「なぁ、あんたいったいいつまでふてくされてんすか」

「うっせぇ黙れ前髪爆発野郎」

「うわ、口悪いっすねぇ」

「お前に言われたくねえよ」






ごきげんよう






なんでこんなことになった。いったい自分はどこから間違えてしまったのだろう。
そんな俺のいらいらは目の前のそいつに向けられ、痛いほど冷めた目線に対し金色は大げさに肩をすくめて笑った。それを見てさらに俺は眼光を強める。
今現在俺たちがいるのは白と薄いベージュを基調とした清潔感漂う町外れの病院。周りは森林で囲まれ、ここらへんの土地勘のあるような奴じゃなきゃ絶対に辿り着けないような場所にひっそりと建っていた。目の前の金色によれば小さくて少しボロいが、そこにいる医師の腕は確からしい。
待合室に並べられたイスにはまばらにだが確かに患者と思われる人たちが腰を下ろし、自分たちの名前が呼ばれるのを待っている。
俺たちもその中の1人だ。
痛む足を見つめながら考えていると、金色は何かを思い出したような顔をした。


「あ、そういや自己紹介がまだだったっすね。俺の名前はゴールド、一応ここいらでは名の知れたポケモントレーナーなんだぜ」

「前髪が?」

「んなわけねぇだろ」


ピクリと引きつった金色、ゴールドの顔をチラリと見てからまた目線を足元へと落とす。
というより自己紹介なんてどうでもいい。どうせまたすぐに別れてしまうのだから。


「あんたはトウヤって言うんだろ?」

「……そうだけどとりあえず一つ言ってもいいか」

「なんすか」

「いい加減腕離しやがれ」


そう言いながら今度こそ鋭く睨みつける。
そう、なぜかこの男はシロガネ山頂上から下山して、ここに着いてもまだ腕を掴んだままなのだ。何度か振り切ろうとしたが、そうすると笑顔で余計に締め付けてくるためそれはずいぶん前に断念した。
小さく舌打ちひとつ。
ゴールドは不思議そうに掴んだままの俺の腕を見てからケタケタと笑った。


「そりゃこうでもしなかったらあんた逃げるじゃないっすか。そんなことがバレたら俺があの生ける伝説に怒られんだよ」

「は?生ける伝説?」

「……あーいや、なんでもないっすよ」


そう言うとゴールドはばつが悪そうに頭をかいた。俺は更に追求しようと口を開いて、ふとそれをやめる。なんかめんどくさい。
次から次へと呼ばれていく患者の名前を聞きながら目を閉じた。
そういえば結局あの赤色から白いドラゴンポケモンについて聞きそびれたような。またあそこまで登らなくてはいけないのか、最悪だ。


「あんたはさぁ、」

「なんだよ」

「なんであんなところに登ってたんすか」

「……知るか」

「というよりあんたバッチ持ってんの?」

「…………」


パチリ、閉じられていた目を開いて隣に座っている少年を見る。


「……持ってるけど」


イッシュのやつだけどな。


「……へぇ」

「そういうお前はなんでシロガネ山にいたんだよ、あんなところに」

「……んーそれはトウヤさんが本当のこと言ってくれたら教えてやるぜ」

「じゃあいい」


えー?と笑いながら小首を傾げる仕草をしたゴールド。まったくかわいくねえむしろ殴りたくなってくるからやめろ。
思いっきり不機嫌丸出しの顔をして目の前の男から目をそらす。しかしゴールドの顔はずっとこちらを向いたままで。いつまでたっても止まらない視線を浴び続けた俺はついに一言言ってやろうとイスから飛び降りた。脚が痛んだがもう知ったことか。


「お前な、いい加減に「トウヤさん」う、わっ」


しかしそんな俺の言葉は目の前の男によって遮られ、掴まれていた腕を強く引かれた。
もちろんそんなことをされバランスを崩さないはずもなく。俺はゴールドにのしかかるような状態になり、そのままの勢いでそいつの顔の横にある壁に頭を激突させた。
うっ、と思わず視界に生理的な涙が浮かぶ。
お互いの吐息がかかるくらいの距離に近づいた俺に、ゴールドは酷く真剣な顔をして口を開いた。


「……なぁ、あんたってさ、」

「なんだよ近い今すぐ離れろ気持ち悪ぃ」

「……いや……やっぱいいっす。つうか見ろよあれ」

「はぁ?」


なんなんだこいつはいったい何がしたいんだ、そう思いつつ俺はゴールドの視線の先を追った。
……あぁ、なるほど。
目線の先にはピッピを抱きかかえ座っている綺麗な女の人。


「…………それで?」

「……ほら、ちょう可愛くないっすか!?」

「……そうだな」


でもな、だからと言って、。
俺は珍しく笑顔を作り拳を振り上げた。


「もっと普通に言えばいいだろうが!」


鳩尾に一発。渾身の力を込められた拳をそいつに打ち付ければ、そいつはぐえっと何かが潰れたような呻き声をあげ床に崩れ落ちてしまった。