赤く染まった体で、傷だらけの顔で、
それでも全てを終わらせて帰ってきた先輩は、
思わず目に涙を溜めた私をぎゅっと、その腕で包み込んだ。


何も言えない私に、泣くなよって呟いて。
そして小さく、本当に小さく、好きだ、と。
涙しか出てこなかった。ただ嬉しくて、嬉しくて。
背中に腕を回して、思い切り抱き締めて。
そうして返される強い抱擁を受け止めれば、それだけで十分だった。











「真弘先輩ー!早く!」
「うっせぇなぁ、餓鬼みたいにはしゃいでんじゃねぇよ」




乾いた落ち葉の鳴る音。視界を遮る緋色達。
短く感じた濃い季節も、終わりが近づいていた。
はらはらと紅葉が散っていく。




「綺麗だね」




立ち止まったその場所から振り向いて、
私を追って歩いていた真弘先輩へ言葉を投げる。
さくりさくり、と。歩みを教える音が止んで先輩は「…だな」と頷いた。




「紅葉って、落ちる前に3枚拾うと願いが叶うんだって」
「はぁ?何だそれ」
「ジンクスだよジンクス!」
「信用性ねぇなぁ」




可笑しそうに笑った先輩は軽い足取りで跳ねると木の下へ向かっていく。
先輩のつくりだした風に木々は揺れて、赤くなりきらない紅葉もその風に乗った。
たくさんの紅葉が舞う。真弘先輩はその中でくるりくるりと回って。
一枚の絵のような光景に思わず目を細めて、見惚れた。





「3枚ってちょろいなー」
「…飛ぶの卑怯じゃない?」
「いいんだよ。なんせ俺様だからな!」




そういって戻ってきた先輩の手には、幾重にも重なる紅葉たち。
歯を見せて笑った彼は「なにそれ」と文句を言う私に口を閉じる。
だけど笑顔は消えない。口元を緩めて眦を下げるだけ。
静かに静かに微笑んでいた。




「お裾分けだ、祈莉」




刹那、先輩が大きく腕を広げた。
上に向かって、弾けるみたいに。
そうして見上げた空からは、青いそれが遠くに見えて。
代わりに、紅い欠片が降り注ぐ。





「っ……き、れい」




酷く長い時間に感じた。
紅葉の中に閉じ込められて、私は一人なのに、包み込まれているような。
そんな不確かな安心感。鎮まっていく心を感じる。
やがて、最後の一枚が視界を外れて。
私はなんだか、泣きそうになった。




「祈莉、」
「…うん?」
「約束、覚えてるか?」
「…うん、勿論」




忘れるわけないよ、って。
ほんの少し涙の浮かぶ顔で笑って見せれば、真弘先輩の顔が綻ぶ。
ずっとずっと待ってた。
あの日言ってくれた言葉が、願いから絶対に変わる瞬間を。


頬に触れる先輩の手の甲は、角ばった男の子のそれで。
真正面から射抜いてくる目は、僅かな熱を篭らせて。
伝わればすぐにでも溢れてくる想いが、心の中に積もっていく。


好き。この人が、大好き。
温め続けていた想いの全部が、今、届くように。
熱い熱い唇が、私のそれに触れる。
二度目のそれは、少し乱暴で。
だけど先輩の優しさが感じられる、胸が締め付けられるような口付けで。
少しでも長く、近くで見ていたい。




「真弘先輩、好きだよ」
「…知ってる」




また一片、色付いた紅葉が散っていく。
そっと目を閉じれば、それは見えなくなるけれど。
切なくて寂しくて、たくさんの想いが一気に弾けて、残ったのは愛しい人。


真弘先輩さえいれば、それでいい。
もう一度唇に触れた温もりの中で何度も、そう呟いた。







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