サヨナラ。

散々俺たちを振り回した緑色のクソ電波は、呆気なく俺たちの目の前から消え去った。
最後に一言、その言葉を残して。


「……ふざけんなよ」


自分の言いたいことだけ語って、勝手に自己完結して消えやがって。
今ごろレシラムと一緒に遠い地方でバカンスですか。
……そんなことさせるかよ。俺がこの手で絶対に見つけ出してやる。そんで、ハンサムさんに引き渡してやるこのオタマロ野郎が。

世界は、お前が思ってるほどうまくいかねえんだ。





はじめまして






そう意気込んで、Nを追いかけまた自宅から旅立ったのが約1年前。それから俺はホウエン、シンオウなど様々な地方を毎日順調に探し回り続けた。
今日、この時までは。


昼間俺たちの真上にあった太陽が山に隠れ始め、それと入れ替わるように月が空へと登ってゆくそんな時間、俺は轟々とそびえ立つ銀色の山を黙々と登っていた。
カントーとジョウトのちょうど真ん中に位置する山、シロガネ山。よくよく聞くとこの山はとても強い野生ポケモンが出現するから、本来ならカントーとジョウトのバッチをすべて揃えなくては登ることができないらしい。
けどそんなん知るか。
俺は一刻も早くあいつを見つけ出したいんだ。
案外シロガネ山へと繋ぐゲートを監視している警備員の目を欺くのは簡単で。ちょっと白々しく近づいてエルフーンのねむりごなをぶっかければ、はい終了。ちゃんと仕事しろよなばーか。

グッ、と自分の踏み出した右足に力を込める。
あと一歩。その一歩を踏み出した。
ゴツゴツとした固い岩場は消え、よく目をこらさなくては周りが見えない薄暗い洞窟には光が射す。
一瞬にして開けた視界の中見えた景色はイッシュじゃまず見ることのできない、一面の、銀世界。


「……ここが頂上か?」


そう呟いて左右を見渡した俺は、特にその景色を楽しむでもなく歩みを進める。枝分かれのしていない真っ直ぐな一本道。
はき出す吐息は白く、辺りは恐ろしいほどの静寂で、聞こえるのは自分の雪を踏みしめる音だけ。本当にここには人がいないのだと改めて思い知らされた。


「……N、は……」


……あぁ、ここもだめなのか。
思わず自嘲的に笑った俺は、ある一点を見て声を上げそうになった。

人が、いる。

確かに見えた人影。一本道をずっと進んだ先に佇む小さな黒い影。
考えるより先に俺は走り出していた。
まさかこんなところに人がいるだなんて。ここの野生ポケモンは聞いた通り本当に強いし、ここに来れるやつなんて相当な実力者じゃなきゃ登ってなんてこれないと思う、だから、。
あ、ちなみに俺は強いから登ってこれたけど。
あいつなのか、あいつだったら俺は最初になにをすればいいのだろう。
そうだ、まず――。


「おいテメェこのクソ電……」


もう俺の頭の中ではその影はNだと思ってた。
しかし走りに走ってようやく辿り着いた人物を見てから俺の言いかけた言葉は、はたっと止まる。
誰だこいつ。


「…………」

「…………」


一言で言うならば、その人物は赤だった。赤を基調とした服に赤い帽子、そして肩には黄色いポケモンらしき生物が乗っかっていて。
強い赤色の瞳と目があう。
……え、このクソ寒いところで半袖一丁とか正気ですかこの人。


「…………」


しばらく呆然とその人物を見つめていたが、その人が静かに腰へと腕を動かしたことにより俺は我にかえる。いったい何をしようというんだ。
生気の感じさせない綺麗な顔立ちを1つも動かすことはなく。カチリ、と聞き慣れた音が辺りに響いた。


「…………」



バトルを、はじめようか。