「お花見ですか?」
「……あぁ」




苦々しい顔。
頷いているその行動とはまるで逆の表情は、即ち彼が不本意で動いているということなんだろう。
あまりに不機嫌そうに皴を寄せるものだから、思わず笑ってしまった。
目の前に胡坐を掻く土方さんは怪奇そうに私を見て目を細める。
怒りや苛立ちから来るそれではないことを知っていて、私は笑うのをやめなかった。





「沖田さんですね」
「…このことも知ってたのか?」
「え?…あっ、いや…これは予想です。土方さんの顔を見たら分かります」
「…そんなに分かりやすい顔してたのか」
「眉間の皴が凄かったです」




此処に来て、慣れなかった敬語は彼を前にするとすんなりと口から飛び出す。
人柄のせいか威厳のせいか。
どちらにせよ、敬う立場にあることは分かっているからその方がいい。
私の指摘に意識して皴を緩めた土方さんは、仕切りなおすように咳払いを一つ。





「花見は明日だ。お前も来い」
「え、でも謹慎は?」
「明日までに決まってんだろ」
「…あ、ありがとうございます!」




嬉しくなって勢い良く頭を下げれば、鈍い音と一緒に額に衝撃。
表面がひりひりしたあと、脳天に響くような痛みがぐらぐらと私を揺らして。
顔を伏せたまま、呆れた溜息を居た堪れない気持ちで受け止めていた。


……恥ずかしい。そして痛い。





「……土方さん、」
「…なんだ」
「いたい、です」
「…そうだろうな」




……うぅ。














額に乗せられた濡らした手拭い。平助が持ってきてくれたものだ。
片手で支える手は次第にびりびりと痺れてきて、何度も何度も交代しながら。
それでも赤くなっていると酷く心配してくれた平助を思うと嬉しくて、
温くなってきているのが分かっていても手拭いを離さなかった。





「暇だー…」
「暇だなー…」
「暇だねー…」
「……」
「……」




部屋から出てはいけない為に締め切った部屋。
ごろりと寝転がった平助を真似て寝転んだ矢先、呟いた言葉に繋がった反応が、
……二つ。




「……沖田さん」
「ん?」
「いつからいたんですか」
「やだなぁ、さっきからいたってば」




首を捻ればにんまり笑う沖田さんがいた。
嘘です、とわざと書いてある顔が胡散臭い。
乾いた笑いを残して、結構近かった距離を取るために体を捩る。





「あれ、僕より平助の方がいいの?」
「な、ぁっ!?」
「……平助、過剰反応しすぎだから」
「初心なんだよ」
「そ、総司!」





平助の体に背中が当たった。
首だけ捻れば真っ赤な顔で沖田さんを睨む平助。
怖くないのだが、あからさまに反応されるとこっちまで恥ずかしくなってしまう。





「……あーぁ、何この雰囲気」




うんざりしたような声をしているくせに至極楽しそうな顔の沖田さんは、
あとは若いお二人で。なんてこれまた胡散臭い台詞を残して部屋を出て行った。
春先の温かい季節に火照る顔。
既に意味を成さなくなった手拭いを握り締めて目を瞑る。



神出鬼没。
沖田さんが結局何をしに来たのかなんて考える余裕もなく、
そのまま離れるのも気まずい空気の中私達は二人とも押し黙っていた。







悪くないのはお互い様


じれったい沈黙も、






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