「久しぶりの真弘先輩だー!」
「うおぉっ!?」




ドンッ、と鈍い衝撃音。


自身にも返って来た衝撃は体中に伝わる。すん、と鼻を通る先輩の匂い。先輩は慌てて離しに掛かるけど、何せ学年が上がってから会うのは初めてなのだ。今までの分、なんてこじつけてぎゅうぎゅうと小さな体を抱き締める。





「あぁもうこの小ささが良い!可愛い!」
「なっ…梨玖!小さい言うんじゃねぇよ!はーなーせーっ」
「先輩先輩、私また身長伸びたんです!162ですよ!?」
「嫌味か!!」





大して変わんねぇよ!なんて負けじと叫ぶ先輩はさ迷っていた手で私の両肩を掴むと勢い良くその距離を開いた。急に突っぱねられてよろめく。ちょ、っとそんな勢い良くしなくてもよくないですか…。





「うわ、…っと、?」
「梨玖、真弘が困っている」
「っ祐一兄ちゃん!久しぶりー!」
「あぁ、元気そうで良かった」





肩に置かれていた二つの手は離れて、頭に乗せられた手が緩やかに髪を撫でる。そんな仕草も懐かしくて、感極まって抱きついた。後ろで「誰にでも抱きつく癖直せっつの」なんて溜息のような声が聞こえたけど、誰にでも抱きつくわけじゃない。それだとただの変態だと思います、まる。





「あ、ねぇ真弘先輩って浪人生なんだよね?今年も受験するんだよね?」
「あー?あぁ、まぁな」
「じゃあ同級生だね!」
「お前受かんのかよ」
「少なくとも、拓磨よりは可能性あるね」
「んだと!?」





私は祐一兄ちゃんの妹だよー?勉強くらいできるもんねー!我ながら憎たらしく思う笑顔で言って見せれば返す言葉を探して拓磨が黙り込む。遺伝は馬鹿にできないよね。なんて後ろに立つ兄を見上げてそう思った。真弘先輩とはオーラが違う。見るからに賢そう。





「てか梨玖お前、大学行くのか?」
「時に真弘先輩。それは先輩のところに永久就職しに行くってことですかね?」
「ば…っ、違ぇっつの!変な取り方すんな!」
「えー」
「えー、じゃねぇよ!」





期待させといて打ち砕くなんてとんだ飴と鞭だ。段々ムキになり始めた先輩を宥めるみたいに「で、どういう意味ですか?」と聞いてみる。一つ聞こえた咳払い。腕を組んで真面目そうな顔付きになった先輩は論すように私を見て、





「お前は守護者じゃないんだから、何処にでもいけるんだぜ?」
「へ、」
「わざわざ見張りのいる大学なんか行かなくても選択肢はあるんだ」
「はぁ、」




ん?何が言いたいんだ。答えを待っているらしい先輩はそのままじっと私を見ている。どんな状況にしろ真っ直ぐに見られれば心拍数は自然と上がるわけで。だけどおちゃらける空気でもなさそうなので私も真面目に答えようと思う。





「私は真弘先輩と一緒にいたいので、選択肢があっても同じ大学にしますよ?」
「………」
「…先輩?」
「梨玖、真弘はどう返していいのか分からないだけだ。放っておけ」
「? う、うん?」





それに、異形の血を引いてるだけで監視対象にはなっちゃうしね。そう伝える前に固まった先輩。終わったか、と言わんばかりに広間へ向かう拓磨たち。祐一兄ちゃんに促されながら、未だ動かない真弘先輩の安否を確認。とりあえず顔の前で手を振ってみる。





「真弘先輩ー?」
「、! お、おおおお前なぁ…!」
「わお、顔真っ赤!」
「〜〜っ早く行くぞ!ぼさっとしてんな!」





ぼさっとしてたのは真弘先輩でしょ!と突っ込みたくてやめたのは、見えた先輩の横顔が見た通り真っ赤だったからで。珠紀ほど鈍感じゃない私はその理由に気付いた。自意識過剰と言われてもそれ以外ないのだからしょうがない。ずんずんと進んでいく後姿すら愛しくて、私は黙って先輩の後ろを追うだけにした。








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