もういつからだったか、分からない。




「…祈莉、」




眠る祈莉の頬に手を滑らせても、彼女が起きることはない。
青白い月の光を浴びて目を閉じる姿は眠り姫のようだ、なんて。
柄にもないことを考えてしまうのは、疲れ切った心のせいか。


笑顔が欲しかった。愛情が欲しかった。
封印の道具だと知ってから、親までもが俺を謀ろうとしているように見えて。
誰も信じれなくて、怖くて仕方なかった。


全てを知っているのは俺だけ。
幼馴染の中にいて、いつも押し潰されそうな罪悪感が心にあった。
言えない。言っちゃいけない。
せめて死ぬまでは、いつも通りの俺で。
唯一の拠り所であるあいつらに同情の目でも向けられたら、俺は本当の意味で死んでしまう気がした。





「…ごめんな」




曖昧にしか、気持ちを伝えられなくて。
でもあれが、精一杯なんだ。


小さい頃から一緒にいた。
幼馴染の俺たち。
それでもいつしか、祈莉に向ける感情は同じ幼馴染でも美鶴に向けるそれとは違っていた。


妹として見ていた筈が、女にしか見えなくなった。
簡単に触れるのを躊躇して。一緒に歩けば自然と俺が道路側。
気付けば無意識に俺の隣に並ぶ祈莉が、たまらなく愛しかった。





「祈莉……」




学校に来なくなってから、こいつは声を上げて笑わなくなった。
毎日のように霊力を消費しているからだろう、力ない微笑みばかり見ている気がする。


人間の器で珠紀と同等の霊力を持つ祈莉。
はっきり言えば異常だ。だからこそ、その力を使えないことを誰よりも祈莉が悔やんでいた。


良く言えば自分よりも他の奴等の為に動ける優しい奴。
でも俺には自己犠牲のように見えてならない。
だから放っておけないんだ。





「…死ぬなよ」




ずっと怖くて避けてきた。
真正面からぶつかるには覚悟が足りない。


今、ほんの少しだけでも顔を近づければ触れることができる。
無防備な寝顔。僅かに開いた唇。


この瞬間祈莉がもし目覚めたなら、俺を引っ叩くだろうか。
それとも…受け入れる、?




「……悪ぃ」




言って、考えを打ち消すように、掠めるように触れ合った唇。
一瞬で駆け巡った熱に、目の前の睫が少し震えた。
知っているのは俺だけ。
また一つ増えた、誰にも言えない秘密。


罪悪感は合っても何処か満たされるような心に、俺は一人嘲笑した。







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