赤ずきんと狼



※赤ずきんパロディ文留♀です





――――イマタベルノハ、オシイ



「赤ずきん…お前は、美しくなるだろうな…」



膝の上、柔らかい尻尾を触らせてもらいながら俺らはお喋りをしていた。




「……ねえ、」



「ん?」



「なんでおにいちゃんはそんなにおみみがおおきいの?」


「……お前の声がよくきこえるようにするためだよ。


だから、森に来たら必ず俺を呼べ」



――――オオキクナルマデマッテヤル



「おにいちゃんはどうしてそんなにおててがおおきいの?」



「……おまえを抱きしめるためだよ。


この森に来たら俺の腕の中に入れ」



――――オオキクナッタラ



「おにいちゃんはどうしてそんなにおくちがおおきいの?」



「……大人になったら、教えてやる……

大きくなったら――――」



――――オオキクナッタラ、オマエヲ――――



―――約束だ、留



………夢?



懐かしい夢だった。俺は小さな頃、よく森に遊びに行った。
身体の弱い祖母に届け物をしたりするのに通る道でもあったのだ。

森にいた青年は、はじめは怖そうな顔つきで、いくつ歳が離れているのか、幼い俺には恐ろしかったが、優しくしてくれた。

きれいな花畑の場所を教えてくれたり、迷った俺を助けてくれたりした。


青年はよく俺を膝にのせ、髪を梳きながら話をしてくれた。

俺は青年の膝の上が好きで、話の途中で眠ってしまうこともあった。



(何か約束した記憶があるけど……なんだっけ)



祖母が亡くなって、俺は森に行かなくなった。獣道があるため、用がなければ出来るだけ入らないほうがよい森でもあったからだ。

俺は悲しくてなんども抜け出して森に行こうとしたが、その度に止められた。次第に子供の俺には村に友達もでき、関心も遠ざかっていった。

今思えば、あれが俺の初恋だったのかもしれない。


「……起きるか。」


そうして俺は朝の支度を初めた

―――

「やあ、留!今日も赤頭巾が似合ってるね!」


「ああ、伊作。ありがとう。」



「ご機嫌うるわしゅう、村一番の美人“赤ずきん”、今日はどちらへ?」


「……男爵」


「ああ、愛しい赤ずきん。貴女はいつ私のもとに来て下さるのか」


「…今はまだ考えていません。それに貴族のあなたとは身分違いでしょう」


「愛さえあれば身分差などどうとでもなりますよ。」


そういって男爵は俺の手に口づけた。


(うわ〜〜〜コイツ本気で言ってんの?だいたいその愛がねえんだっつーの!!)


その場に固まる俺を見兼ねて伊作が口を開く。


「…男爵、今日はなにかご予定でも?」


「ああ、そうでした。あなたをお茶会にお誘いしようと思って。」


「お茶会?」



「ええ。私の屋敷で行います。未来の花嫁として留さまには是非とも来ていただきます」


「……私はまだ決めていません。」


「前提はなんでも、お茶会にはいらっしゃいね」


有無を言わせず強く言う。
貴族の命令に従わないわけにはいかない。


「……伊作も一緒で良いのなら」


「もちろんです。伊作くんも是非いらしてください。…では今日のところはここで」
そうして、男爵は去っていった。


「………やっと行った。もう毎回なんなんだよあれ!!気持ち悪いっ!」


「留さん抑えて抑えて。でも貴族だし、玉の輿といえばそうじゃない?」


「むっ…。…好きじゃないから。結婚するなら好きなやつとしたい。」


「わあ。可愛いなあ留さん。あれ、もしかして、好きな人いるの?」


「今はまだわかんない。……初恋は早かったけど、淡いままだったし」


「へえ。初耳だね。」


「内緒だぞ?」


「わかってるって!じゃあ、お茶会、気をつけて行かなきゃね。」


「おうっ!」


そうして、俺らは別れた

―――――


「ご機嫌うるわしゅう。今日も美しいですね。」



「……お招きありがとうございます。」


一応貴族に招かれての茶会ということで、一張羅のドレスであるが、お気に入りの赤色のケープもつけている。


「伊作くんは…?」



「………体調を崩したようで」



「それはお気の毒に」


あれだけ言っていたのに、伊作は腹を壊したとかで来れなくなった。


「まあ、仕方ありませんね。御席へどうぞ。お茶を。」


「ありがとうございます。…他の方は?」


「私たち二人だけですよ」


「えっ……」


「二人だけで、ゆっくりしましょう?」


「なっ……お話がちがいます!!」


「別に構わないでしょう?二人でも」


「……帰らせていただきま……っ…!!」


ガタッ



そうして、意識が途切れた――――

……………

「こ……こは………、!!」


ベッドの上


「なんで……っくっ!」



頭が痛む



ガチャ


「……眠り薬が切れたのですね。」


「男爵……」


「ああ、そんな顔をしないで可愛い人。」


「なんのつもりです………」


「貴女がなかなか来て下さらないので、こちらから道をふさごうかと。」


「俺っ……、私は、あなたのものになるつもりはありません!!帰して下さい!!」


ドンッ


「……強情な方ですね。ご自分の立場をわかってらっしゃらない」


「………っ!!」


「……まあいいでしょう。焦ることもない。貴女は私のものになるのですよ。…明日にでも教会を手配しましょう。なに、お待たせすることはありません。ドレスもなにもかも用意してあります。」


ガチャ


「では、お休み愛しの赤ずきん」


男爵は去っていく。



(……婚礼なんて冗談じゃない……逃げなきゃ………でもどこへ?)


――――約束だ


(あの森に……)


ケープを身につけ、俺は屋敷を抜け出した。

カーテンをつかって窓から下り、痛む頭を、ふらつく身体を叱咤して



今夜は、満月

――――

「はぁ…はあ……」


走って逃げ込んだのは、幼い頃によく遊びにきた森。



森に来たときの約束は―――



「………もんじ…ろう…?」



ザッ



「!!」



「………久しぶりだな、留。」



突然、俺は後ろから抱かれた。



「文次郎………」



「“森に来たら俺を呼べ”覚えていたんだな……」



「うん…」



「……他には?」


「……お前の腕の中に…」


ぎゅっと抱きしめられる。


「そうだ。……留、大きくなった、な」


「…そりゃあ、あれから何年もしたんだから。来れなくて、ごめん…でも、会いたかった」



「ああ…俺もだ……!!留……」



俺たちはひしと抱き合った。


昔よくお喋りした木の下、文次郎の膝の上に乗る。


力の入らない身体を文次郎に預ける。



そして俺は疑問を投げかけた


「……ねぇ、」



「……なんだ」



「……その耳、尻尾……なんだ……?」



文次郎は、空を見上げる



「……今夜は、満月だな」



「うん……?」



「……なあ、留。もう一つの約束、覚えているか?」



「………え……?」

文次郎は俺を自分の方に向けさせ、頬を撫でる。



「……美しく、なったな…赤頭巾だけは昔と変わらないが……きれいだ」



「え……」



「柔らかい肌に、赤い唇」



そして、耳元に顔をちかづけ、くん、と匂いをかぐ



「……甘い、いい匂いがする……


……食べ頃だな。」



「文次郎…?」



「“今食べるのは、惜しい”」


「………!!」


「“大きくなったら”」



「………お前を食べてやる」


「!!……んぅっ」



文次郎は俺の唇を奪う



「ふぅ……っん……んうっ……」



くちゅ…ちゅぱ…



まるで食べられているかのような口づけ



「んん………んっ!……はぁっ」



「………」



「は……ぁ…はぁ…もんじ……ろ?」



月明かりに光る金色の目が俺をみつめる



狼は満月の夜に


………ああ…


「……俺はずっと、この日を待っていたんだ…留。
初めて会ったときから、美味しそうだと思っていた。

お前は予想通り、美しくなった……もう待てない。


……怖いか?」



俺は文次郎の目をみつめた。「待てない」といいつつ、迷いが見られる。



でも、お前になら―――



「大丈夫……だけど、

優しく、食べて………」



文次郎の手が赤頭巾の紐にかかり、引かれる。



重量に伴い、頭巾がぱさりと落ちた


―――――


「おーーい、おーーーいー!!!」


「探せ!なんとしてでも見つけろ!!」


「いたか!?」


「いや。こんな夜に森になんて…この森は狼が……」


「おいっ!!」


「なんだ!」


「これ…………」


「!!!」


…そこにあったのは、血のついた赤頭巾


「留………!!」



…………

―――満月の夜、月明かりの下、ちいさな赤ずきんは狼に食べられてしまいました



「「―――ずっと、一緒だ」」






雪花様から頂いたリクエスト『赤ずきんパロディで文留♀』に、なんと雪花様本人が素敵な小説を添えてくださいました!
ヒイ!赤ずきん留をかどわかす狼文次郎が最低な男前すぎてツラい!!(褒め言葉)
素敵すぎる小説本当にありがとうございます!

本当はもっと前に頂いていたのですが、私のせいでupが遅れてしまったことをここにお詫びします




- ナノ -