ずっと憧れていた。
自分の信じたものを貫き通す強さを。


弱くなった世界じゃ、目先のことしか語れない。
自分の気持ちなんて、世間を目の前にしたら隠れてしまう。
そんな時代だったから、そんな人ばっかりだったから。
貴方達の生き方はずっと語り継がれてきた。


遥か前のこと。
今経つこの場所からすれば、それは現在になる。
貴方達は故人。亡くなってしまった人。
辿る道を知っているのに、その人物が目の前にいることは、確かに異常で。
でも、嬉しかったよ。みんなに会えて。


私は未来から来た。みんなのこれからを知ってる。
今まで黙ってて、ごめんなさい。






苦い顔をした土方さんは、私に謹慎処分を言い渡した。
隊士じゃないのにと反対する平助も、ケジメだというとぐっと言葉に詰まって、
気にしないでと笑って、私は部屋を出た。




「……で、平助。隊務は?」
「さっき終わらせたって」
「嘘だ。さっきって、平助ずっと此処にいるじゃん」




謹慎処分って、部屋で大人しくしてろってことだよね?
本当は誰にも会ったらいけないんだよね?


一思いに告げると、平助は口を開いて。何も言わずに閉じて。
首を傾げる私をもどかしそうに見つめた後、そっぽを向いて呟く。




「…また消えちまったら嫌なんだよ」




消えないと、絶対の響きを持って言い返すことができないから。
拗ねたように言う平助に、何も言えない。
方法が分からない限り、またいつ帰るのかも分からないのだ。


ごめんね、という言葉に眉を下げた平助を見て、
今のは卑怯だったな、なんて少し思った。
謝ってしまえば、平助は本当の気持ちに蓋をしてしまう。




「…あーぁ、オレ格好悪ぃなぁ」
「平助?」




仰向けに顔を浮かばせた平助が後ろに倒れていく。
衣擦れの音と体積が畳に掛かる音。
気の抜けた息に平助を覗き込めば、くるりと視界が反転した。





「わ、……っ」




ゆるく引かれた手の温もりが、背中に回る。
打ち付ける準備もできていない体はそのまま抱き留められた。

また聞こえる吐き出された息。
埋まった顔を上げれば茶色の髪が額を擽った。





「ちょっと寝ようぜ」
「え?」
「なんか…安心したら、眠たくなってきたっつうか…」
「平助……」




柔らかな日差しが襖を透かしている。
ほんの少しの隙間から風が入ってきて、平助の腕の中。
力の篭った腕は確かめるように強弱を付けて私を抱き締めていた。





「…じゃあ、晩御飯までね」
「おう」




まどろむ意識は仄かな熱に浮かされて溶けていく。
ねだったのは平助なのに、これじゃ私の方が先に眠ってしまいそうだなぁなんて。
なんだか恥ずかしくなって顔を埋めた。
頭上で平助が笑う声が聞こえたけれど、それも手放す前の頭では酷く曖昧だった。






眠る君を撫でながら


…やっぱ、お前いねぇと駄目だな






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