伝承
2011/11/30 17:32

今は平和なこの大地も、遥か古の時代には、国同士が絶えず争いを繰り返していた。
幾度目かの戦いの最中、人々は人里から遠く離れた地に生きる魔獣の力に目を付け、これを戦いの道具とした。
魔獣の威力は凄まじく、それまでの均衡は瞬く間に崩れ、国の勢力図は一変した。
一騎当千の力を目の当たりにし、どの国も挙って魔獣を手に入れようと躍起になった。
魔獣の投入により膠着していた戦況が一挙に傾き、多くの国が次々と滅んだ。
そして強き魔獣を従えた国同士の戦いは、さらに激化の一途を辿っていった。
だがいくら戦えども決着はつかぬまま、どの国もひどく疲弊した。
長きに渡る戦いに憔悴しきっていた人々の目に写ったのは、荒れ果てた大地に堂々と立つ魔獣の姿。
周りが荒廃していく中にいて、その精悍な様は一際異彩を放っていた。
それはまるで人々の争いなど取るに足らぬ出来事であり、未だ争いを止めぬ人の愚昧さと、魔獣の威を借り思い上がった人間の本来の脆弱さを嘲笑っているかのよう。
今でさえ人の手に余る強大なその力が、実はまだ片鱗でしかない事をまざまざと見せ付けられ、魔獣を戦争に使う事の危うさに人々はようやく気が付いた。
永年の戦いで払った多大な犠牲と、魔獣に秘められた力の開放。
その果てに自らの滅びを見た各国の王は、幾代も渡って続いた争いに盟約という形で終止符を打った。
『火』『水』『自然』を冠したそれぞれの国の王の間で結ばれた古の盟約。
その盟約は後世にも受け継がれ、三国の王によって平和を約束されたその地で、人々は今も穏やかに暮らしている。



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