「……俺も行きたいな」
「え?」
「あぁ、いや。……俺も、どこか遠いところへ行きたいなって」
俺の事を誰も知らないところへ。姉じゃなく、俺を見てくれる人たちがいるところへ。
自嘲気味に笑う。
その言葉を聞いたNは少し目を見開いてから、口を開く。
「……あ、あの……もしその言葉が本当なら……」
「……なに」
ぎゅ、と抱きしめていたオタマロに顔をうずめるN。よくそんなんにうずめられるな、絶対ヌルヌルしてるだろ。
「……い、一緒に行かないかい?」
「…………は、」
またまた呆けた声が出た。
ぎゅ、と固く目を閉じ体を小刻みに震わしながら言うNの頭を、思わず撫でたくなる衝動が走る。
いや、ほらなんか今のコイツ震えた子犬みたいだし撫でたくなるのは人間の真理じゃないかな、うん。……まぁ腹立たしい事に俺より身長は高いが。
そう思った俺はNの頭に手を伸ばす。そして、前髪を思い切り掴んだ。
「痛い!痛いよトウヤ!」
「…………だな……」
「え?」
Nの髪は見た目と同様にフワフワと柔らかい。
そんな事を思いながらもう一度髪を引っ張ると、俺は言った。
「その言葉、本当だな?」
「……一緒に行こうってことかい?うん、一応本気のつもりだよ」
「……ふぅん、……まぁそこまで言うなら仕方ないから一緒に行ってやる」
「いや別にそこまでは言ってないんだけど」
「まったくNは寂しがりだなぁ」
「…………」
髪から手を離した俺を涙目で睨みながら、なかなか君も人の話し聞かないと思うよなんて言うNの頭を叩く。さっきの仕返しだ、バカ。
「キミのランクルスがキミの事を優しい、けど時々乱暴って言ってた意味を今理解した」
「最高のほめ言葉だな」
「……キミを誘った事を今すでに後悔し始めているんだけど」
不満げな顔をするN。おい、その顔オタマロそっくりだぞ。
思わず笑ってしまった俺を見てNは固まった。
もう辺りは明るくなり始めている。夜が明けるまで話しこんでいたのか俺たちは。
「……やっぱり似てる」
「え?」
「いや、なんでもないよ」
ところでこのオタマロ、かわいいと思わないかい?そうふにゃりと笑って言うNに、俺は絶句した。