春秋様より



※rkrnに載せた「くちづけ」に『紅の蒼』の春秋様がお話を付けてくれたよ!
文食満が長髪です



このまま一生、伝えずに終わる恋だと思っていた。
犬猿だなんだと言われ、およそ色恋とは程遠い関係。
それが俺たちだった。

それがなんの縁なのか、実は同じ想いを互いに抱いていたことが分かり。
実るはずがないと思っていた恋が、実を結んだ。

そして今宵は、想いが通じ合ってから、初めて体を重ねた時だった。



「…っ、はぁ…留、三郎?」

果てた後の心地のいい気怠いさに浸りながら、留三郎の名を呼んだ。
しかし反応がない。
見れば、荒い呼吸を繰り返しながら気絶していた。

色の授業も受けたし、経験がまったくない訳じゃない。
しかしそれは抱く方の話であって、抱かれる方の話ではない。
俺はともかく、受け手である留三郎の負担はやはり大きいだろう。
俺も理解はしていたし、なるべく優しくしようとは思った。
しかし、留三郎の思いもしない色香に当てられ、途中から歯止めが利かなくなった自覚は…一応ある。
そういえば、激しいからもう少しゆっくり…と言われて、お前が色っぽいのが悪いと責任転嫁したような…。
ああ、駄目だ。そこいらの記憶はあやふやだ。

留三郎にとっては初めてであるのに、少し悪いことしたか。
いやでも己の身体の下で、普段は凛とした瞳が溶け、喘がれ乱れられれば男なら誰しも加減が出来なくなってしまうはずだ。
同じ男なら理解してくれるはず、と誰も聞いてもいない言い訳の頭の中で繰り返した。

だが気絶した留三郎の頬に伝う涙の跡をなぞりながら、

(…やはり、言い訳はきかないな)

と、打ち消す。
我慢が出来なかったのは己の責任だからな。
いやでも留三郎が色香を振りまくから…とまた思考が堂々巡りになりそうになった瞬間、手になにか触れた。
それは、留三郎の頬にかかった柔らかく長い髪だった。

頬にかかっているその一房の髪を、手で掬い上げる。
俺の硬い髪とは違う、柔らかで触り心地のよい髪だ。
あっちこっち跳ねてしまうのはご愛嬌。
しかし本人は癖のつきやすい自身の髪を、あまり気に入っていないようだ。
だが俺は、不思議と手に馴染む、まるで猫のようなこの髪を気に入っている。
いつまでも触っていたくなるような癖毛。
先ほどまでこの髪を振り乱して悶えた、留三郎。

留三郎自身も髪も、今は自分のものだと思うと
、途方もなく満たされた気持ちになった。

俺は手に、持った髪に口づけを落とした。

「…好きだ、留三郎」

呟けば、眠っているはずの留三郎が微笑んだような気がした。




その後留三郎視点でオマケ↓



目が覚めると、俺は文次郎の腕の中にいて少々慌てた。
抜け出そうと身体を身じろがせれば、痛む腰と関節にあらぬ場所。
その痛みに昨日したことを思い出して、思わず顔が赤くなった。
しかもしっかりと腰に回された腕は外れそうにもなかったので、諦めて大人しくすることにした。

それに…ぐっすりと寝入っているのを起こすのも少し気の毒だから。
ただでさえ日頃から慢性的に睡眠不足だというのに。
もっとも、半分は自業自得だが。

(それにしても…)

本当によく眠っている。
間近でまじまじと見る文次郎の顔は、思ったよりも整っていて幼かった。
隈が少し薄くなっているせいもあるのかも。
俺は親指でそっとその隈をなぞった。

と、俺の手に文次郎の髪がかかった。
さらりと流れるように落ちてきた文次郎の髪。
学園一の髪と評される仙蔵の影に隠れてしまっているが、意外にも文次郎の髪は綺麗なのだ。
仙蔵のように艶やかな訳ではないけれど、硬めでしっかりとした髪。
少し寝癖がついたとしても、手櫛で簡単に元に戻る。
俺の髪とは大違いだ。
俺の髪は、朝になるとあっちこっち寝癖がつくし、しかも中々直らない。
ただでさえ猫の毛のような髪なのに、長いから余計扱いにくいのだ。
いっそのことバッサリ切ってしまえば、もう少し扱い易いのかもしれない。

でも切らない、というか切れないのは、文次郎が俺の髪を…好きだからだ。
確証がある訳じゃない。
でもしょっちゅう俺の髪に触れるから、多分そうだと思う。
それに俺の記憶が定かなら、昨日俺の髪に口づけをしてくれたし…。
朧気な記憶を思い出して、また顔が熱くなった。

(恥ずかしい奴…)

そう思いながら、俺も同じように文次郎の髪に口づけた。
俺も、同じだから。
文次郎の真っ直ぐな気性をそのまま反映したようなこの髪が好きだから。
羨ましい…っていうのも、少しあるけど。

(絶対言ってやんねぇ)

言ったら多分調子に乗るから。
その代わり、髪はお前がいいと言うまで切らずにこのままにしておくから。



鐘が鳴るまでまだ時間がある。
俺は文次郎の腕の中で、そっと目を閉じた。





春秋様とのやり取りで描かせて頂いた「髪にキスする文次郎」のイラストに何とお話をつけて頂いちゃいました!
國重の大好きなシチュエーション、初夜です!!
ちょっと余裕のない文次郎が堪らない!しかもそんな文次郎に翻弄されちゃった留三郎の姿さえ見える…!!(心眼です)
オマケも素敵過ぎます、と言うよりどちらも本編です(`・ω・)キリッ
妄想を小説にして頂き、ありがとうございました!




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