■感謝至極!■

* 御礼SS * 発天リーマン的現パロ *

【 吐息の色 】
ついこの間まで暑い暑いって唸ってたんだけど。さみーなー。吐き出した二酸化炭素が白く浮かんで、オフィス街に充満する。もうすっかり冬だ。
なんの不自由もない。
別に懐が寒い訳でもなし。
やり場のない左手だけ、ポケットの中に突っ込んだ。

あーあ。
ガソリンの臭いにビルの陰。太陽なんて見えやしねぇ。
都会ってそんなモンだろ。いや、特にどこをどう田舎を知ってるってんじゃないけど。
この慌しい都会の雑踏、人工的な並木道。
ここを通る度に何もかも色付いて華やかに見えたのは、隣にお前がいたからだって。
それでいいか?

右斜め後ろ、流れるように過ぎてった和風スイーツ店の看板も、真夏の宇治金時から真冬のおしるこにモデルチェンジしてる。
枯葉舞う、並木道。

都内禁煙決まったとき、お前相当ぼやいてたよな。思わず笑ったら怒られたっけ。
お前といると喫煙席ばっかだったから。思わず灰皿ある店探しちゃってんじゃん。

左隣がからっぽになる日。
まさかこんなにアッサリ終結するなんて思わなかった。
なんの根拠もなく永遠だとか思ってしまってたその背中も煙も唇も、散々拡げてとっちらかした思い出と、根拠ないちっさいケンカと共に家を出た。
あーあ。
笑えねぇ。

「……天化」

呟いたら届くか?ま、遅いよな。
結構本気でへこんでるんだぞ、ちくしょ。おかげでミスだらけのサービス残業まみれだ。

「…カギ、」

目の前を遮る遠慮がちな影。差し出された右手。覚えある顔と声。

「…なんだよ」
「カギ、返し忘れてたから」
黒い頭がうつむいた。
「別にいーっての。」
ひらひら舞う枯葉と声と、真っ白な二酸化炭素。
受け取ったら全部、ホントに全部終わる気がして。ポケットの中の手が迷う。
「ジッポー忘れたさ、発ちゃんの部屋」
「ああ…んじゃあ取りにくれば?」
付き合って最初のプレゼントだった銀色のそれ。今更持って帰るコイツの気が知れない。さっさと捨てない俺も俺だけど。

「もっかい、」
「あ?」
「……もっかい、"ただいま"って、言ったらダメさ?」

白が舞う並木道。
思わず傍観者体験なんて貴重なコトしちまった。

「駄目なんて言ってないだろ」

ああ、だめだこりゃ。
あったけーんだもん天化。そりゃー真夏も暑いだろうな。さすが子供体温。
抱き締めたらもう他にいらない。

「ごめん」

場所が場所で、でも時間も時間で、通り過ぎる足並みはガソリンの臭いと共に消えていく。
誰も俺たちに気を止める暇もない。大都会ってそんなモンだろ。

「おかえり、天化」


腕の中に収まってる黒い髪に黒いジャケットに背中に胸に唇に、タバコの匂いに天化の匂い。
胸にも鼻にも突き上げて、込み上げて止まらなくて。
ジタバタ暴れた腕が大人しくなった。
「…ただいま」

――ったく、どうしてくれんだ、また今日も仕事になんないだろ。

「遅いっつの」

隣にいるより、抱き締めた方がずっといい。

あーあ。
誰かさんのせいでこれからまた喫煙席探しだ。もういいや、一生それで。

なんの根拠もなかった筈の"しあわせ"は、こんなとこに落っこちてる。
真っ白い二酸化炭素は、ケンカっ早くてワガママな、俺と天化のしあわせの吐息だった。


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