──アメリカに行ってくる。待ってなくてもいい。勝手に決めて何も言わずに出て行くのは俺だからな。お前も自由に生きろ。……じゃあな。


そんな素っ気無い置手紙を残して彼が旅立ってから、もう2年が経つ。鬼斬丸との戦いが終わった数日後に行ってしまったのだから、本当の意味で笑い合ったのは何年前になるか分からない。どうして相談してくれなかったのだろう。どうして私も連れて行ってくれなかったのだろう。そうして泣いてばかりだった私も、高校を卒業して大学生になった。彼は今、どうしているだろうか。


「祐一先輩や名前先輩と会うの、凄く久しぶりな気がします」
「うんうん。前に会ったのは春休みだもんね」
「おい、俺は?」
「拓磨はゴールデンウィークも帰って来たじゃない」
「愛しの恋人が気になってうずうずしてたんだよねー」
「なっ、黙れ名前!」


封印の縛りから解放されてみんなが自由になっても、この輪を抜け出したのは真弘くんたった一人。会わない時間が多くなったとしても、休みになれば自然と集まる私達の中に、彼はいない。連絡も手紙もなし。誰も真弘くんの今を知らないから、必然的に誰も彼の話はしなかった。


「慎司たちの卒業式は戻ってくるからね」
「え?い、いいですよ、そんな」
「いや、俺たちの間ではもう決まっている」
「私達の弟分と妹分が卒業するんだから、しっかり見ておかないと」
「美鶴は答辞読むらしいしな」


珠紀は、大学に進学せずに玉依姫として神社を守っている。高校に行くようになった美鶴も、それを傍で支えている。慎司は言蔵の人とも折り合いを付けて、少しずつ間を埋めているらしい。卓さんは相変わらず茶道や株を続けていて、私と拓磨は祐一先輩に一歩遅れて大学に入った。変わっていく私達の環境。あの頃はそれを酷く寂しいものと思っていたが、仕方のないことかもしれない。変化を見れるのは、それだけ今の私達が前に向かっているということ。……気持ち的には、完全に前向きにはなれないのだけれど。


──……じゃあな。


ふと思い出しては、今でも胸が締め付けられる。もう見ることがなくなった真弘くんのこと。幼いながらも必死に伸ばして繋がっていた手は、いとも簡単に離され、そして届かなくなった。精一杯の見栄と強がりで保たれていた彼の精神は、もうボロボロだったのかもしれいない。全てが終われば、こんな村にはいたくなかったのかもしれない。結局、私では真弘くんを引き止めることができなかった。それどころか、彼がいなくなろうとしていることを知ることすら、できなかった。みんなを縛るものがなくなって、これからはずっと笑っていられると舞い上がっていた私に、真弘くんは村を出る話なんてできなかったんだろう。
待っていなくてもいい。自由に生きろ、と。あの言葉が、どれだけ私を苦しめたかもしらずに。本当に、残酷な人。私は真弘くんが消えたあの時から、彼の言葉に縛られたまま生きている。彼を忘れることができないまま、私を忘れているかもしれない彼を想って、ずっと。



「名前さん、お手紙が届いていますよ」
「手紙?」
「はい。お読みになられますか?」
「うーん…あとで読むよ。部屋に置いといてくれる?」
「かしこまりました」
「ごめんね、ありがとう」


この時の私は忘れていた。大学生になった今、私の住所は此処ではなく大学の寮であることを。宇賀谷家に戸籍がない私に、手紙なんて届くはずがないことを。……そして、私が寮に入ったことを知らない人が、いたことを。






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