み始めた一歩




「ま、負けた……」

「よし、じゃあお前負けたんだからとりあえず3,000円払え」

「えぇ!そ、そんなにお金持ってないですよ!」

「はぁ?何言ってんだよお前。負けた方は潔く金を払う、それルールだろ」

「どんなルールだ!この鬼が!」

「鬼でいいから金」


「…………トウヤ、キミは暴走族とかに向いてると思うよ」



呆れ顔で言葉を発したNを睨みつける。ふざけんなお前この金がなきゃなんにもできねぇんだぞ。
俺はつい先ほどバトルを挑んだ少年に向き直り、再び金をよこせと手を差し出した。
バトル大会も辞退したから貰えるはずの賞金は貰えなかったし、そのおかげで昨日は野宿で一晩を過ごしたし、なぜか飛行機同様にテンションが高かったNはやはり飛行機同様俺に殴られていたし。……あぁもうダメだなんか疲れた。
噴水の近くに腰掛けてバトルを見守っていたNが俺たちに歩み寄る。足元にはイーブイが。


「ごめんねキミ、トウヤがむちゃな事を言っちゃって。お金はいらないから早く家に帰りなよ」

「なっ、テメェ電波なに余計な事を言って……」

「ありがとうございます!じゃ、僕はこれで!」

「あ、オイ待て!」


俺の制止も虚しくNの言葉を聞いた瞬間に走りさっていってしまった少年。超いい笑顔で。
俺は呑気にもう一度しゃがんでイーブイをなで続けるそいつをまた睨んだ。


「……オイコラ、どういうつもりだお前」

「だってあんなのムチャクチャすぎじゃないか。それにもう今日何回もバトルしてるし、お金ならたくさんたまったんじゃないの」

「バカ、足りるか。
まだ363,100円しかねぇ」

「とりあえずキミの金銭感覚はおかしいと思う」


ため息をつきながらそう話す。そいつに撫でられているイーブイまでもが蔑んだような顔で俺を見た。なんだ、飯抜きにすんぞ。
ふと、Nは立ち上がり辺りを見渡した。


「……それにしても昨日も来たけど、またあらためて見たらここはいろんなお店があるね」

「あぁ、ゲームセンターとかデパートとかな。確か……なんて言うんだっけ」

「えっと、ちょっと待って。……うんうん、タマムシシティって言うところらしいよ」


タマムシシティ。
そう、昨日バトル大会があった場所に今俺たちはいる。なぜかと言うと、理由は特にない。いや、ただたんにこの街しか知らなかったからだな。

チラチラと、歩いている人などから視線がこちらに向けられる。バトルの最中もずっとそうだった。


「……なんか、見られてる?」

「昨日あんだけバカ騒ぎしたからだろ」


気にすんな、そう言おうと口を開いたら聞こえてきた声。


「ねぇ、あの子たちって確か昨日大会で……」

「バトル強い子と……ポケモンと話せる子、だっけ?」


その言葉になぜだか知らんが俺はNの帽子のつばを持ち深くかぶらせた。なんとなくだ、なんとなく。
声の方向をバレないように見ると、若い女性が2人。買い物帰りなのか手には大きな袋が持たれていた。


「ポケモンと話せるって本当なのかなぁ」

「なにあんた信じんの?嘘に決まってるでしょ!」

「でもほら、もしかしたらって事があるじゃない」

「…………でももしそうだったとしたらさぁ、」


そこまで言って言葉を区切り、いやらしく笑うそいつらに吐き気がしてきた。
こんな奴らの笑顔よりNの笑い顔の方がよっぽど綺…………マシだ。







「「なんか気持ち悪いよね」」