていた組長が戻ってきて、俺の顔を見るとホッとしたように顔を崩し、力強く抱きしめられる。
「居てよかった。またいなくなっていたらどうしようかと思った。…もう俺から離れないでくれ、御園。」
「…はい。心配をおかけしてすいません。これからは絶対に組長から離れたりしません。」
泣きそうになりながら懇願され、俺は愛おしい気持ちが溢れ出す。この人をこれ以上辛い気持ちにさせたくない。今まで以上に警戒して、こんなことがないようにしないと。

「…あの組はウチの支配下に置くことになった。あとの処分はお前のしたいようにすればいい」
まさか、1日でそこまで情勢が変わっていたなんて思わず驚きを隠せない。敵対していた組を、支配下に置くということがどれだけ凄いことなのか、俺でも分かった。そして組長の口ぶりからして、まだ長谷川や楠木への制裁は行なっていないらしい。


「…俺が実際に痛めつけられたのは、2人です。その2人以外には危害を加えないでいてあげてください」
「そうか、2人か。大体の目星は付いているが…長谷川、か?」
そうか、実行犯は2人だが指導者は長谷川だ。俺が本当に憎むべきなのは長谷川なのかもしれない、好き勝手身体を弄ばれたと言っても、あの2人はやらされていただけなのだから。
「…そうですね、長谷川です。あとはもういいです。さっき言った2人は、よく考えれば俺のことを殺さないように交渉してくれてましたし。」
「それなら長谷川への処分はお前に任せる。」
ギラギラと憎しみの篭った目をした組長を見て、長谷川をただで済ますことはできないようだと感じた。


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