霊力が乱れている。


朝、修行のために外に出た私は卓さんにそう言われて、でも何も言わなかった。
笑ってみた、つもり。
もしかしたら引き攣っていたかもしれない。
卓さんは酷く優しく微笑んでいた。





「今日は孤邑くんと犬戒くんが来てくれるそうですよ」
「…そ、ですか」




何も感じなかった。
やる気がおきない。
理由は分かっているのに、認めたくないと拒絶している。
自分の気持ちがどっちに向いているのか分からなくて、苦しい。





「卓さん」
「はい?」
「…私って、そんなに生き急いでるように見えますか」




一瞬迷って、遠くを見ながら問いかける。
私が死なないように引き止めるため。
今までの全部はそんな理由からくる偽り。


あれだけ真弘先輩が分からないと言っておきながら、
そりゃ全部嘘なら当然か、なんて。
今考えれば納得する自分がいる。
馬鹿みたいだ、本当。





「……やっぱりいいです!」
「祈莉さん、」
「修行、今日もありがとうございました。明日もよろしくお願いしますね!」
「…はい、こちらこそ」




どうせ先輩は傷付いてなんかいない。
私のことなんか考えてない。


悩んで悩んで同じことをぐるぐる考えていると、
脳が休憩したいと叫ぶのかもうどうでもいいやなんて気が起きてくる。


吹っ切れた、なんていわないけど、せめてもの対抗心。
騙されていたのも踊らされていたのも私。
怒る権利を持っているのは私なのに、私が泣くのは癪で。
変なところで出てきた負けず嫌いも、この時だけは助けられた気がした。














青い空がうっすらと赤みを帯び始めたころ、襖を開けて入ってきた顔が二つ。
すぐに笑顔を作って笑いかけると、穏やかな返事が返って来た。





「昨日ぶりです、先輩」
「うん、祐一先輩は三日ぶりだね」
「あぁ」




広間の机が少し埋まる。
私を挟むように座った二人は美鶴の出してくれたお茶に口をつけた。
来てくれてありがとう、と告げると、祐一先輩の手が頭に触れて。
ぽん、と軽く一度叩いたあと、何度も行き来して撫でていく。





「無理して笑うな」
「祐一先輩?」
「お前が真弘と何かあったのは、慎司から聞いている。だから、笑わなくてもいい」
「…大丈夫だよ、無理してないから」




へらり。
多分情けない笑顔。だけど作ってない。
伝わればいいな、って思ったけど、祐一先輩が小さく笑ったから多分伝わったんだと思う。
腹が空いたな、と珍しく席を立った先輩が奥へ引っ込み、一瞬静かになった広間に慎司の声が響いた。





「…今日、真弘先輩に何があったのか聞きました。ごめんなさい、僕のせいで」
「慎司は何もしてないよ、大丈夫」
「……」
「慎司?」
「先輩、僕、昨日のこと本気ですからね」
「え?」
「先輩がそうしてくれたみたいに、僕も先輩の逃げ場になりたいんです」
「あ、ありがとう」





穏やかな微笑みが照れくさくてどもってしまう。
慎司といると本当に落ち着く。
ゆったりとした動きで目を細めた慎司に笑い返すと、襖の開く大きな音に肩をびくつかせた。


顔を見合わせて振り向く。
そこには目を見張るくらい焦った様子の祐一先輩がいて、
何だと尋ねるよりも早く告げられた一言に、慎司は静かに立ち上がったのだった。





「拓磨と珠紀が、逃げた」





ゴトリ。
終焉へ向かう歯車が軋んだ。





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