侘しさ漂う境内に一人で立って、すっかり見慣れた景色を焼き付けるように。
並んだ敷石も、古びた神社も、ひらひらと舞う紅葉も。
一つ一つ、小さな動きを全部、見逃さないように。





「祈莉、」
「…あ、真弘先輩」




呼ばれた声に振り向けば、溶け込む蒼。
真弘先輩の色。


どうしたの?
声には出さず首を傾げて問えば、きゅっと寄った眉が苦しそうに私を見ていた。





「させねぇぞ」
「……」
「祈莉を贄になんか、させねぇ」




真弘先輩が苦しそうなのは、抗えないことを誰よりも知っているから。
まるで、自分に言い聞かせているみたいだと、私は他人事のように思った。




「祈莉がなるくらいだったら、最初から俺が、っ」




紡がれる先の言葉を聞きたくなくて口を覆った。
黙ったまま緩く首を振れば、へにゃりと眉が垂れ下がる。


あーぁ、いつもの強気っぷりは何処にいったの、なんて。





「真弘先輩は珠紀の守護者。私は霊力が高いだけのただの人間」
「……」
「どっちが優先されるかなんて、考えるまでもないでしょ?」




真弘先輩に寄せた手に彼の熱い手が触れる。
指先が肌を滑って、手首を柔らかく握ったその手が私を優しく引き寄せる。


抵抗なんてしない。しようとも思わない。
だって私は、耳元で聞こえる鼓動に喜んでいる。




「…それでも俺は、お前を贄になんかしたくねぇ」




髪を撫でていく手が後頭部を支える。
導かれるまま真弘先輩の胸に顔を埋めれば、早くなる心臓の音。
私と真弘先輩が、生きている証。




「頼むから生き急ぐなよ。ロゴスを倒して、封印も守る。勿論珠紀もだ」
「……できるかなぁ」
「馬鹿野郎、やるんだよ」
「…欲張り」
「まだあるぜ?」




大きな瞳。大好きな翠。
手を伸ばせば、すぐ届く距離にいる彼。
確かな希望を宿した目が、真っ直ぐ私を見つめる。





「全部終わったら、俺がお前を守る」
「…じゃあ、真弘先輩も死なないでね」
「当たり前だろ?俺様がそう易々と死ぬかよ」




お互いの腕に手を添えたまま、中途半端な距離で。
そう簡単に事が進まないことは私も真弘先輩も知っていたけど、
それでも言葉にせずにはいられなかった。









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