落ち着いて、力を抜いて。
体の内に巡る血と気を感じ取る。


私の霊力は、吸い取ろうが取り出そうが減らない。
でもだからといって増えたりするわけでもない。
体に溜まるだけの霊力が、その度に作り出されているらしい。





「ん、ぅ……」




浮き上がる意識のまま瞼を持ち上げれば、見慣れた天井があった。
ぼやける視界。
途絶えた記憶をふやけた頭で思い出して、そっと溜息を吐く。




「起きたのか?」
「…真弘先輩」




縁取られた視界に映らない姿を追って首を動かせば、呆れた顔があった。
反論できないので力なく笑って返す。




「運んでくれたのは真弘先輩?」
「おー、お陰で腕がくったくただ」
「……随分非力なんだね」
「怒んなよ」




傍らで胡坐をかいた先輩は宥めるような声色で言う。
……私だって、素直にお礼くらい言いたいんだけどなぁ。
言えないのは、改まった雰囲気がこそばゆく感じるお互いのせいだろうか。


何も言わず見上げる私は、同じく私を見下ろす先輩の目の奥に光を感じ取って目を逸らす。
僅かな熱を篭らせた目。頬が少し、熱を持った。
直後聞こえた浅い溜息に、心臓が音を立てる。




「心配しなくても、弱ってる相手に何もしねぇよ」
「分かってるもん」
「……落ちてた札、美鶴に渡しといたから」
「…うん」




私の前髪をそっと分けて、晒された額を覆うように手が当てられる。
やはり熱い先輩の手。移される体温がじわりと体に染み込んだ。




「熱はねぇみたいだな」




霊力の使い過ぎて倒れることはよくあった。
熱が出るのは極稀だけど、それでも少しの間は起き上がるのだって辛い。
私を異常へ仕立て上げる霊力は、皮肉にも私が生活する力になっているらしい。





「祈莉の札は役に立ってる」
「…うん」
「けど無理すんなって、いつも言ってるよな?」




受け入れはしない。
無理してるのは、真弘先輩も同じでしょう?


言えば、彼はきっと「俺様は守護者だからな」なんて言ってはぐらかすんだろう。
そんなの不公平だと口を尖らせても先輩は聞かない。
だったら私だって、少しくらいは許してほしい。





「心配してくれてるの?」
「…茶化すな馬鹿」




私と真弘先輩は、恋人とか、そんな甘い関係じゃない。
だって死ぬかもしれないから。
運命を背負ったままの関係なんて、覚悟を鈍らせるだけ。


それでも、降りてくる唇を拒んだりしなかった。
顔にかかる先輩の顔が夕陽を翳らす。
息遣いがすぐ傍で聞こえて、まるで閉じろと語りかけてくるように翠の目が薄くなる。





「……祈莉、」




促すような目、言い聞かせるような声色。
私の変な意地がそれだけで溶かされて、そっと目を閉じた。


口のすぐ隣に、熱。
柔らかい感触がもどかしさを生んで、体の奥に熱を孕ませる。
私の唇は、未だに守られたまま。




「……飯持ってくるから、待ってろ」
「…うん」




くしゃりと撫でられた髪が、妙に擽ったかった。





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