変わってないようで、みんな変わってるんだなぁとか。
学校に行かなくなってから、少しだけ、そんな変化が見えるようになった。




「…そう、なんだ」




隣に座る慎司が、俯いて、ぐっと手を握り締めていた。
指先と爪が白くなって、少しだけ震えている。
言葉を捜して、それでも見つからなくて呟いたのに、随分素っ気無いものに思えたかもしれない。





「フェンフ、って。五番目って意味なんだよね?」
「…はい」
「慎司がアリアの従者かぁ……」
「……あの、怒らないんですか」




僕は玉依の情報をロゴスに流していたんですよ。


自嘲を秘めた声色と揺れる目でそう言った慎司は、私を見つめてからまた俯く。
雲が掛かる空はまだ四時を回ったばかりだというのに薄暗く、地面を翳らせていた。





「…私って、はっきり言うと玉依とは関係ないと思うんだ」
「、え?」
「だから怒らないよ。関係ないもん」




自分で言ってて傷付くのはお互い様。
慎司がどうして私に打ち明けたのかよく分からないけど、多分凄く頑張っただろうから。
誰よりも遠ざけられることを嫌っている彼。
私は目を瞬かせる慎司に笑って告げた。





「みんなは知ってるの?」
「…はい。言ってから、なんだか気まずくて…」
「そっかぁ…。みんな怒ってた?」
「……いえ、笑って、いました」




噛み締めるような言い方に、私は何も言わず前を見る。
予想できていたからか、離れていた慎司には信じられなかったからか。
なんて言っていいのかわからない。




「どうしてみんな…責めないんでしょうか」
「慎司は責めてほしいの?」
「…影で言われるくらいなら、直接言われたほうがまし…だとは思います」




間接的に言えば慎司は敵。
簡潔な答えなのに果てしなく漠然としているようで生返事を返した。


やっぱり、離れていた時間が長すぎたのか。
隣の慎司が、幼かった頃の彼に被って見えて。




「慎司は、みんなが陰口言うような人に見えるの?」
「い、いえっ!みんな強くて優しくて…」
「じゃあ心配することないんじゃない?受け入れてくれたんでしょ?」
「それは、そうですけど…」




怖いんです。時が来れば、僕はどちらかを裏切らなければいけない。


小さく小さく。
そして僅かに震える声の慎司は、ぎゅっと目を瞑って、何かに怯えるように溜まった息を吐く。
自分の袖を握り締めて縮こまる慎司が、とても寂しそうに見えた。


小さい頃、役目を背負っていたみんなを見て、何もない私は酷く寂しかったのを覚えている。
異常な力は等しく持っているのに、私は違う。
みんなは血から来るもので、私はそれすらもない。
力の根拠がない私は、急に力が怖くてしょうがなかった。
勝手に孤独を感じて、縮こまっていた幼い自分。
同じだな、って、そう思った。


手を伸ばす。
さらりとした髪に指を通して引き寄せれば、力の入っていない体はすぐに傾いた。
焦ったような声のあと、空いた手も伸ばして慎司の背中に回す。
体を捻ったような状態が苦しくて膝を立てると、座る慎司を包み込んだ。





「あ、あの!祈莉先輩…!?」
「黙って。ちょっと聞いて」
「……は、い」




あやすように頭を撫でながら、大きくなったなぁなんて関係ないことを考える。
ちゃんと成長している。きっと見えないだけで中身も。





「慎司は優しいし強いし格好良い。でも人を信じるのはちょっと苦手」
「……」
「玉依とロゴスは確かに敵同士だし、慎司はどっちにも繋がってるから辛いんだと思う。だからさ、限界まで来たら私のところまで逃げてきていいよ」
「祈莉先輩…」
「私はどっちにも繋がってないから、大丈夫!愚痴でも泣き言でもなんでも聞いてあげる。それで、もし全部放り投げたくなったら一緒に逃げちゃおう」




一緒に逃げる。
その言葉は、もしかすると私の本音だったかもしれない。
私だって一人は怖いから。傷付きたくないから。
ぴくりと震えた慎司は、確かめるように言葉を紡ぐ。




「……寄りかかっても、いいんですか」
「もちろん。任せなさい」
「…なんだか、立場が逆な気がします」
「そう?」




くすくすと笑いながら頷いた慎司に、嫌ならやめようかと思ったけれど。
ぎこちなく背中に回ってきた腕が嬉しかったから、暫くの間お互いそうしたままだった。





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