物心ついた頃には、他の子とは違う力を持っていた。
常に何かの気配を感じ、それに意識を集中すれば姿形が見えてくる。
その時の私は、それが異常だと気付くには幼すぎて。
成長するに連れて大きくなる自分の霊力を抑えるには、未熟すぎた。








「ただいまー!」




ぱたぱたと忙しなく動かしていた足を止めて扉を開ける。
弾む声は大きな音を発し、それは次に小さな足音を導いた。





「おかえりなさいませ。祈莉さん」
「拓磨はもう行った?」
「はい。先程出て行かれましたよ」
「んー…じゃあ外で待ってようかな」





本当は付いていきたかったんだけど。
苦笑いで紡げば美鶴は少し口角をあげてみせる。
あどけなさが残る表情には、綺麗すぎる微笑だった。





「お気をつけて行ってらっしゃいませ」
「うん!行ってくる!」




ゆるりと頭を下げた美鶴に笑いかけて家を飛び出す。
鞄は玄関に置いたまま。扉はきちんと閉まったか分からない。
それでも、今日は待ちに待った大切な日なのだ。
駆ける足がより一層スピードを増すのに、そう時間はかからなかった。














階段に座り込み、肘に顎を乗せ。
風に揺られる自分の髪を時折眺めながら、待つこと数十分。
遠くに待ち望んだ姿が見えた私は、すくっと立ち上がる。





「来た!」




大きな荷物を肩に掛ける幼馴染と、その一歩後ろを歩く女の子。
拓磨ってばちゃんと持ってあげてるんだ。なんて散々言い聞かせた言葉通りの姿に頬が緩む。
夏の暑さが残る風を真正面から受け止めながら走れば、
私に気付いた拓磨が立ち止まった。





「玉依姫ー!」
「きゃあっ!?」





走り寄ったその速さのまま、抱き着くように腕をまわす。
衝撃で大きく後退さった体。
腰に回した手に力を込めて倒れないように支えるのも、その細い体では造作もなかった。
甲高い声に埋めていた顔を上げれば、目を見開く彼女の表情。





「初めまして玉依姫!」
「た、たまより…?」
「? 拓磨、まだ言ってないの?」





彼女の顎辺りにある自分の頭を後ろへ捻れば溜息を吐く拓磨がいた。
至極面倒そうに頭を掻く姿は「余計なことを言うな」と私に語りかけている。
先走りすぎたかと眉を落として、改めて彼女を見上げた。





「ごめん、気にしないで」
「う、うん…」
「私のことは祈莉って呼んでね!珠紀でいい?」
「え、なんで名前……」




困惑したような顔に今度こそ愕然とした。
恐る恐る体を離して、未だ知らん顔の幼馴染へと振り向く。
まさか本当に何も言ってないのだろうか……。
ひくりと口元を引き攣らせる私を不機嫌そうな拓磨は半目で見下ろした。





「迎えに行くようにとは言われたが話せなんて言われてないからな」
「……だからって…」
「何だよ。俺は悪くないだろ」
「……はあ。もういい」





知らない人に知らない単語。
それが自分のことにも関わらず何も分からないままでは珠紀が可哀相すぎる。
溜息を吐いてから彼女へと振り向けば、その困り顔を安心させるように口元を引き上げた。





「ババ様の家でお世話になってます。今日からよろしく!」
「あ、だから私のことも知ってたのね?」
「ええっと…まあ、うん。それもある」
「?」
「とりあえず行こう?話しはそれから!」
「祈莉が止めたんだろうが…」
「それは拓磨が話してないから!」




うんざりとも言える表情が、心なしか疲れているようにも見える。
何かあった?と聞こうとした拓磨は既に踵を返して後姿に変わっており、
大声で文句を飛ばすと同時、珠紀の手を取って走り出したのだった。






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