クロバットはそのシルバーの言葉を聞いた瞬間、もの凄い勢いで僕の横を通り過ぎて飛んでいってしまった。
しばらく呆気にとられていたが、はっとしてシルバーに詰め寄る。


「ちょっとシルバー!なにしてんの!」

「……気持ち悪い」

「は、はぁ?」


いや真顔でそんなこと言わないでよ、傷つくじゃんか。
口元を引きつらせていると再び聞こえてくるシルバーの声。


「ずっとだ。先週の大会のテレビを見た時から、ずっと」

「え、なにが?」

「話しかけても上の空。俺とバトルをしても指示のミスが多い。よく道端の石にもつまづくし、……あと前髪ヤバい」

「最後のはいつもなんだけど」


でも僕そんなんだったっけ?そう呟きガクリとうなだれる。シルバーはそんな僕を見てフンと鼻をならした。


「お前にいつまでもそんな姿でいられるとこっちが迷惑だからな。だからもうあのトレーナーを探し出してお前に会わせる。そうすれば少しはマシになるだろ」

「……でも、会ったところでどうすればいいかなんて僕は分からないよ」

「ポケモンバトルをすればいい」


お前はお前のやり方で、あいつを救い出してやればいい。相変わらず無表情のままシルバーはそう言ってそっぽを向いた。
僕はクロバットが出て行った窓をチラリと見る。
……ごめんシルバー、君の言ってることよく分からないんだけど。
けど、


「それは、僕の背中を後押ししているってとらえてもいいの?」

「……好きに解釈しろ。」

「…………うん、」



僕はあのトレーナーの事を全く知らないし、自分になにができるかなんて分からない。
でもやっぱり、あんな顔を見るのは苦しいから。

僕が、きみを笑わせてみせるから。



言うなれば、これはただの僕のエゴだ。












――――――














「……ふぅん。じゃあ、あのレシラムってポケモンもお前本当に従えてたんだな」

「従えてるなんて言わないでくれ。カレはボクのトモダチで、少し力を貸してもらってるだけだよ」


真昼間の食堂。
普通なら賑わうであろう時間帯だが、さびれているのかそこには俺たち以外の客はいなかった。
ダンッと飲み干したコップをテーブルに置くN。その音に驚いたらしく、そいつの膝の上で丸まって昼寝をしていたイーブイが飛び上がる。それを見たNが慌ててごめんと呟きイーブイを撫で始めた。
俺は最後のひとかけらのコロッケを口に含むと、モゴモゴと話す。


「まぁどっちでもいいけどさ、お前あんま人前でそいつ呼ぶなよ」

「え、なんでだい?」

「危険だからだよ。でかいし、攻撃だって強力だろ。呼んだ時に不可抗力で家とか壊しちまうかもだし、万が一があるだろうが」

「レシラムはそんな事しないと思うけど……でもまぁ分かった」

「うん、よろしい。で、お前はなんでそんな伝説のポケモンなんか従え……友達になったんだ?つかどうやって?」

「それ、は……」


ピタリと、イーブイをなでていたNの手が止まる。
なにか変な事を言ってしまったか、俺は水を一口口に含んでからもう一度話し出す。


「あー、いい。話したくないなら無理には聞かねぇから」

「ごめん……」

「いや謝るなって」


Nも食べ終わった事を確認してから、俺はごそごそと自分のバックを探る。その中から財布を取り出し、そしてまたその中から数枚のお金を取り出した。


「もう行くのかい?」

「あぁ。まだここにいるか?別にどっちでもいいけど」

「ううん、行く」


イーブイを抱きかかえ、勢いよくイスから立ち上がるN。俺はそれを見てから、店内に設置されているテレビをやる気が無さそうに見る店員に金を払った。
店の扉を開けると、見えてくる風景。


「トウヤ、危ない!」

「は?」