一つのことを考えてる暇がないくらい、次々にやってくる厄介事。
生憎それを楽しむなんて狂人的な人間ではない私は、優先順位を決めて、他のことは後回し。
考えたいことじゃなくて、考えなきゃいけないこと。
感情を押さえ込んで、無かったふりをして。
それがどんなに、愛しいと思う気持ちだとしても。





一度宇賀谷家に集まった守護者のみんな。
もちろん拓磨を抜いて、だ。
複雑そうな顔を目の前にして、無表情のババ様は静かに静かに告げた。


『抵抗するようなら力づくでも連れ戻せ』


みんなはすぐに出て行った。
了解の言葉も拒絶の言葉も発さずに。
私はひたすら俯いていた。
何も言う資格がないことは分かっていたから。


珠紀と拓磨が逃げたことを、私はやっぱり、なんて思いながら受け止めていた。
拓磨が私に会いに来てくれるとき、隣にはずっと珠紀がいた。
珠紀は拓磨が大好きで、それは見ているだけでも、話を聞いているだけでも十分すぎるくらい分かった。
拓磨も、珠紀を見る目は優しくて、愛でるように包み込んでいる。
二人が想い合っていることを、私はよく知っていた。


辛い境遇に立っているからこそ、誰よりも強く繋がっている二人。
少しだけ、羨ましかった。
好きだとか、言葉にせずに寄り添う珠紀たちが。


だけど、……だから、
あの二人には、幸せになってほしい。
私の分までなんて悲劇のヒロインを気取るつもりじゃないけれど、
私は、無理だったから。多分、叶いそうにないから。
だから、珠紀だけでも。
好きな人と、自由に。


みんなみんな、縛られている。
自分の思いを十分に告げることすら許されない、固い固い鎖だ。
小さい頃から、反抗はしなかった。
納得はしていないけど、しょうがないと片付けて無理矢理飲み込んで。
私はそうやって苦しんだ彼等を知ってる。


そんな拓磨は今、初めて確かな拒絶を見せた。
真っ向から戦っている。
逃げるなんて言葉は、きっと違う。
黙って受け入れるのはやめて、自分の力で理不尽な世界に対抗しているんだ。





「ババ様、」




強い強い拓磨。優しい優しい珠紀。
玉依の役目に捕らわれたババ様は、平気な顔をしてそんな二人を追い詰める。
ただ幸せになりたいだけ。ただ、お互いに傷付いて欲しくないだけ。
世界と戦う彼等に、彼女はそれ以上の苦痛を与える。
辛いのは彼等だけじゃない。
必死に正気を保っていたのに、勝手に堕とされてしまったカミも同じ。


ねぇ、ババ様。
落ち着いて、周りを見て。
使える人間は、まだいるでしょう?


二人が帰ってきたら、無理な拘束なんてしないで。
好きにさせてあげて。
まだある、策は、まだ。





「私を、鬼斬丸と一緒に封印して」




死なない限り、私の霊力は途絶えないから。






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