「なんだよアイツ……」

「勝てるわけねぇ」



ヒソヒソと、外野からささやかれる声。何度も聞き続けてきた俺はそれを冷めた顔のまま聞いていた。



「ランクルス、サイコキネシス」



勝てるわけない、かなわない、
……そんなの当たり前。
俺は小さい時からバトルをしてきたんだ。
勉強も、人付き合いも、なんにもできなかった俺が唯一できたこと。俺には、バトルしかないんだよ。
だから、これだけは負けるわけにはいかない、絶対譲れない。


「トウヤ、顔怖いよ」

「黙ってろ電波」


つかお前いつの間にいたんだ。
後ろを振り向くとそこにはイーブイを抱きかかえていること以外いつもと変わらない様子のN。しかしその瞳には俺をとらえてはいなかった。


「……トウヤ」

「なんだよ、今バトル中だから出てけ」

「大丈夫だよ、」

「はぁ?なにが」

「……うん、早く続けないと」


相変わらずなに考えてんだか分からないなお前。
思いっきり睨みつけてから目の前にいる少年へと向き直る。つい先ほどランクルスの攻撃を浴びた少年の、頭にワタっぽいものがついていたポケモンは戦闘不能。
次のポケモンを繰り出そうと少年は腰へと手をやった。そして、


「出てこい!マリルリ!」


その声と同時に、青くて丸いポケモンが出てくる。宙から出てきたポケモンは衝撃音とともに地面に着地した。
マリルリ、うん、マリルリ。覚えた覚えた、つかなんで腹から着地してんだコイツ。
……足は、あるよな。



「マリルリ、ハイドロポンプ!」

「かわしてかみくだく」


一瞬疑問に思ったものの、目の前の少年が技を繰り出してきたのでバトルに集中することにする。
……でもやっぱりコイツ、なんか様子おかしくね?
足を引きずってるって言うか……。
確かにパッと見分からないが、戦って攻撃を避けたりするときに庇ってる気がする。


「トウヤ、いったんバトル止めて!」

「は、」


突如後ろから聞こえて来た怒鳴り声にちかい叫び声。思わず攻撃の手が止む。
いきなりなんなのコイツ。そう思ったが、あまりの剣幕に俺は何も言えなくなった。
まぁ確かにちょっと俺も確かめたいことがあるしちょうどいいか。


「ランクルス、もど……」

「今だマリルリ!雷パンチ!」

「なっ「イーブイ、ランクルスを守って!」」


その言葉にNの腕からイーブイが飛び出し、カッと辺りがまばゆい光に包まれる。
俺を庇うように……かは分からないが、いつの間にか俺の前へ出たNの後ろ姿がある人物と重なった。




「……トウコ?」




なんでだろう、お前ら全然似てねぇのに。