廊下

さすがにトイレにまでついてこようとした組長と向野さんには丁重にお断りした。下戸ではないが少し飲みすぎたようで、酔いがまわり気分が悪かった。

軽くふらつきながらトイレから戻ると、廊下で、俺がトイレに立つより先に、外に煙草を吸いに出た田嶋と鉢合わせした。

こちらに気づくと、一瞬軽く目を見開いた後、侮蔑したような顔で鼻を鳴らした。
「お前、芸妓にでもなったのか?組長にひっついて媚び売りやがって。芸妓なら芸妓らしく酌してまわるぐらいしろ。」

また、くだらないイヤミか。
以前の田嶋からは考えられないような低レベルな発言だが、もうここ数ヶ月で慣れた。
もう相手をするのも面倒なので、軽くお辞儀をして横を通り抜けようとした。

すると、通り抜けざまに腕を強く掴まれる。
「痛いです。毎回毎回何なんですか。」
無表情を崩さずに問う。

すると、また事務所での時のように、馬鹿にしたように、でも辛そうに顔を歪める。
「お前おかしいよな。俺の下に居た時は淡々と仕事するだけだったくせに。今は毎日馬鹿みたいに笑いながら生活してやがる。潔癖みたいに極力人に身体を触れなかったくせに組長にはベタベタ触らせやがる。ははっ、誰にも隙を見せないところが役に立ってたくせに、今では隙だらけだ。今のお前は全く使いもんになんねーんだ、組長にとっては迷惑でしかないな。」

侮蔑したように言うが、田嶋は冷静ではなく、かなり苛立った様子だった。饒舌な性格ではないにも関わらず、今日は口が止まらなかった。

「俺は、お前を単なる組長の性処理道具として遣わしたつもりだった。お前のような面白くもない人間をそれ以外で組長が側に置くはずもないし、飽きれば捨てられる。その時はまあ、また俺が拾ってやってもいいと思っていた。

なのに……なのに!!!あいつは、一向にお前に飽きる気配もない!囲い込んで簡単に近づくことすらできなくしている!」

仮にも上司である組長に対してあいつ呼ばわりはまずいんじゃないかと思ったが田嶋はさらにヒートアップしていった。


「その上、お前は!それに嫌がりもしないで、受け入れている!くそ!なんなんだ!俺の下にいる時はそんなんじゃなかっただろ!あんな、あんな顔をするような奴じゃなかっただろ!誰にも心を開いたりしなかっただろ!お前は黙って飽きられるのを待っていればいいんだよ!それで、居場所がなくなって、震えて怯えて、それで…」

さすがにここまで熱くなって、大声で怒鳴ったので、部屋から向野さんたちが様子を見に来た。

「御園さん!そんなところで何してるんですか!廊下は冷えますから、早く部屋にお戻りください。」
向野さんに背中を軽く押されて、部屋に戻る。組長がこちらをじっと見つめていたので、にこりと微笑んで、軽く抱きつく。そうすれば、彼は顔を真っ赤にし、かわいらしく慌てた。
その真っ直ぐな気持ちが、心地よかった。
田嶋の歪んだ感情に晒された後の不安感を拭うように、組長の純粋な愛に心を浸した。



田嶋は、ずっと廊下に突っ立ったまま動かなかった。そして、言いかけた言葉をやっと口にした。
「それで…俺のところに、戻ってくればいいんだ」




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