あの日も、夢を見た。
覚えてはいないけど、嫌な夢ではなかったと理由もなく思う。
けど、気付いたら、雨の中で。
レプリカかと思うほどの古い家が並ぶ道の端、私は立ち尽くしていた。
「戻、れた……?」
この風景は、あの日と同じ。
違うのは、太陽が頭の上で輝いていること。
幾度か見たことのある人が、変わりなく道を歩いていること。
「…そうだ、平助……」
現実味はなかった。
ふわりと飛ぶように、まだ夢なんじゃないかと疑って。
それでも、地に足がついている。
走り抜ければ、肩と肩がぶつかる。
触れられることが、嬉しかった。
「……っ」
屯所の門を潜り抜けて走る。
門にいた隊士が後ろから声を張り上げたが気にもせず。
桜の木。平助がいた場所。
言いたいことが、あるんだ。
「平助!」
「……美颯…?」
揺れるポニーテールが風に乗る。
みるみるうちに見開かれていく目は、ちゃんと私を見ていた。
乱れる息をそのままに、もう一度駆け出す。
今度は平助を助けるためじゃなく、彼に触れるため。
「っ会いたかった!」
「う、わ…!?」
ぶつかった平助は、私を支えようとして。
咄嗟に背中に添えられた手が温もりを伝える。
ぎゅう、としがみ付くと彼は弾かれるように後退し、
けれどそれは私もろとも倒れる結果になる。
「い、ってえ!」
尻餅をついて嘆く平助。
膝を折り曲げて座る彼は、大きく声を上げてからその目で私を見る。
驚きがありありと見える翠の目。
信じられないと語るそれに現実を裏付けようと、私はにっこりと微笑んでみせた。
「約束守れたね、平助」
座り込む私と平助の僅かな間に、花びらが落ちてくる。
ひらりと舞ってすぐ傍に身を沈めたそれは、約束が守れた証。
強く腕を引かれたと思えば、黄色い着物が広がる肩口が目の前にあった。
背中に回った両の手が、平助の中に私を閉じ込める。
嬉しくて幸せで堪らなくて、私もすぐに両手を伸ばした。
「…よかった」
「うん?」
「死んじまったかと、思って。オレすげえ焦ったのに、気付いたら何処にもいなくて」
「うん」
「……もう、会えないかと、思った」
「…うん、私も」
最後の方は、平助の声が震えていた。
言葉が途切れる度、拘束する力は強くなる。
息苦しさなんて全く感じなかった。
あるのは、破裂しそうなくらい膨らんだ愛しいと思う気持ち。
「ねえ、平助」
「…ん?」
「…私のこと、聞いてくれる?」
平助に、みんなに、聞いてほしいんだ。
くぐもる声で言った私の言葉への返事は、頭を撫でる仕草で十分だった。
発火点は、君
もう逃げないよ