季節は巡った。あの頃から数ヶ月しか経っていないけど、校庭には桜が咲き、パリパリの固まった制服を纏った新入生も入ってくる。私達も進級して、最高学年。珠紀は「やっとだね」なんて笑っていたけれど、私の心中は溜息ばかりだ。好きな人がいないだけで色褪せて見えるんだから私もまだまだ青春真っ只中らしい。




「あー…真弘先輩不足だぁぁ……」
「…お前、よくそんな堂々と言えるよな」




日の沈みかけた校門で、隣に立つ拓磨が呆れたように私を見下ろす。何だかその視線が馬鹿な奴を見るようなそれで、少し腹が立った私は拓磨が素直になれない僻みだと勝手に受け取ることにした。





「だって本心だもーん。拓磨も男らしく好きだーって言ってみれば?」
「はぁ?」
「もーちーろーん、珠紀に!」
「な、なんで俺があいつに言わなきゃなんねぇんだよ!」
「…顔真っ赤にして言われてもなぁ」





純情ですね拓磨さん。からかうように名前を呼べば同じように返される。慣れない呼び方に鳥肌に近いものが立ったのは拓磨も同じらしく、僅かに顔を歪めていた。酷いなぁ。




「珠紀可愛いからねー、取られちゃっても文句言えないよ?」
「…その相手が真弘先輩っていうのは考えないのか?」
「ないね!真弘先輩は私が予約済み!」
「…そうかよ」




投げやりにそう言った拓磨はふと塀から背中を離して組んでいた足を地面につける。ずれた鞄を掛けなおす仕草に「先帰っていいの?」と声をかければ、さも面倒臭そうに親指を突き出した。辿る先は、





「…珠紀と慎司。一緒だったんだ」
「そうみたいだな」
「あははっ先越されちゃったね!」
「だーから、違うっつうの!」




また顔を染めて、見られたくないのか恥ずかしいのか殴る勢いで頭を押す拓磨に私はにやにやが止まらない。決して痛いのが好きなわけじゃなく。決してマゾなわけでもなく。ただ初めて聞く(自己解釈だけど)幼馴染の色恋沙汰が嬉しいだけ。





「あっ、もう拓磨!女の子に乱暴しない!」
「はぁ!?悪いのはこいつ、」
「そうだそうだ!乱暴禁止ー!」
「てめっ梨玖!」
「ほーら、拓磨先輩も落ち着いてください。早く帰りますよ、」





三年生になって、真弘先輩と祐一兄ちゃんが卒業して、毎日のように一緒だった帰り道は私達四人になった。偶に遼もいるけれど、拓磨と馬が合わない彼はほとんど一人で帰っているらしい。それでも、




「今日は鍋パーティですからね」




こうして集まるときはみんな一緒。大学に行って村を離れた祐一兄ちゃんは度々しか帰ってこれないから、今日は特別なのだ。手紙も出すし何らかの方法で連絡はとっているけれど、やっぱり直接会って話したい。それはみんなも一緒なのか、慎司の一声で揃って歩き出す。


だけどやっぱり、





「真弘先輩に会っえるー!」




恋する乙女としては、それが一番嬉しかったりするのでした。






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